世界の雨水

米国西海岸のグリーンインフラ調査に関する速報

小川 幸正(雨水市民の会 理事)

今話題になっているグリーンインフラストラクチャー(以降GIと略す)に関して、米国西海岸のポートランドとシアトルにおける調査に参加しましたので、速報として報告します。GIは新しい概念でまだ一般的にはなじみが薄いですが、一言でいうと「自然の力を賢く使う」ことです。その際に雨との関わりが重要で、米国などではGIを活用して治水対策や雨水流出水の水質改善を図っています。日本でも2015年国土形成計画に取り入れられ、国策となっています。1

西海岸の調査概要

2016年8月29日から9月3日に、ポートランドとシアトルにおけるGI調査に行ってきました。メンバーは法政大学の神谷先生を団長に、日本建築学会雨水活用推進委員会のメンバー等の5名です。雨水市民の会の笹川理事も参加されています。ポートランドでは、以前から交流のあったポートランド州立大学(以降PSUと略す)で交流セミナーを開催し、さらにPSUのVivek先生の案内でレンタルサイクルに乗って代表的なGIスポットを訪問しました。また、シアトルでは、我々5名でシアトル市が作成した雨水流域抑制の先端的な地域マップを頼りに、大型のタクシーで調査しました。宿泊したホテルはいずれもダウンタウンに近いため、環境先進都市として有名な2都市のライトレイルやバスなどの公共交通機関を利用して、移動が容易にできました。地元の有名なレストランでのディナーも楽しむことができて、大変有意義な調査でした。

ポートランド大学との交流セミナー

写真1 ポートランド州立大学の交流セミナー参加者

写真1 ポートランド州立大学の交流セミナー参加者

持続可能な都市環境を調査・研究されているVivek先生達と交流セミナーを開催しました。日本側から日本の雨水活用に関する技術規準や本会の活動ならびに東京都の野川等のGIに関する取り組みを紹介しました。PSUからは、ポートランドにおけるGIの取組み、地理情報システム(GIS)を用いた緑の解析、後述するバイオリテンションの植物の根と土の技術に関する報告がありました。ポートランドのGIの取組みは、1980年頃から始まり2000年頃には本格化しました。写真1は、セミナーの参加者の集合写真です。

ポートランド市のGI調査

ポートランド市では“Stormwater Cycling Tour”とい市内をめぐる見学ルートを作って、合流式下水道の東部地域で雨水流出水抑制のために採用されている各種のGIスポットを自転車で回れるマップを作成しています。このマップは、ポートランドの東部で、下水と雨水を一緒の排水管に入れる合流式下水道の地域です。雨水が多いと越流して河川や海に下水とともに放流され、水質汚濁などを引き起こしてしまうため、GIを取り入れました。

写真3 レンタルサイクルのステーション(ポートランド)

写真2 レンタルサイクルのステーション(ポートランド)

我々はVivek先生の案内でこの地域の一部をレンタルサイクルで見て回りました。朝10時頃にPSUをスタートして、約5時間かけて代表的なGIスポットを回り、さらに市の中央部を流れるウィラメット川沿いを走り、PSUに戻ってきました。自転車用のレーンが整備され、安全に走行できるので快適なサイクリングを楽しみました。レンタルサイクルのステーション(写真2)は市内各所に整備されており、事前に登録しておけばどのステーションでも乗り捨てができます。

代表的なGIスポットの事例を紹介しますと、道路の雨水流出水を受け入れて浸透・蒸発散するバイオスウェル(写真3)やレインガーデン(写真4)などがあり、これらは下水道へ流れ込む雨水の量を減らす効果があり、“バイオリテンション”とも呼ばれています。また、住宅の竪樋を雨水排水配管に接続しないでレインガーデン等に浸透処理している家屋も多数あります(写真5)。住民側には、竪樋をカットして下水道への負荷を減らすことで下水道料金が安価になるとの特典があります。

写真3  道路わきのバイオスウェル 写真4  店舗前のㇾインガーデン 写真5 住宅の竪樋の非接続 (ともにポートランド)

写真3 道路わきのバイオスウェル         写真4 店舗前のㇾインガーデン          写真5 住宅の竪樋の非接続 (ともにポートランド)

(上)写真7 道路わきのバイオスウェル (下)写真8 緑溝(ともにいシアトル)

(上)写真6 道路わきのバイオスウェル     (下)写真7 緑溝(ともにシアトル)

シアトルのGI調査

シアトル市は米国西海岸の北部の中心都市で、人口は約65万人、シアトルマリナーズの本拠地、マイクロソフト社やボーイング社の発祥の地としても有名です。シアトル市のGI調査は、北部の住宅地区、南部の住宅地区、ダウンタウンをタクシーで回りました。2000年以降に開発された住宅地では、雨水の流出抑制のためと流出雨水の水質改善を目的に、道路わきのバイオスウェル(写真6)や緑溝(写真7)などを整備しています。また、ダウンタウンでは、屋上緑化を進めており州の大型建物に採用されています。我々が宿泊したホテルの周辺道路でも、新規に開発された道路の脇にバイオスウェルが設置されていました。バイオスウェル内に植栽された植物は、シアトルの方がポートランドよりも管理が行き届いており、生き生きとしていました。

おわりに

GI調査で訪問したポートランドとシアトルは、米国内では日本に近く、観光スポットとしても人気のある場所です。2都市共に緑の多い環境先進都市であり、公共交通機関が発達しているので、観光も容易です。サイクリングやジョギングも盛んで、全米でも住みたい都市の上位に2都市が上がっているのは、なんとなく理解できました。GI調査のまとめはこれから行いますが、日本での今後のGI適用を検討する際に、今回の訪問が大変参考になるだろうことを最後に記します。

【参考文献】 1.国土交通省:国土形成計画(全国計画)、p.150-151、2015.8、www.mlit.go.jp/common/001100233.pdf2016.10.10