学術

五島列島赤島活性化プロジェクト 〜雨まちづくりで目指す持続可能な離島振興

笠井利浩・近藤 晶(雨水市民の会会員・ともに福井工業大学)

五島列島赤島は雨水のみで生活用水が賄われている島です。笠井利浩さんと近藤晶さんは、この島の活性化のため、雨水活用を島の魅力として観光資源にできないかを模索しています。今回は、2019 年 5 月までの最新情報を加えて改稿いただきました。今後の活動の成果を大いに期待したいと思います。(Web あまみず編集部)

はじめに

図1 長崎県五島市赤島の位置

図1 長崎県五島市赤島の位置

赤島の雨水による給水システムを軸としたプロジェクトは、島民の生活用水に対する水質面の安心、渇水による水不足に対する安心を満たすだけではなく、島の人口増加や経済活動に関する問題緩和をも目指すものです。離島にとって最大の問題は、島民減少による無人島化であり、そのためには I ターン者、特に若い年齢層の移住が望まれます。島に安心して使える給水システムが実現することで宿泊施設等の営業も可能となり、現在皆無である島内における経済活動が活性化されることで、離島赤島が抱える持続可能性の問題解決への糸口を探っています。また、本プロジェクトで開発・実証試験を行う雨水を水源とした給水システムは、日本国内の他の島への応用の可能性もあり、今後の小規模給水インフラシステムとしての可能性を持っています。

写真1 長崎県五島市赤島の高精度航空写真(福井工業大学近藤研究室撮影)

写真1 長崎県五島市赤島の高精度航空写真(福井工業大学近藤研究室撮影)

赤島とは

赤島は、長崎県五島列島福江島の二次離島(図 1、写真1)であり、面積は 0.52㎢と、東京ディズニーランド程の大きさの島です。人口は 1918(大正 7)年、85 世帯 463人を最高に減少し、現在は 13 世帯 18 人です。この島は、日本国内では数少ない水道施設の無い島であり、全生活用水を雨水に依存しています。そのため、島内全戸に数㎥~ 20㎥規模の雨水タンクが既に設置されています(写真 2)。年間降水量は 2000 ~ 2400㎜で、夏多く、冬は少しの降雨です。

写真2 赤島島内の戸建て住宅と各戸用雨水貯留槽(右:戸建住宅、左:公民館用)

写真2 赤島島内の戸建て住宅と各戸用雨水貯留槽(右:戸建住宅、左:公民館用)

雨水給水システムの構築

現在、島内各戸に設置されている雨水タンクでは、風呂水等の多量に水を消費する用途へ給水が十分ではありません。本プロジェクトでは、井戸や河川などの一般的な淡水源に頼らず、雨を水源とした集落給水システムを開発・構築し、その可能性に関する実証実験を行うことを目的としています。効率よく雨水から飲用レベルの水を低コストで供給するため、黄砂や PM 2.5 などの大気中の汚れを含む初期雨水を除去する集雨装置の他、最終浄水装置としての小型 RO* 浄水器等で構成されています(図 2、写真3)。RO は、海水淡水化システムにも利用されている技術ですが、水源を蒸留水に近い水質を持つ雨水にすることで、浄水効率の向上(小型 RO システムが適用可)やメンテナンス費用の低減が図れます。

*RO:逆浸透膜のこと。以下Wikipediaより…逆浸透膜(ぎゃくしんとうまく)とは、ろ過膜の一種であり、水を通しイオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ膜のこと。孔の大きさは概ね2ナノメートル以下(ナノメートルは1ミリメートルの百万分の一)で限外ろ過膜よりも小さい。
図2 赤島雨水活用給水システムの概略図

図2 赤島雨水活用給水システムの概略図

写真3 雨の集水面「雨畑」(2017年8月設置)と大型雨水貯留槽(3㎥×2基、2018年8月設置)

写真3 雨の集水面「雨畑」(2017年8月設置)と大型雨水貯留槽(3㎥×2基、2018年8月設置)

島内各戸に設置されている雨水タンク内の水質測定結果を示します( 表1)。雨水タンクの材質や槽内コーティングの有無で多少水質は異なりますが、全ての家で海塩による影響が見られます。また、場所によっては異常に高いイオン濃度を示しています。これは、M 邸に設置されている小型 RO 浄水器の排水を雨水タンクに戻しているためであり、それによってイオン類が濃縮していたためです。

表1 島内各戸設置の雨水タンク内の水質検査結果

表1 島内各戸設置の雨水タンク内の水質検査結果

図3 赤島プロジェクトHP(しまあめラボ)

図3 赤島プロジェクトHP(しまあめラボ)

雨水生活のブランディング

現在、赤島島内には公的に認められた宿泊施設やキャンプ場などは無く、観光産業としての収入が見込めない状況にあります。これらの施設を運営するためには、前記のような給水システムが不可欠ですが、それだけでは島の活性化には繋がりません。本プロジェクトでは、国内でも希な雨水で生活するライフスタイルを赤島周辺の豊かな自然を含めてブランディングし、国内に発信することで観光客の誘致を図り、島の活性化につなげる取り組みを模索しています。ドローンで撮影した動画等を用表いた赤島のプロモーションビデオ(PV)制作や、本プロジェクト専用 Facebook や HP「しまあめラボ」(図 3)での各種情報発信を行い、赤島のPR を行っています。また、持続可能な観光資源の開発を基本とした島内での観光産業を模索・実現する予定です。

図4 赤島での環境教育「雨水生活体験」チラシ

図4 赤島での環境教育「雨水生活体験」チラシ

赤島における持続可能な離島振興策

赤島島民に赤島の魅力を問うと多くの方が何も無く、静かなところだと答えます。本プロジェクトでは、この赤島の魅力の維持と経済活動の両立を目指す方法の一つとして、環境教育に取り組んでいます(図 4)。2019 年3 月の第 2 回目は募集開始後すぐに定員に達し、小学生7 名、中学生 3 名、高校生 2 名、スタッフ 5 名の計 17名で、島で 2 泊 3 日の環境教育プログラムを実施しました(写真 4)。プログラム終了後もすぐに次年度の予約が入り、一般市民の本プログラムへの関心の高さが伺われます。

今後の課題と方策

現在、赤島活性化プロジェクトは関連する約 30 の企業や各種団体からの協賛・後援をいただいています。この数を増やすと共に、特に地元自治体を中心とした官とのつながりを持つ必要があります。今後は、地元自治体が抱える問題解決の一助となるプロジェクトへの発展を視野に進めていきます。

写真4 「雨水生活体験」2019年3月記念写真

写真4 「雨水生活体験」2019年3月記念写真

またもう一つの課題として、本プロジェクトの成果の一般都市へのフィードバックにも取り組みたいと思います。

(当会が2019年7月に発行した「あまみずno.60」に掲載)

笠井 利浩(かさい・としひろ)
1968 年京都府生まれ、福井工業大学 環境情報学部 環境・食品科学科教授、日本建築学会あまみず普及小委員会主査、日本雨水資源化システム学会広報委員長・理事、あめゆき Cafe 事務局長、NPO 法人雨水市民の会理事、NPO 法人雨水まちづくりサポート理事を務める。自ら始めた稲作を通じて雨水に目覚め、雨水活用の技術開発から雨を活かした環境教育まで幅広く活動している。
近藤 晶(こんどう・しょう)
福井工業大学 環境情報学部 デザイン学科講師、日本雨水資源化システム学会評議員を務める。京都工芸繊維大学在学中に友人とデザインチームを結成し、音楽イベント等への映像提供や Web サイトデザインなどを行う。卒業後アイコム株式会社 宣伝広告室にて海外向けカタログや展示会向けポスターのデザインや、国内展示会用説明動画などを制作。所属学科でグラフィックデザインやWeb デザインを教えながら、デザインやアート
作品を制作している。

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