ひと・市民

辰濃和男さんを偲ぶ 〜村瀬 誠さん

村瀬 誠(雨水市民の会 理事)

写真1 1994年8月に東京の墨田区で開催された「雨水利用東京国際会議」には16カ国、8千人が参加した。

写真1 1994年8月に東京の墨田区で開催された「雨水利用東京国際会議」には16カ国、8千人が参加した。

辰濃和男さんは1975年から13年間にわたって『天声人語』を執筆され、その中で繰り返し、繰り返し雨を活かすことの大切さを訴えてこられました。私と辰濃さんとの出会いも、37年前、私が墨田区の職員だったころ、新国技館への雨水利用の導入を日本相撲協会に働きかけるよう区に提案したことを天声人語で取り上げていただいたことがきっかけでした。

以来、辰濃さんは、1994年に墨田区で開催された「雨水利用東京国際会議」(写真1、2)の実行委員会会長、それに続く「雨水利用を進める市民の会」から「雨水利用を進める全国市民の会」及び「雨水市民の会(NPO法人化前)」にいたるまで、会長として約10年間、雨を活かす市民活動に尽力されました。私は事務局長として関わらせていただきました。

写真2 24年前に開催された「雨水利用東京国際会議」では、辰濃和男さん(左奥)は実行委員会委員長を勤められた。

写真2 「雨水利用東京国際会議」では、辰濃和男さん(左奥)は実行委員会委員長を務められた。

その頃を振り返って今も強く印象に残っているのは、ある時、辰濃さんが「雨水利用という言葉は、まるで雨をモノのように捉えていて違和感がある。雨にもいのちがある。沖縄では昔から雨のことを玉水と呼び雨を大切にしてきた。地球のあらゆる生きものも、私たちの暮らしも文化もこの雨のいのちによって支えられているのに雨水利用という言葉からはそれが伝わってこない。」と主張されたことでした。そこには、単に水道水がどれくらい節約できたとか、いくら儲かったといったことではなく、雨に感謝し畏敬の念を持って雨を有効に活用させていただくという、もっと深い思いが込められていたように思います。

この辰濃会長の問いかけが契機となり、雨水利用を進める全国市民の会の面々も、雨そのものや雨と気象、くらし、文化及び生命の関係についてもっと知りたくなり「雨の事典プロジェクト」が始まりました。それは、数年かかって雨の万華鏡ともいえる世界初の『雨の事典』として実を結びました(写真3)。そして、このプロジェクトを通じて会員一同、辰濃さんが言わんとしたかったことに心から納得し、雨の民族の末裔として、“雨をもっと大切にもっと有効に”という思いを込め、2003年に会の名称を「雨水市民の会」に改めました。

写真3 2001年12月に発行した「空と海と大地をつなぐ雨の事典」(レインドロップス編著・北斗出版(現在は雨水市民の会で出版))及び前著の英語版「SkyWater」(2003年3月・雨水利用を進める全国市民の会発行)

写真3 2001年12月に発行した「空と海と大地をつなぐ雨の事典」(レインドロップス編著・北斗出版(現在は雨水市民の会で出版))及び前著の英語版「SkyWater」(2003年3月・雨水利用を進める全国市民の会発行)

辰濃さんに直接ご報告できなくなってしまい残念ですが、御霊前に捧げたい良い知らせがあります。一つは、雨水利用を進める全国市民の会のころから取組み始めたバングラデシュにおけるソーシャルプロジェクト、“スカイウォータープロジェクト”です。水汲みから解放し深刻な地下水のヒ素汚染や塩害を解決するために、低所得者層にも手が届く容量が1トン規模のローコストタンクが2011年に完成しました(写真4)。私は、このタンクを天からの恵みに感謝し有効に活用させていただくという思いから”AMAMIZU”と命名しました。スカイウォータープロジェクト開始から17年が経過しましたが、テロの脅威などいろいろな困難な状況がある中で、沿岸地域を中心に設置されたAMAMIZUは3000基を超えるまでになりました。

もう一つは、スペイン語版の『やってみよう雨水利用』の完成です。23年前の雨水利用東京国際会議後に出版された同著の英語版である“Rainwater & You -100 Ways to Use of Rainwater – ”が、メキシコ雨水利用協会の手によりスペイン語で翻訳され、2017年11月にメキシコにおいて出版されました。すでにポルトガル語版がブラジルで出版されていますから、“Rainwater & You”は、北米、中南米のすべての国で活用できます。これらの国の水危機に大いに役立つことを期待したいと思います。

雨は大地と海と空の間を循環しながら生命と文化の時を刻んできました。日本の空は世界の空につながっています。時空を超えて辰濃さんの雨への遺志が伝わり、地球規模で雨に感謝し、雨を活かし、そして雨を分かち合うことが当たり前になり、平和で幸福な社会が一日も早く実現することを心から願っています。

写真4 雨水市民の会理事でもある村瀬誠さんは、飲み水である地下水のヒ素汚染や塩害化のため利用が難しくなっているバングラデシュで、雨水タンクの普及を図る活動を事業化している。

写真4 雨水市民の会理事でもある村瀬誠さんは、地下水のヒ素汚染や塩害化のため安全な飲料水が得にくくなっているバングラデシュで、雨水タンクの普及を図る活動を事業化している。(編集部記)

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