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福岡市の樋井川流域の雨水利用施設訪問(報告)

小川 幸正(雨水市民の会 理事)

夏真っ盛りの2016年8月23日に、福岡市を南北に流れる樋井川流域における雨水利用施設を訪問する機会を得ましたので報告します。本地を訪問した前日は、(一社)日本建築学会福岡大会が福岡大学で8月22日から開催され、雨水利用関係の発表が8月22日にありました。そこで、樋井川流域の治水対策を発端に活動されている「樋井川流域治水市民会議」は雨水利用を積極的に推進しており、折角の機会なのでその関係者と交流し、雨水利用施設を見学してきました。現地を訪問して、都市洪水防止対策として雨水利用の推進は、市民、大学、行政が連携を取りながら、先進的な活動をされていることが分かりました。

現地を案内してくれましたのは、九州産業大学の山下三平教授、樋井川流域治水市民会議代表の角銅久美子さん、福岡大学の浜田晃規助手や学生さん達です。見学者は本市民の会理事の笠井先生、ならびに日本建築学会委員会の神谷さんをはじめとしたメンバーで、全員で7名でした。当日は地下鉄六本松の駅で待合せし、鳥飼集会場付近→福岡大学渡辺亮一教授の自宅→仁愛保育園→あめにわ憩いセンター→福岡大学あまみず科学センター→新宮北小学校→博多駅で解散のコースでした。ご案内頂いた皆様、お忙し中ありがとうございました。感謝申し上げます。

なお、樋井川は油山を源流とし、福岡市内を南から北に流れる二級河川です。過去に何度も都市洪水を起こしている都市河川でもあります。

鳥飼集会場とその周辺

写真1 鳥飼メリッとステーションの雨水活用の3つの役目のパネル

写真1 鳥飼あメリッとステーションの雨水活用の3つの役目のパネル

平成21年7月に6時間で200㎜の豪雨があり、樋井川の氾濫で流域の多くの住宅が浸水しました。この経験から、福岡市は鳥飼ポンプ場の排水能力向上を行っています。市民サイドは、市民共働の“流域治水市民会議”を発足させて、流域市民が保水・貯水・浸透などの手法で流出抑制を図ることを考えたそうです。しかも単に治水のための治水ではなく、地域の景観、自然環境の改善をし、それが福祉さらに地域づくりへと発展することを目指したとのことです。鳥飼地区では、公園にある野球場が一時的な雨水貯留となるようにすることや自治会館に屋根雨水を貯留して散水などに利用する雨水タンクの設置などをしていました。写真1は、鳥飼あメリッとステーションに掲示されているパネルで、雨水活用の3つの役目が書かれています。その内容は、①ハミングロードの雨水供給、②次世代教育の場、③防災・治水の基地です。

福岡大学・渡辺先生の自宅の雨水利用

写真2 渡辺先生の雨の家前景

写真2 渡辺先生の雨の家前景

福岡大学工学部で教鞭を取られている渡辺先生は、平成24年3月に自宅を「雨の家」として、雨水利用実験住宅を建設されました。この先進的な雨の家は、敷地面積297.91㎡、地上2階建、延床面積145.74㎡で、外観は写真2に示します。

雨の家は、市民ダムとして敷地に時間100㎜の豪雨があっても、その全てを貯留可能な雨水タンクを設置して、流域の治水対策に貢献しています。この100㎜/時間の豪雨にも対応できる安心住宅の建設は、2009年8月に福岡大学で開催された雨水ネットワーク全国大会がきっかけで、多くの専門家の協力を得て完成したとのことです。同行しました神谷さんもその専門家の一人です。

雨水タンクは総容量が約41.8トンあり、3つの地下のタンクから構成されています。第1の家の基礎を兼ねた地下タンクは、散水・トイレ洗浄水・洗濯用として貯留することと治水用に容量が約17.3トンあります。第2のタンクは防災用で全容量が22.5㎥ありますが、上半分は地下へ浸透させる構造になっています。第3のタンクはビオトープ用で約2トンあり、大雨時にはタンクの隙間に雨水を貯留することが可能とのことです。これまでに敷地からの雨水の流出水は極めて少なく、豪雨時に1回流れた程度とのことです。まさに、100㎜/時の豪雨に対応した雨水ハウスであることが、実証されています。雨水の水収支やタンク内の貯留雨水の推移、水質データなどを取得されており、雨水利用に関する各種の情報発信をされています(*1)。また見学者やマスコミの取材も多く、究極の雨水活用をしている注目の「雨の家」です。

*1 はかたわん海援隊日記渡辺亮一さんのfacebook

角銅邸/あめにわ憩いセンター

角銅さんの自宅ならびに「あめにわ憩いセンター」(写真3)を見学し、ここで昼食をとりました。角銅さんは建築家であり、先述の様に市民会議の代表でもあります。角銅さんは築50年の自宅を自身の手作りで改造して、1階を「あめにわ憩いセンター」として開放されています。ここは地域の誰もが気軽に立ち寄り集い、学びあえる“憩いの空間”として活かされています。特にこの地域は、過去に何度となく都市水害の被害にあったことから、住民独自の治水活動の広報の場になっています。

写真3 あめにわ憩いセンターの全景写真

写真3 あめにわ憩いセンターの全景写真

本センターは、敷地面積249㎡に降った雨を流さないで100%治水(*2)に利用する先進的な計画が盛り込まれています。すなわち、治水に関する下記の6つのパターンを導入することにより100%治水を実現しているのです。

①甕(かめ)を利用し、非常時の水を確保したうえ、太陽熱を利用し足湯に使う。

②雨水のビオトープでメダカ育成と五感の演出と体験をする。

③緑育成による木陰づくりと森林浴ができる屋外学習のコミュニケーションコーナー

写真4 野外学習・交流の場(訪問時は工事中)

写真4 野外学習・交流の場(訪問時は工事中)

④ベンチ下を利用した緑育成水路と壁面緑化システム

⑤トイレ洗浄用水の水確保と治水

⑥駐車場の緑化・浸透と雨葉で雨水の確保

我々は学習室で本センターの雨水貯留・利用・浸透に関する説明を角銅さんからお聞きし、昼食をここで頂きました。この学習室には、本センターの先進的な計画を説明するパネルのほか、雨水利用に関係するグッズ等の説明パネルや製品が展示されており、雨水利用などの学習の場として充実していることを実感しました。これまでにも中学生10人が宿泊しながらの学習をしたり、地元の方々のコミュニケーションの場としても大いに活用されていることを知りました。まだ一部、屋外の野外学習・交流の場(写真4)など工事中の雨水貯留設備等がありましたが、再度福岡に来る機会があれば、立ち寄ってその後の治水への貢献のお話をお聞きしたい場所であります。

*2   100%治水:敷地に降った雨をためたり浸透したり利用して100%敷地の外に流さないこと

写真5 あまみず科学センターの前景

写真5 あまみず科学センターの前景

福岡大学・あまみず科学センター

福岡大学内部に「あまみず科学センター」が「あまみず社会研究会」の活動の一環として設立され、ここには雨水利用に関する各種情報や雨水利用の実施と語らいの場があります。本科学センターはコンテナ2台で構成されており、コンテナ内部でパネル展示をしています(写真5)。外部にはパーゴラ屋根のあるサンデッキの語らいの場があり、この屋根の雨水を床下のタンクに貯めてビオトープに活用する予定です。ビオトープは工事中で今年10月に完成予定です。ここで大学、市民、企業、行政が樋井川流域の治水対策や雨水活用を語るには絶好の場と思いました。本科学センターは、東京都墨田区にあったすみだ環境ふれあい館に近い機能があると思いました。

写真6 タメルンジャー号とアトラクション

写真6 タメルンジャー号とアトラクション

本科学センターは、新しい情報発信源として、多世代交流のコミュニケーション演出として、“キャランバン隊”を結成し、地域に進出して広報活動するキャラバンカー「タメルンジャー号」(写真6)でも雨水教育を行っています。タメルンジャー号では、雨水の貯留の重要性をアトラクションで子供にも分かる様に演出しています。この車は、環境教育や雨水教育において要望があれば、遠方まで出張してもらえるそうです。関東地方でも近い将来みられるかもしれません。

新宮北小学校

福岡県新宮町で5校目となる新設小学校「新宮北小学校」が平成28年4月に開校となりました。本新設小学校は、ご案内頂いた山下先生が「スマートスクール」構想を提唱されて実現しました。本小学校は立地が昔池であった低湿地であるため、雨水排水対策が最も重視すべき点だったそうです。そのため、水循環の健全化を敷地と周辺地域を含めて多目的に図る必要があったとのこと。具体的には下記の雨水排水・利用対策がされていました。

①校舎に降った雨は体育館地下の容量200㎥の貯水槽に貯めて、植栽散水などに使用する。今後ろ過装置を設置してトイレ洗浄水に使用の予定。

写真7 新宮北小学校のグラウンド

写真7 新宮北小学校のグラウンド

②グラウンドでは、周辺地域の浸水対策として、天然芝の下に雨水調整用の1000㎥の貯水槽と200㎥の芝生の散水用にも使える貯水槽を設置する。(写真7)

③グラウンドは雨水調整用に掘り下げ深さを②の対策で0.3mにとどめた。

本小学校はエコスクールとして、雨水利用以外にも太陽光発電、省エネ型設備、緑化、断熱化(二重サッシ等)を取り入れており、発電量や降水量を校内でモニタリング表示して、環境教育に生かしていました。まさに水循環とエネルギー利用を見える化している先進的な小学校でした。