ネットワーク

〜その3〜 国、市民、事業者、学会からの報告

Webあまみず編集委員

(「第11回雨水ネットワーク全国大会 2018 in 東京」レポート)

🔵行政:「雨水の利用の推進に関する法律」施行後の展開

鳥居隆之氏(国土交通省水管理・国土保全局水資源部水資源政策課)

平成26(2014)年5月に雨水法が施行し、国や独立行政法人が率先垂範して雨水利用をするとともに、地方自治体は雨水利用の推進に関する施策を講じる努力義務が課されました。国ではこの法律に基づいた初めての建物として、警察庁近畿管区警察学校設備棟(延べ面積420㎡、貯留量18.5㎥)が平成28年度に完成し、平成29年度以降には約30棟の建築物に雨水利用設備が予定されているそうです。

また、国土強靭化基本計画(H26.6)や気象変動適応計画(H27.11)では、大規模災害や渇水時の代替水源として雨水が有効な水源とされています。実際に2016年の熊本地震で、雨水利用施設である熊本合同庁舎(貯留量100㎥)では、水道が使えない時にも避難者がトイレを利用することができました。

雨水利用を普及するためには、市町村が大きな役割を果たしますが、雨水利用に関する「市町村計画」の策定はまだ途上です。国では、既存の環境基本計画や地域防災計画等の計画に雨水利用の推進に関する事項を追記するなど、積極的な相談、対応をしていきたいそうです。

🔵市民:「雨を活かしたまちづくり、ひとづくり」

川みちる氏(NPO法人雨水まちづくりサポート理事・NPO法人雨水市民の会理事)

市民の立場から雨を活かした松づくりやひとづくりの活動を紹介する笹川みちる氏

市民の立場から雨を活かしたまちづくりやひとづくりの活動を紹介する笹川みちる氏

これまでの雨水管理は、治水対策の一環として、下水道や大型施設の「雨水貯留」などハード的なものを中心に整備されてきました。しかし、近年の豪雨は一時に限られた場所に集中し、しかも頻発の傾向にあります。そこで、まち全体で面的に雨をとどめ、下水道や河川への雨水流入の負荷を抑えるため、NPO法人雨水まちづくりサポートでは「蓄雨(ちくう)」の実践と普及啓発の活動を行っています。「蓄雨」は、防災、治水、利水、環境の4つの側面から流域全体で、面的に雨水管理をしようという考え方です。

雨水市民の会とも連携を図りながら、雨水活用技術に加え、国や自治体の制度を幅広い層に伝え、ライフスタイルと結びついた実践につなげていく事業を実施しています。大きく3つの柱があります。①現在ある雨水活用施設の適切な維持管理をする技術者の養成のため「雨水活用施設維持管理技士」や「雨水塾」の実施、②優れた蓄雨性能を有する敷地をトータルで評価し認証する制度、③雨や水循環と生活との関わりを楽しみながら知識や見識を深める「雨水検定」です。

🔵事業者「節水村(通販サイト)の販売統計と新商品の紹介」

日高規晃氏(株式会社日盛興産代表取締役社長)

節水村は雨水タンク専門サイトとして2008年5月に開店し、現在、150種類の雨水タンクを販売しています。日高氏の店舗での10年間の雨水タンクの販売統計によると、都道府県別の販売数量では、神奈川県、東京都、愛知県、大阪府、兵庫県の順番、雨水タンクの容量では、101〜200リットルのものが一番多く55%、次に201〜300リットルが30%を占めているそうです。Googleでの「雨水タンク」の検索数の推移は、2011年5月をピークに現在、20〜25%までに落ちていますが、エコロジー志向の需要が一巡したと、日高氏は推測しています。また、以下のような雨水タンクの商品の紹介をされました。

・「ホームダムRWT-330」貯水量330ℓ(コダマ樹脂工業(株)):タンクが2つに分かれていて、普段は雨水を貯めて利用するが、緊急時には1つのタンクに上水を貯めることができる。

・「天水うるる」貯水量100ℓ(サンエービルドシステム(株)):1台の雨水タンクで、貯留量を超えた分は浸透ますから地下に浸透できる。

・「Rain Harvest150」貯留量150ℓ((株)日盛興産):タンク内部の沈殿物をメンテナンスフリーで排除できる。

🔵学会:「雨水を取り巻く『各学会の動向』」

岡田誠之氏(東北文化学園大学名誉教授)

2014年の雨水法制定以降の国や学会の動きを紹介されました。

・国:従来からの国の施設の設計マニュアル「雨水利用・排水再利用設備計画基準」を2016年に改定。

・空気調和・衛生工学会:「雨水利用マニュアル」(S62)、「雨水利用システム 設計と施工」(H9)、「雨水利用の実務の知識」(H23)を発行していた。法制定後、「雨水利用運用マニュアル」を内部資料として作成したが、その内容はNPO法人雨水まちづくりサポートが実施する「雨水活用施設維持管理技士」の講習のテキストに反映している。

・日本建築学会:「雨の建築学」(1999)「雨の建築術」(2005)「雨の建築道」(2011)を出版し、雨水活用の現状把握、啓蒙普及を行ってきた。その後「雨水活用建築ガイドライン」「雨水活用技術規準」を発行し、雨水活用を「利用」のみならず、浸透や蒸発散などの水循環から捉え、「蓄雨」の概念で雨水活用の総合評価をする方法などをまとめている。

第11回雨水ネットワーク全国大会 2018 in 東京(報告) 〜その1〜

〜その2〜 基調講演:「気象災害の犠牲者はなぜ減らないのか」

〜その4〜 雨活レポート:福岡、松山、大阪、東京、東北、福井、愛知、東京、広島からレポート

〜その5〜 パネルディスカッション「未来から見える未来」

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