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第7回雨水ネットワーク会議全国大会2014 in 福井に参加して(その1)やっかいな雨と雪を恵みに

編集部

2014年8月23~24日(土・日)に福井市内にある福井工業大学で、第7回雨水ネットワーク会議全国大会2014 in 福井が開催されました。主催は福井県内の産官学民で構成された実行委員会です。当会からは7名参加しました。また笠井利浩理事は福井市在住で、この大会の事務局長を務められました。正式な会議の報告書は実行委員会で作成される予定です。

福井は年間降水量2,200ミリを超える雨と雪に恵まれた土地です。しかしながら、過去に2004年の「福井豪雨」、1981年の「56豪雪」、1963年の「38豪雪」などの大きな災害が起こっており、福井では雨や雪は厄介なものと思われがちでした。大会のテーマを「ハッピーレイン ハッピースノー ためて つかって まもる ちえ」とされ、逆転の発想で雨や雪に地域が支えられていることが実感できた大会であったと思います。23日は大人向けの講演や分科会、パネルディスカッションの他、キッズ企画としてすごろくや雨水力発電機(雨樋を利用した発電)の製作ワークショップや手作り浄水器とソーラークッカーで雨水を飲んでみる実験も行われました。

雨や雪に関する講演会

(右上)杉本亮氏による基調講演 (左上)雨水活用により緑のカーテンを育てた福井市立東安居小学校のみなさん (左下)40年に亘り大野の地下水を守る活動をされている野田佳江氏 (右下)パイプから冷たい風が吹き出し、雪エネルギーを体感

(左上)杉本亮氏による基調講演。 (右上)雨水活用で緑のカーテンを育てた福井市立東安居小学校のみなさん。 (左下)40年にわたり大野の地下水を守る活動をされている野田佳江氏。 (右下)大会用に夏まで保存されていた雪に、パイプを突き刺して冷風が吹き出すようにした雪の冷熱エネルギー体験装置。

まず、杉本亮氏(福井県立大学海洋生物資源臨海研究センター)が「若狭流域の水循環と地下水保全の重要性」と題した基調講演をされました。杉本氏は、リアス式海岸の若狭湾で地下水とどのようにかかわっているのかについて、ラドン222という放射性物質を使って調査されています。特に小浜平野は湧水や自噴井戸が数多くあり、小浜市の上水道水源ともなっています。その結果、小浜湾に流入する全淡水(河川水を含む)の約2割が地下水で、河川流量が低下する夏季には4割まで増加することが分かりました。また、地下水は栄養塩(窒素・リン・ケイ素)の供給面で、全陸水由来の各39%、58%、37%と大きな供給源であること、近年中国からの大気汚染物質や森林荒廃の影響から、地下水の窒素酸化物等が上昇する傾向にあることなど、の実態が分かってきました。また、地下水は冬季の消雪水として過剰に利用されるなど、減少傾向にあり、地下水の適正な利用管理や流域全体の環境保全等総合的な対策を講じることが大切であると、論じられました。地下水が自然界に果たす役割は、まだ分からないことがたくさんあるにもかかわらず、利用ルールがはっきりしない状態では、取り返しがつかないのではと、心配が募りました。

その後、土屋秋男氏(国土交通省水管理・国土保全局水資源部水資源政策課)が本年成立した雨水の利用の推進に関する法律の説明をされ、福井市立東安居小学校5年生の皆さんが「雨水活用で育てる緑のカーテン」と題して、寸劇仕立てのユニークな報告をされました。

「大野の湧水 今昔」では、森誠一氏(本願清水イトヨの里館長)、帰山寿章氏(大野市産経建設部建築整備課湧水再生対策室)、野田佳江氏(大野の水環境ネットワーク)の3氏が大野の地下水に関して報告をされました。

森氏は、目に見えない地下水、伏流水を含む河川環境の多様な機能が、自然環境や文化に寄与してきた歴史を振り返り、この20年、30年で危機的状況になってきていることを訴えられました。湧水にしか生きられないイトヨの生息地である大野市では、湧水が減少し続けており、その生息が危ぶまれています。イトヨに代表する里の生物の多様性は、経済的には意味がなくとも、周囲の山や川や海、そこで人が暮らす里の自然と併せ、五感で感得できる風土の要素=「郷土財」として重要なものであり、その環境を守っていくことが大切だと強調されました。

帰山氏は、昭和40年代の井戸枯れ問題を契機に、昭和52年に「大野市地下水保全条例」の制定、平成24年「大野市森・水保全条例」が制定した経緯を述べられました。市では、市民による地下水位監視、地下水汲み上げ規制、冬水田んぼ、ブナ林購入等様々な対策を講じ、湧水文化や伝統の継承をしていく姿勢を説明されました。

最後の野田氏は、89歳の高齢ながら、凛とした口調で、市民として大野の湧水を守ってきた40年間について講演されました。38豪雪や56豪雪で苦労した大野の住民にとって、井戸水を利用する消雪設備は大変魅力的でしたが、1974年に新聞の全国版で大野の井戸枯れが報じられました。これを読んだ野田氏は大変驚き、そこから地下水を守る活動が始まりました。各戸の屋根の融雪装置調査をして市長に知らせ、1977年に地下水保全条例の制定に繋げました。市役所の地下水保全の様々な施策に関わらず、他方では土建業が主体の企業が多く、「上下水道の普及の遅れは近代化の遅れ」と工事が強行されるなど、地下水を守る運動には非常に困難も伴いました。このような実態を何とかしたいと、家族の理解を得て市会議員になりました。議会活動を通じじわじわと市民や役所が大野の水に関心を持って少しずつ動いていくのを感じています。市では、地下水保全施策として冬水湛水等を実施するようになりましたが、わずかな涵養面積では焼け石に水です。九頭竜川の支流である真名川の水の9割が上流で発電に使われ、大きな地下水涵養源である真名川にはほとんど水が流れていません。昭和30年に41か所あった湧水が年々減少し、現在は自然湧水1か所になっていて、状況は危機的になってきています。今は若い世代にバトンタッチをしましたが、”水は命万物の命”であり、直接地下水を守ることにあわせ、節水や森林保全などの活動もしながら、もっともっと水に感謝しなければならないと、話されました。

午後からは、以下のような分科会及びパネルディスカッションが行われました。

 分科会 使う・守る・知る

  • 「使う」:「雪利用の手法と課題」伊藤親臣(公益財団法人 雪だるま財団)、「おいしい水の使い道」奥村充司(福井工業高等専門学校)
  • 「守る」:「流域を守るドラゴンリバー交流会の活動」白崎謙一(NPO法人ドラゴンリバー交流会)、「九頭竜川の用水~歴史と役割~」平井亨弥(九頭竜川鹿堰堤土地改良区連合)
  • 「知る」:「気候変動と福井」原与志治(福井地方気象台)、「ピンポイント降雨予測に向けて」中城智之(福井工業大学)

 パネルディスカッション 「”ハッピーレイン ハッピースノー” ためて つかって まもる ちえ」

  • 話題提供者:福原輝幸(福井大学大学院)
  • パネリスト:江成敬次郎(雨水ネットワーク東北)、橋本肇(株式会社福井洋傘)、誉田優子」(福井工業大学)、浅利裕美(NPO法人エコプランふくい)

    (左)会議が終了後、交流会が開催され、笠井玉喜さんのバイオリンコンサートが聴けた! (右)福井工業大学近藤研究室の協力により、東安居小学校にある高さ10m、幅18mの巨大緑のカーテンで、双方向型のインタラクティブプロジェクションマッピング。みんなの動きに合わせて緑のカーテンがぐんぐん成長するように見える。

    (左)大会終了後、交流会が開催され、笠井玉喜さんのバイオリンコンサートが聴けた!左側の白地に紺の傘は、福井洋傘がこの会議のために特別制作した超高級傘。じゃんけん大会の勝ち抜きで、当会のメンバーがゲットしました。 (右)福井工業大学近藤研究室の協力により、東安居小学校にある高さ10m、幅18mの巨大緑のカーテンで、双方向型のインタラクティブプロジェクションマッピング。みんなの動きに合わせて緑のカーテンがぐんぐん成長するように見えました。

 

 

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