学術

雨水利用に関する国・学会・団体等の動向

小川 幸正(雨水市民の会理事)

「雨水の利用の推進に関する法律」(以下「雨水利用法」という。)が2014年5月に施行され、国や学会・団体が雨水利用に関して以前に比べてより積極的な動きが出ています。また、関係する学会や団体では、本法律が施行されている前から、すでに雨水利用に関するガイドラインの発行や施設の実態調査などを行っていました。そのため、筆者が関係した学会や団体の最近の動向をお知らせし、雨水市民の会の各種の活動において参考にしていただければ幸いです。

国の動向

2014年5月に施行された雨水利用法の大きな骨子は以下の通りです。

1.目的(第1条):雨水の利用を推進し、もって水資源の有効な利用を図り、あわせて下水道、河川等への雨水の集中的な流出の抑制に寄与。

2.定義(第2条):「雨水の利用」とは、雨水を一時的に貯留するための施設に貯留された雨水を水洗便所の用、散水その他の用途に使用することをいう。

3.基本方針(第7条~9条):国土交通大臣が、雨水の利用の推進に関する基本方針を定める(第7条)。都道府県は都道府県方針(第8条)を、市町村は市町村計画を定めることができる(第9条)。

4.目標(第10条~11条):国は、国及び独立行政法人等が建築物を整備する場合における自らの雨水の利用のための施設の設置に関する目標を定め(第10条)、地方公共団体及び地方独立行政法人は建築物を整備する場合における自らの雨水の利用のための施設の設置に関する目標を定め、及び公表するよう努めるものとする(第11条)。

図1 雨水の利用の推進に関する基本方針の中での目標の概要(出典:国土交通省ホームページ)

図1 雨水の利用の推進に関する基本方針の中での目標の概要(出典:国土交通省ホームページ)

また、この法律に基づいて、国は「雨水の利用の推進に関する基本方針(2015年3月10日)」を策定しました。内容は以下の通りで、国等の施設は新築建築物では基本的に雨水利用を100%設置していくことになりました。

1.雨水利用推進の意義

2.雨水利用方法に関する基本的な事項

3.健康への悪影響の防止その他の雨水の利用に際し配慮すべき事項

4.雨水利用推進に関する施策の基本事項

5.その他雨水利用推進に関する重要事項

6.目標の概要:国及び独立行政法人等は、「最下階床下等で雨水の一時的な貯留に活用できる空間」を有する新築建築物において雨水利用施設の設置率を原則100%とする(図1参照)。

表1 雨水利用に関する主な団体・学会

表1 雨水利用に関する主な団体・学会

雨水利用に関係する団体や学会の動向

雨水利用に関係する団体や学会を表1にあげました。この中で、以下の4つの団体について説明します。

①日本建築学会における動向

日本建築学会は、建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達をはかることを目的とする学術団体です。雨水活用に関しては、2011年7月に「雨水活用建築ガイドライン」(日本建築学会環境基準)を発行し、雨水を「かりる」、「かえす」、「つくる」ための基本から実践までを、設計、製品、施工、運用に分けてまとめました。

蓄雨の概念図及び住宅の要素技術さらに2016年3月には「雨水活用技術規準」(日本建築学会環境基準)を発行し、「蓄雨(ちくう)」という新しい概念を提示しました。雨はこれまで下水道や河川へ集中的に流してきましたが、これからはできる限り分散させて活用する方式へ転換して行く必要があり、その基本的な考え方が「蓄雨」です。すべての敷地で100㎜の降雨に対応する規準を設けました。蓄雨は、「治水蓄雨」(治水のために一時貯留)、「防災蓄雨」(災害時用に最小限の用水を確保する)、「環境蓄雨」(浸透・蒸発散で循環性能を向上する)、「利水蓄雨」(雨水の積極的活用をする)の4つの側面から統合的に管理する技術で建築を起点とし、まちづくりに活かしていく必要があります(図2参照)。

例えば、戸建て住宅では、蓄雨の技術の要素として、雨池、雨溝、緑化・屋上緑化、浸透ます・浸透トレンチ等の雨水浸透、トイレ洗浄水、屋上散水等の雨水利用などがあります(図3参照)。このような技術を取り入れた場合は、個々の技術の評価ではなく、雨水収支、コスト、低炭素、要素技術、感性技術の5つの観点から評価し、点数化して、総合評価をすることで、雨水活用の効果を評価していくことが求められます。

日本建築学会では、雨水活用推進小委員会(筆者を含め当会の会員も数名参画)を設け、雨水活用技術規準等の普及啓発活動を進めています。「蓄雨」の概念を分かり易く解説した「蓄雨~雨をとどめる街づくり~」というアニメーション(福井工業大学の笠井利浩教授・近藤晶講師制作)を作りました。また、8月24日から始まる日本建築学会大会(九州)でこれまでの成果を発表します。

②空気調和・衛生工学会の動向

空気調和・衛生工学会は、暖冷房・換気、給水・排水、衛生設備などの設備とその仕組み・原理などに関する研究者で構成する学術団体です。雨水活用については「雑用水設備小委員会」で研究成果をまとめています。2015年度空気調和・衛生工学会大阪大学大会では、「排水再利用ならびに雨水利用に関するアンケート調査の報告」を発表しました。また、2016年度の鹿児島大学大会(9月14~16日)では、「雨水利用施設に関するアンケート調査結果の報告」を発表する予定です。これらの実態調査では維持管理が不十分であることが分かり、雨水利用施設における機器・測定器の管理、水質・水量管理、保守管理全般について「雨水利用運用マニュアル」を作成しています(2016年度中に作成予定)。

③公共建築協会の動向

公共建築協会は、国及び地方公共団体等の公共建築物に携わる技術者で構成する公益法人です。雨水利用法の施行に伴い、国土交通省が「雨水利用設備・排水再利用設備計画基準平成28年版」を制定しました(2016年3月30日)が、これまでの「排水再利用・雨水利用システム計画基準・同解説」(平成16年、監修:国交省大臣官房官庁営繕部、編集・発行:公共建築協会)を改訂し、「雨水利用設備・排水再利用設備計画基準・同解説」として、2016年度中に公共建築協会が発行する予定です。

基準の内容としては①排水再利用中心から雨水利用を主体に変更し、計画基準のタイトルも雨水利用を先にもってきたこと、②雨水利用設備は水資源の有効利用以外に、下水道などへの雨水の集中的な流出抑制効果を重視していること、③雨水利用設備は、原則として屋根面から集水すること(計画基準は浸透設備は含まず)、④雨水や再生水の利用水質は、建築物衛生法で定めた水質を確保すること、⑤雨水利用設備の処理装置で導入実績の少ないマイクロストレーナーは、装置の説明の対象から外したこと、⑥稼働施設の現地調査に基づき、地下水槽・ろ過装置・消毒装置等の維持管理し易さへの配慮を追加したこと、⑦排水再利用設備では、原水に厨房排水を含む事例が多いため、厨房排水の油分濃度等を追加したことなどです。

④NPO法人雨水まちづくりサポートの設立

雨水活用は、上記したように雨水利用法の施行に伴いハード面は整備されつつありますが、産官学民の多方面に普及啓発をさらに進めていかなければなりません。雨水技術者の検定、雨庭・雨いえの認証、雨庭コンテスト、雨いえコンペ等の普及啓発活動、自治体雨水計画づくり支援等を行う活動をする必要があります。このため、2016年7月にNPO法人雨水まちづくりサポートが立ち上げられました。今後の活動をご期待ください。

(この記事は、2016年7月16日、雨水市民の会主催の「雨水活用研究・活動発表会」にて発表した内容をまとめたものです。)

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