2018.08.20
雨水活用の修景施設
麓 雄二(会員・H29年度すみ夢プロジェクトの「雨のつぼ庭」一部制作担当)
庭の片隅に雨水を活用した散水施設として、周囲の環境に配慮した「水の流れを楽しむ場」づくりをしています。写真を通していくつか事例を紹介します。
いずれも、屋根から雨を集めて一旦貯水タンクにためたものを、水位調整しながら水鉢に流したり水路を通じて流したり(システムA)、モニュメントから噴水のように吹き出したり(システムB )、水の流れに変化を与え演出を楽しむものです。
写真1は、銭湯「御谷湯」の入口前のスペースに作った小さな庭です。「遊水」と名付けました。水鉢から水を汲み上げると、水位が低くなり、山のモニュメントから雨水が吹き出し水路を伝わりて流れ、水鉢が一杯になります。写真2は、同じ施設ですが、地下に貯められた5トンの雨水貯水タンクからトイレ洗浄に使われている雨水を一部分け、いぶし銀の水鉢の底から雨水が湧き上がる仕組みです。枯山水に仕立てられた空間に、地面に埋めてある甕を仕掛け、雨水が落ちてきれいな水音が響く「水琴窟」の音が聞こえます。
写真3の左は、そば屋さんの店先に演出した雨水アート「竹林の風」です。建物の横のエアコン室外機の上の空間を利用して、架台を組みタンクを繋げて180ℓを設置しました。黒竹の中にモニュメントを置き、そこからの雨水が竹筒を通して水鉢に流れるようにしてあります。かすかな水音を聞いて、ほっとする空間です。
写真4は、水盤上の円錐形頂部より雨水があふれ出し、銅管を通して水鉢へ流れる水の動きと音を楽しませてくれます。江戸時代に水争いが続いた地域で、誰もが見える形で水を分配する装置「円筒分水」を模して製作しました。
写真5は、2階ベランダの雨水タンクからの落差を利用して、オブジェへ雨水が流れます。オブジェ内に防水LEDテープを巻き付け、タイマーで夕方になると自動点灯する仕掛けになっています。また、オブジェのある大きい水鉢にはメダカを飼っています。水やりは水鉢とつながっているサブタンクから汲み出して庭木にやります。「あかり」と名付けました。
写真6は、既存の庭岩を渓谷に見立て、水の流れをデザインしました。雨水は、水位調整タンクの注ぎ口から水路へ落ち、「せせらぎ」のような水音を立てて岩の間を下り、水鉢へ注ぎます。
写真7は、2階ベランダに設置した雨水タンクからの落下する水を、高さ150cmのモニュメント頂部から吹き上がる様子を楽しめます。その後、水は階段状に流れ水鉢へ注がれます。その流れの水が水鉢の縁を叩く音も心地よい「落水」です。
写真8は、丘陵地の広い敷地にある幼稚園内に作りました。傾斜地を活かして石積みを施し、元々あった雑木を取り込んで「渓谷」を表現し、雨水はそこから滲み出る湧水をイメージしています。直径110cmの大型水盤に周囲のモミジが映り込み、周りとの一体感を醸し出しています。
写真9は、雨水市民の会が平成29年度の「隅田川森羅万象墨に夢(すみゆめ)」プロジェクトの一環として実施した「雨のつぼ庭づくり」で、事務所の玄関部分に製作したものです。事務所がある墨田・向島地区は、住宅が密集して庭もほとんどありませんが、市民の会は、こんな地域だからこそ、少しのスペースでも雨を貯める仕組みを作り、「水の音」を楽しんでもらう、というコンセプトでつぼ庭づくりを行いました。
写真10は、事務所前の住宅に協力していただいて、わずか30cmの幅を利用して北斎にちなんだ「富士」を演出しました。タンクは、ネットに蔦を這わせ、同じプランターを使って5個の内3個を雨水を貯める水槽としました。
この記事は、平成30年度雨水市民の会研究・活動発表会(2018年7月21日)で発表報告されたものを編集し直しました。
工房陶水 主宰。竹や陶器などの自然素材を使用して、雨水を楽しむ庭の空間デザイン、制作を行っている。工房陶水HP:tou-sui.com