ひと・市民

『雨水の国の不思議』~下水道、社会、洗濯~ 雨水の国の不思議な人たち

坂井 マスミ(雨水市民の会会員)

徳永さんに出会うまで

平成15年の秋以来、私は自宅で療養をしていました。そして18年の夏の午後、ワイドショーを見ていたら、水の日の特集というのをやっていました。

いろんな話があったけど、私にはそこに映った、雨水リサイクル研究所という変な名前の、ドラム缶みたいなタンクの横で「雨水も分ければ資源だ」と言いながら水鉄砲飛ばしてるおじさんと、「屋根に降る雨水を利用して、下水道に入れなければ、それだけで二酸化炭素が6%削減できる」という大胆な発言の割に画面の奥の遠くの方で地味に説明している東京のどこかの区役所の男の人の、二人に共通する異質な感じが頭に貼りつきました。

でもそれって、具体的にどういうこと? この区役所氏には直接会って話を聞いてみたかったけど、名前を書きとめていなかったから、調べてもその正体はわかりません。

だったら自分で調べるしかないか…、という訳で、平成19年4月1日、都庁下水道広報に電話して、処理にかかっている電力を訪ねた結果は1000ワット/㎥。当時は二酸化炭素排出量を計算するブームでしたが、これには計算したご本人も「へぇ~」って感じ。これを都の下水道局の下水全量に換算すると、これが都内で排出される二酸化炭素6000万tの約2%。6%ではないけれど、これは何かできそうな数字だよね。

それじゃあ、この数字を例の雨水リサイクル研究所のおじさんに見せたら何て言うんだろう。よし、次は向島だ! と向かった先はすぐに見つかって、暑さに向かう時期だったから、引き戸が少し開いていました。暖簾がかかっていたかな。

江戸っ子の職人、家庭用雨水タンク「天水尊」の開発者、徳永暢男さん。

江戸っ子の職人、家庭用雨水タンク「天水尊」の開発者、徳永暢男さん。

「仕事中悪いけど、ちょっと聞いてもいい?」と声を掛けた先にいるTシャツにベスト羽織ったおじさんの愛想のないこと。「俺はいつでもいるとは限らないんだ。今日はたまたまいるだけだ」しょうがないなあ。でも下町の職人なら最初はこんなもんかな。「いると思ったから来たんでしょ。私だって、いないと思ったら来ないわよ!」(―中略―)「テレビの取材が来てもっと笑えって言うけど、そんなに笑ってられるかよ」「だったら、俺はテレビ映りのために仕事してるんじゃねえって言ってやればいいじゃない」(―中略―)「そんなにあれこれ知りたいんだったら金払え!」という訳で私と雨水の関係は、徳永さん(『Webあまみず-ひと・市民』の「実践レポート防災まちづくりから生まれたシンボル・路地尊・天水尊 東京・墨田区・徳永暢男さん」2012.4.15))との押しかけ説教と金払えから始まりました。

地域の中の雨水の不思議

こうして東京の下水についてぼんやり考えていたら、今度は川崎にとんでもない数字があるのを見つけました。下水処理にかかる1㎥あたりの電力は350ワットとごくありふれた数字ですが、墨田同様密集した低平地でありながら、雨水処理にかかっている金額がすごい。合流分流半々の川崎は、人口140万人に対して年間130~140億円。つまり市民一人当たり年間1万円の税金が、雨水を捨てるためだけのために使われている計算です。すごい! でもいつまでこんなこと続けるんだろうね。

川崎の下水には、多摩川から引いた農業用水(二ヶ領用水)の終点が突っ込まれていたり(下水処理した水を放流するのではなく、多摩川を下水処理している)、地下水位が高く、流入する不明水が多かったり(分流地域でも雨の日は処理量が相当増える)、それなりの事情はありますが、その内訳はまだ解明されていません。ここのところ、誰かお願いします。

墨田方式は都市の弱点の強い味方

徳永さんが一番言われたことは、向島は震災と戦災でみんな水を求めて苦しんだ歴史を持つ町なんだってことと、そしてタンクをつけると雨が降るのが楽しみになるだろってことでした。

私が墨田方式をいいと思うのは、区全体の貯留量が見えることです。2万1000㎥、つまり区民1人あたり100リットル弱の貯留能力を備えているわけです。こういう数字があると、地域としてどの辺りを目標にするかイメージしやすいですよね。

 それに墨田の開発要綱(墨田区開発指導要綱)のように、全ての開発行為(敷地500㎡以上)に対して、雨水の貯留と利用を義務付けていけば、東京都の進める木造密集市街地の不燃化・共同化も、建て替えて終わるのではなく、災害に強いまちづくりが建てたところから、元を取りながら始まるんですね。これは他の地域にはない魅力です。下水道局の人には気に入らないかもしれないけど、防災都市づくりを進めるまちであればどこでも、こんな条例欲しいよね。

みんな勝手にやっている~墨田/江東/江戸川/台東

墨田では、雨水は「貯めて使うもの」ですが、同じ東京の低平地にあっても、雨水の受け取り方や取り組み方は各区各様。江東区では「水辺を彩るもの」で、舟運文化の継承と共に、水陸両用の観光船が出ています。江戸川区の人たちは「来たら逃げるもの」で、ゼロメートル地帯の皆さんが屋根に上がる梯子を備えたり、毎月のように上流の貯留能力を確認に行くダムや貯留管の見学ツアーを開催したりしています。何と言っても区の7割がゼロメートル地帯ですからね。田のみなさん、参加されたことありますか。

そして手工業のまち墨田では天水桶や路地尊は実用品ですが、橋を渡って浅草に入ると、台東区は観光と芸術のまちなので、天水桶はオブジェになります。

各区はこんなふうに、いろんなことをばらばらにやっているわけですが、みんなで一斉にやるようになったら、東京の低平地は結構いい町かもね。

この先のことは、ご要望があればまた書かしてもらいますが、今日はここでお終いです。つまらなかった方は、最後までおつきあいいただきご愁傷さまでした。

子どもの頃趣味は、間取り図集め。特技は荷造り。最近は、放っておくと荒らされそうな空地空家に、みんなで朝顔の種を蒔くことを奨励中。

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