ひと・市民

AMAMIZU GOTEMBA 便り

村瀬 誠(雨水市民の会理事、(株)天水研究所代表取締役、(株)SkyWater Bangladesh会長)

「これ、何ですか?」とは近所のNさん。Nさんは御殿場市の民生委員で、定期的に高齢者がいる家を一軒一軒回って安否確認しています。その時、私の自宅に隣接したコンクリート構造物が目に留まったようです。

「雨水タンクです。住宅の屋根から雨を集め、ためた雨水をキッチンやトイレで使っています。植木や草花の散水、洗車にも重宝しています。今は満タンですので18トンの雨水が溜まっています。タンクの高さが3mあり重力差を使って給水していますから大地震で水道や電気がストップしても安心です。これだけの水があれば、自分たち夫婦だけでなく近所の人たちにもおすそ分けができます。」

「なるほど。実は以前から雨水タンクに興味があったんです。」

こんなやりとりがきっかけとなって、あまだ(雨田)里山で雨水タンクのプロジェクトが始まりました。

写真1 やってみよう雨水利用

写真1 やってみよう雨水利用

あまだ里山は私が住む御殿場市深沢にあります。辺りは田園地帯ですが、近くには東名御殿場インターや御殿場プレミアムアウトレットもあります。今から18年ほど前、山林だったこの場所に産業廃棄物最終処分場を建設する計画が持ち上がりましたが、それを知った地元の住民たちが残された貴重な自然環境を保全しようと立ち上がり、計画を中止に追い込みました。その後、彼らは、ここを里山公園として再生し次代に残していこうと賛同する地域の仲間たちとともに立ち上げたのが「あまだ里山の会」でした。Nさんもそのメンバーの一人です。私も趣旨に賛同し活動に参加しています。

今年の夏のことです。あまだ里山の草刈り後の東屋における里山談義のなかで、Nさんが雨水タンクを作りたいとつぶやきました。あまだ里山には、ビオトープのトンボ池がたくさんあり地元の子供たちの生き物体験学習の場となっていましたが、池でオタマジャクシやサワガニ、イモリ探しで泥んこになっても子供たちの手足を洗う水がないため、会員がポリタンクの水を運んでいて大変な思いをしていたからです。私もこのことをNさんから聞いていたので、ここにタンクがあればいいなと考えていました。事実、私が天水活用ソーシャルプロジェクトを展開しているバングラデシュでも、水くみは女性にとって大変な重労働で、雨水タンクが水くみ解放に一役買っています。

写真2 降雨量計

写真2 降雨台に設置された降雨量計

K会長の「じゃー、みんなで雨水利用やってみるか。村瀬さんアドバイスよろしく」という提案に、私は二つ返事で引き受けました。話がまとまると、行動が早いのが里山の会の会員の特徴です。なにしろ、みなさん手先が器用で大の工作好きです。タンクは、地元酒造メーカーがウィスキーの原酒の輸入に使っていた1トンタンク(ポリエチレン製で回りが薄い鉄板でカバーされている)を仲間が持っていることを聞きつけたNさんが、交渉し譲り受けてきました。Nさんは、私が描いたバングラデシュで設置している雨水タンク(名称がAMAMIZU、フェロセメント製で1トン)のイラストを参考に、タンクの上部に清掃、点検用のマンホールの大きな穴をあけカバーをセットし、蛇口やオーバーフローパイプを取り付けました。早速このタンクを現地に運び込み(写真1)、東屋の屋根に樋を取り付けて雨を集め、タンクは東屋に隣接して設置することで話がまとまると、その後の展開がはやいことはやいこと。タンクの架台、フロート式の水位計、雨樋の落ち葉除け、測雨台の設置(写真2)から東屋にマッチしたタンクの外構にいたるまで、メンバーそれぞれが得意な分野を買って出てあっという間に完成してしまいました(写真3)。タンクの正面には、雨を活かす試みを地域社会に広げていく思いを込めて掲示板(下図)も設置しました。

写真3 完成した雨水タンク

写真3 完成した雨水タンク

「驚いた。雨ってこんなにきれいなんだ。しかもほとんど味がしない。」とは、雨水プロジェクトにかかわった会員から最初に出た言葉です。それもそのはず。7月から月初めに定期的に測定を始めた貯留雨水のpHは6~7、導電率も3〜9μS/cmです。蒸留水に近い値です。東京にある雨水市民の会事務所の水道水の導電率が200μS/cmを超えていますから、いかにきれいな水かわかります。

あまだ里山の雨水タンクのことをもっと周りの多くの人に知ってもらおうと、Nさんは早速深沢公民館だよりに投稿し9月に記事が掲載されました。誰かがつぶやきました。「こんないいものだったら、公民館や学校にも作ったらいいね」。あまだ里山から深沢地区へ。御殿場での雨を活かす種まきが始まりました。 

「雨と触れ合ってみよう」掲示板

「雨とふれ合ってみよう」掲示板

村瀬誠さんのインタビュー記事が朝日新聞デジタル「SATO〜次世代に残したい里〜」に掲載されています。

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