ひと・市民

水の町・大野から ~豊かで清らかな地下水を守りたい

大野の水環境ネットワーク事務局 寺脇 敬永

豊富な湧水は大野のシンボル。古くはお殿様のご用水として使われていた泉町の御清水(おしょうず)は名水百選にも選ばれた味わい豊かな水。

豊富な湧水は大野のシンボル。古くはお殿様のご用水として使われていた泉町の御清水(おしょうず)は名水百選にも選ばれた味わい豊かな水。

地下水は、雨が地面に浸透したいわば「地下にためた雨」。白山の広大な山麓の雨が湧き出る「名水のまち」福井県大野市。しかし今、その大野が誇る地下水が涸れることへの危惧が高まっている。

福井県大野市は、山に囲まれた盆地で、地形や地質、気候的にも水を取り巻く自然環境に恵まれた地域です。まちの大多数の家庭が今も地下水をそのまま飲める恵まれた状況で、良質の地下水に感謝しています。しかも無料で市民はふんだんに使っています。地下水は、水温が年中ほぼ一定で厳寒はとくに温かく、盆地の猛暑は、冷たく感じられ毎日の生活に潤いを与えています。「名水百選」や「水の郷百選」にも選ばれ市民は水に誇りを持っています。大野の街並みは、昔の殿様が屋並に沿って湧水系のある川(用水路)を引き、冬にはそこに雪を捨やすいように豊かな水(湧水)が流れ雪を捨てるとたちどころに融けて流れたものです。夏には涼を呼び、川にはバイカモ等の水草をはじめ湧水に棲む魚・イトヨや色々な生き物もいっぱいいました。
しかし、国土総合開発や水資源開発の施策等で、まちの上流に多くのダムが次々に造られ、その上、本来、流れている筈の川の水は水力発電にほとんどとられ、川の水量が減り、それに連動して大野の地下水は大きな打撃を受けました。水の町・大野は大きなものを失いました。
昭和52年の冬、融雪装置の利用で1000戸の井戸枯れが起きました。このとき、野田佳江さんを中心に市民が、地下水を守るために「大野の水を考える会」を立ち上げました。私もその頃から協力をしています。「大野の水を考える会」は、大量の水を使う融雪装置の使用禁止や地下水採取者の届出などを規定する「大野市地下水保全条例」を策定につなげました。その後、大野に合った汚水処理の方法や地下水保全基金、地下水を保全するために受益者負担の原則*1 の提言等をしました。平成18年には「大野の水環境ネットワーク」に名称を変更し、市民による河川や地下水の水質調査を継続して行っています。
川の水と地下水は影響し合い一体のものです。湧水は激減し、地下水位は変動しながら下降しています。大野市では、地下水を保全するために調査や地下水の人工涵養等に取り組んでいますが、顕著な効果は上がっていません(表1参照) 。
今回の水制度改革国民運動が、超党派の国会議員が参加して行われ、緊急性、重要性から、問題の解決に向けてとても有意義なことで感謝に堪えません。「水循環基本法」の制定とともに、地下水は公水であると位置づけ水環境が健全に維持、保全されるように実行性を高める体制が待たれてなりません。昔の豊かな湧水が湧く「水の町」大野の街並みの再現を夢見ます。

*1 地下水の受益者負担の原則:
「大野の水を考える会」が提案した。現在、地下水は汲み上げても無料だが、地下水を保全するためにメータを取り付け、応分の負担をする考え方だが、法的に難しく、なかなか実現しない。外国の諺に「水の無料は浪費を助長する。人は井戸が枯れるまで水のこと等気にしない」とある。そうならないためにも、実現を望みたい。

大野市経年変化グラフ修正

表1 大野の降水量と地下水位(春日)の
経年変化 昭和51年~平成21年

 

寺脇 敬永 Terawaki Yukie
大野の水環境ネットワーク会員。その前身の「大野の水を考える会」の発足当初から活動をしている。元気象台勤務。大野市の「地下水対策審議会」の委員。

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