文化

すみだ、雨の三十六景〜雨の日のまちを楽しもう!

笹川みちる(雨水市民の会理事)

雨水市民の会では、2016 年から東京都墨田区で「すみゆめ」プロジェクトに参加し、アートを入り口に、まちやくらしに息づく雨水活用を実践してきました。3 期の企画助成を経て、これからは会の独自事業として継続する計画です。

雨の日のまちの景色を楽しむことをきっかけに、降ってきた雨のゆくえはどうなっているのか、雨が活かされ、健やかに水がめぐるまちを未来につないでいくにはどんなことができるのか、地域のみなさんと考える機会を創っていくことをめざしています。

「すみゆめ」プロジェクトとは

図1 葛飾北斎「新柳橋の白雨」

図1 葛飾北斎「新柳橋の白雨」

当会が拠点をおく東京都墨田区は、世界的画家として高く評価される葛飾北斎(図 1)が、その生涯のほとんどを過ごしたと言われるまちです。そのゆかりの地に、2016 年 11 月「すみだ北斎美術館」が開館し、これを契機に「隅田川 森羅万象 墨に夢(通称:すみゆめ)」プロジェクトがスタートしました。

墨で描いた小さな夢をさまざまな人たちの手で色づけしていくように、芸術文化に限らず、森羅万象あらゆる表現活動を行っている人たちがつながりながら、この地を賑やかに彩っていくことを目指すアートプロジェクト」(*1)として、墨田区文化振興財団が事務局を担い、公募による助成企画を年間 15 ~ 30 件程度行うほか、アーティストを招聘した主催企画、助成を伴わないネットワーク企画等を、区内および隅田川流域で展開しています。関係団体や関心のある個人が、月1回の「寄合」の場で、交流を続けています。

*1 :「すみゆめ」ウェブサイトより http://sumiyume.jp/about/

すみだは、雨水活用先進地?

写真1 「路地尊」2号基。区内に合計21基設置されている。

写真1 「路地尊」2号基。区内に合計21基設置されている。

墨田区は国内では最も早く雨水貯留、利用に取り組み始めた自治体で、公共施設での雨水タンク設置、住宅向け雨水タンクへの助成金制度、条例による民間での大型開発時の雨水貯留の導入などが全国に先駆けて行われてきました。海外からの注目度も高く、当会でも内外に向けた事例紹介や視察希望への対応を行っています。

他方、取り組みが始まって 30 年余りが経ち、住民の間で雨水活用が話題に上る機会は少なくなっていると感じます。マンション住まいで雨水タンクを設置することが難しい方が増え、地下の雨水タンクは、建物が完成してしまうと外からでは存在がわかりません。ためた雨水を地域住民で共有する、すみだならではの「路地尊(ろじそん)」も、水源が雨水であることを知らない方がいます(写真 1)。外からの評価の一方、地元で雨水への意識をいかに盛り上げるかということが課題でもありました。

折よく「すみゆめ」の企画募集がスタートし、これまで前面に出ることが多かった「環境配慮」「気候変動への市民レベルの対策」「防災」といった切り口に対して、「生活文化として雨を楽しむこと」を打ち出した取り組みを墨田区で展開することになったのです。

新旧の雨水活用を発信する「すみだ雨の三十六景」

「すみゆめ」では、2016,17,18 年と採択いただき、4つの企画を実施しました(表 1)。ここでは、「北斎に魅せたい未来のすみだ」(*2)を除き、直接雨水活用に関わる企画をご紹介したいと思います。

表1 雨水市民の会「すみゆめ」参加企画

表1 雨水市民の会「すみゆめ」参加企画

企画の中では、下記の 2 つの要素を年ごとに組み合わせて実施しました。どちらも「雨」を目に見える形でまちの中に提示し、驚きや美しさ、楽しさをきっかけに、雨を意識してもらうことをめざしたものです。

 *2:Webあまみず2016.11.11掲載。「あまみずno.59 Webあまみず撰集」P9に掲載

●「雨の日を楽しむ絵画(雨の日アート)」

撥水剤を用いて地面に絵を描くと、乾くと何も見えなくなりますが、雨が降ると絵柄が浮かび上がります。雨の日だけ楽しむことができるアート作品です。年ごとに規模を拡大し、2016 年には鳩の街通り沿いの敷地で、2017 年にはすみだ北斎美術館前、墨田区役所前うるおい広場等で、2018 年にはすみだ北斎美術館に加え、お寺やカフェの敷地で制作を行いました(写真 2)(*3)。

写真2「雨の日アート」 (左)すみだ北斎美術館前、(中)墨田区役所うるおい広場、(右)大横川親水公園ささやカフェ前

写真2「雨の日アート」 (左)すみだ北斎美術館前、(中)墨田区役所うるおい広場、(右)大横川親水公園ささやカフェ前

北斎の作品からモチーフを選んだり、敷地の所有者との相談で絵柄をデザインしています。作品の寿命は、制作場所の材質や通行量によって変わりますが、ほとんどが 2 週間から数か月で自然に消えてしまいます。

SNS に掲載した画像等を見たイベント会社から制作方法等について問い合わせもあります。話題になることはとてもありがたいのですが、視覚的なインパクトを優先させてしまうと、作品が大型化して、撥水剤の使い過ぎが心配になったり、雨の日を待たずに、見せたいタイミングで水を撒くといったことにもなりかねません。

「雨の日アート」はあくまでも、背景にある雨水活用の考えを伝える入り口として、より環境負荷が少ない手法を工夫し、身の丈に合った規模で続けていきたいと考えています。

*3:所有者の許可を取り、施設や住宅敷地内で制作しています。

●「雨のつぼ庭」

「雨のつぼ庭」は、プランターや水鉢などを使って、雨どいからの雨水の一部を下水道に流れ込む手前で受け止めるスポットです。寄せ植えの植物や水の流れといった小さな景観を楽しむことができます。2017 年に3 カ所制作し、「さくら」「富士」「水の音」と命名しました(写真 3)。

今後も、廃品の再利用、企業協力等で資材を調達し、住人に負担がかかり過ぎない方法で、下町の家々の小さな隙間をねらって少しずつ増やしていきたいと考えています。

さらに、複数のつぼ庭があることで、数軒の区画単位で見たときにどのぐらいの量の雨を蓄えることができるのか、その効果の計測にも取り組みたいと考えています。小さなスポットでも、集積すれば、まちを洪水から守る一助になります。効果が実証されれば、雨水タンクの設置に助成金が出るように、近い将来、「雨のつぼ庭」にも助成が得られるようになるのではないかと思います。

写真3 「雨のつぼ庭」 (左)うどんぜんや前の「さくら」、(中)雨水市民の会事務所向かい側の「富士」、(右)雨水市民の会事務所前の「水の音」

写真3 「雨のつぼ庭」 (左)うどんぜんや前の「さくら」、(中)雨水市民の会事務所向かい側の「富士」、(右)雨水市民の会事務所前の「水の音」

「雨の日アート」と「雨のつぼ庭」に、「路地尊」等の以前からの雨水活用スポットを加え、フェイスブック、ウェブサイトやオリジナルマップで紹介しています。

これらの取り組みを、北斎の代表作「富嶽三十六景」になぞらえ、「すみだ雨の三十六景」として発信し 、雨の日ならではの情景を楽しむライフスタイルを提案していきたいと考えています。

(当会が2019年7月に発行した「あまみずno.60」に掲載)

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