文化

紅茶の色は何で変わる?雨水紅茶の色は薄い!~実験と考察

柴 早苗(理事)

雨水で淹れた紅茶を飲んだことがありますか。水道で淹れたものと少し味も違いますが、紅茶の色が薄いのも特徴です。なぜだろう?こんな単純な疑問を科学的に解明してみたいという思いに駆られ、実験と考察をしてみました。 紅茶には、テアフラビン、テアルビジョンといった特有の色素が含まれ、アルカリ性、鉄や硬度分によって淹れた紅茶の色が違ってくるといわれています。まずは、本当にそうなのかを、実験してみることにしました。雨には鉄分が多く混入することは想定しにくいので、pHと硬度分についての検証実験を行いました。

図1 アルカリ性液と酸性液で淹れた紅茶の吸光度 (アルカリ性液はアンモニア水を添加しpH約10、酸性液は酢酸を添加しpH約3)

図1 アルカリ性液と酸性液で淹れた紅茶の吸光度
(アルカリ性液はアンモニア水を添加しpH約10、酸性液は酢酸を添加しpH約3)

実験1 紅茶のpHを変えてみる(写真1・図1)

紅茶ティーバックを85℃の蒸留水で抽出した後に、アンモニア水を加えてアルカリ性(約pH10)にすると、色が濃くなりました。その紅茶液を分光光度計で測ると、最大吸収は327nmで、400 nmに肩がある波形でした。紅茶を蒸留水で抽出しただけの液を対照とし、それとの差スペクトルで調べたものです。同様にアンモニア水の代わりに、酢酸を入れて酸性(pH3台)にした紅茶抽出液は、色の薄さが歴然とし、蒸留水抽出液との差は少なく低迷した波形(緩い山のトップは356 nmと475 nm付近)となりました。

図2 炭酸カルシウム添加とその後EDTA添加したことによる紅茶の吸光度 (炭酸カルシウム濃度50ppm、EDTAはカルシウム相当量を添加)

図2 炭酸カルシウム添加とその後EDTA添加したことによる紅茶の吸光度
(炭酸カルシウム濃度50ppm、EDTAはカルシウム相当量を添加)

実験2 紅茶の硬度分を変化させてみる(写真2・図2)

硬度分は、水に含まれるカルシウムやマグネシウムの量をこれに相当する炭酸カルシウムの重量に換算して数値で表します。硬度が高い水は硬水、低い水は軟水といわれます。水道水の水質基準は300mg/ℓですが、石けんの泡立ちがしにくくなるのが基準設定の理由です。やかんの口に白い粉が吹くことがありますが、硬度分が析出したものです。

実験2では、蒸留水による紅茶抽出液に炭酸カルシウムを140mg/ℓと72mg/ℓの濃度で添加してみました。ともにpHは5.5前後でしたが、140mg/ℓのものの方が色調は濃く、最大吸収が323nmで、402nmにも低めの山がある波形となり、実験1のアルカリ性液とほぼ同様の波形でした。

また、140mg/ℓの紅茶は、全部溶けた後、冷めるにしたがい沈澱物が出てきました。冷めかかっていた72mg/ℓの紅茶を再加熱したところ、140mg/ℓのものよりも色が濃くなりました。再加熱によって、しっかりカルシウムがポリフェノールと反応してきたものと思われます。

さらに、本当にカルシウムの影響で色が濃くなったのかを確かめるために、紅茶のポリフェノールと反応したカルシウムに相当する量のEDTA(*1)というキレート剤を添加してみました。カルシウムがそのキレート剤に取り込まれ、色が薄くなりました。EDTAはカニのハサミのように4本でカルシウムをがっちり挟んだ形のキレートをつくり、紅茶液からカルシウムを奪う働きをします。紅茶にEDTAのみを加えた試料を対照にして、140mg/ℓ炭酸カルシウムの波形をみると、320nm付近は1/5程度に減少し、400nm付近は低迷した波形になりました。ただし、このキレート生成はアルカリ性である方が適しているため、完璧には進まず、カルシウムは完全にはポリフェノールから外れてこなかったと思われます。一方、EDTAを加えなかったカルシウム入り紅茶は、約20分後に再測定すると403nm付近の吸光度が元の液より約1割アップし、亢進していました。

*1 EDTA:エチレンジアミン四酢酸ナトリウム

写真1 pHの違いよる紅茶の着色。(右)アンモニア水添加 (中)蒸留水 (左)酢酸添加                    写真2 硬度分の違いによる紅茶の着色。(右)0.5%炭酸カルシウム液 (中)約1%炭酸カルシウム液 (左)蒸留水

写真1 pHの違いよる紅茶の着色。(左)酢酸添加 (中)蒸留水 (右)アンモニア水添加
写真2 硬度分の違いによる紅茶の着色。(左)蒸留水 (中)140mg/L炭酸カルシウム液 (右)72mg/L炭酸カルシウム液

写真3 アルカリ金属による紅茶の着色。(左)蒸留水 (右)0.1規定水酸化ナトリウム0.1ml添加

写真3 アルカリ金属による紅茶の着色。(左)0.1規定水酸化ナトリウム0.1ml添加 (右)蒸留水

番外編(写真3)

水酸化ナトリウムをほんの少し加え(*2)ても、紅茶液のpHは6以下のままでしたが、色は濃くなりました。つまり、アルカリ(土類)金属なら、ポリフェノールと反応して、紅茶の色を濃くすると思われます。

*2 水酸化ナトリウム添加:0.1規定水酸化ナトリウム液を、紅茶抽出液40mlに0.2ml加えた。ナトリウムとしては約11.4ppmの添加。

実験3 硬度分の多いミネラルウォーターで調べる(写真4)

硬度分の違いで紅茶の色がどう変わるか、硬度分の多いエビアン、コントレックス、ゲロルシュタイナーのミネラルウォーター(表1参照)を対象に調べてみました。

表1 実験3に用いた水

表1 実験3に用いた水

85℃に加熱した各水検体に、ティーバックを水面下に沈め、20秒保持して引き上げました。3種のミネラルウォーターとも次第に濁り、後に茶色の沈殿物が出現しました。 とくにコントレックスは沈殿物の粒子が大きいためか、早くに沈殿してきました。 ゲロル」シュタイナーは茶系の残さが浮かび、液の表面に膜状のものが出現しました。 色の濃さを比べると、肉眼では3種とも赤系というより茶系(*3)になりました。

*3 茶色の状態:茶色は赤色の明度の下がった状態なので、ほぼ赤色の波長と同じと考えられた。分光光度計で測定すると、エビアンでは最大吸収が332nmで、413 nmにもちょっと低めの山を認め、長波長側に少しシフトしたが、対照の蒸留水抽出よりも短波長側がマイナスに落ち込んだ波形となった。ゲロルシュタイナーは短波長側がマイナスに落ち込んだだけで、はっきりした肩もみられなかった。コントレックスは沈澱が多すぎて澄明液が得られないため、測定せず。

写真4 硬度分の多いミネラルウオーターで淹れた紅茶。右から順にゲロルシュタイナー、コントレックス、エビアン、蒸留水

写真4 硬度分の多いミネラルウオーターで淹れた紅茶。左から順に 蒸留水、エビアン、コントレックス、ゲロルシュタイナー

写真5 雨水紅茶とその他の比較。(右から順に)蒸留水、雨水、水道水、エビアン

写真5 雨水紅茶とその他の比較。左から順に エビアン、水道水、雨水、蒸留水

まとめ

なるほどと納得の結果でした。 改めて4種類の抽出液で淹れた紅茶の写真5を見ると歴然としていますが、硬度分の威力は絶大です。雨水は蒸留水に近く硬度分が少ないため、紅茶を淹れると色が薄いのです。雨水タンクがコンクリート製の場合、設置した初期にはコンクリートからのカルシウムやナトリウムなどの溶出がありますが、一般には雨水は蒸留水に近い水質であるため、硬度分が水道水に比べ少ないのです。pHの要因については、水道水をガンガンに沸騰させ炭酸を除いても、pHは9以上のアルカリにはなりません。したがって通常の紅茶は、硬度分の多寡で色の出方が決まるものと思われます。 余談ですが、水道水をガンガンに沸騰させ炭酸を除くと紅茶は渋みがでておいしくないといわれます。いつかテレビで、あるインド人の紅茶の専門家が、プツプツ細かい泡が底から湧きあがる85℃程度で火を止めて、炭酸が残っている状態で紅茶を淹れるとおいしいと言っていました。実際試してみると、種類が異なってもおいしく淹れられたので、それ以来、私はその流儀です。 紅茶の国、英国では硬度が高いため、逆にしっかり沸騰させで硬度分を析出させ、軟水化した温湯で紅茶を淹れるとのこと。 「過ぎたるは及ばざるが如し」ということでしょうか。以上、長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

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