2026.06.27
「低地のまちの雨とグリーンインフラを考える」オランダDutchBlue社の取り組み
Webあまみず編集部

2026年4月19日(日)すみだ生涯学習センターで開催した講演会の様子
オランダは国土の約1/4が海抜0m以下であり、中世以降、風車を使って水を汲み上げ運河に排水することで、湿地を干拓して農地などにしてきました。現在は地域の地表水や地下水位を人工的にコントロールしています。一方、東京都墨田区では、海抜が低く水がしみ込みにくい地形と、都市化が進んだまちでの都市型水害のリスクを低減するため、雨を蓄えてゆっくり流すまちづくりを進めてきました。オランダでの取り組みは、地形も含めて墨田区にも通じるものがあります。どちらのまちも行政と連携した市民の小さな取り組みを積み重ねていることも特色です。
墨田区に拠点を置く雨水市民の会では、同じく都市の小規模雨水管理に取り組むNPO法人 雨水まちづくりサポートと共催し、オランダで水管理事業に従事するダッチブルー社からマネージング・ディレクターのローザンヌ・フィレート氏と澤田陽樹氏をお招きし、講演とすみだの雨水まちあるきを企画しました。当日は都合によりフィレート氏はオンラインでの講演となりました。

2026年4月19日講演に先立つ墨田区京島のまち歩きでは、路地尊や下町×雨・みどりプロジェクトのスポットを見学した
「下町×雨・みどり」モデルスポットまちあるき
前半は、雨水市民の会が2022年から実施している「下町×雨みどりプロジェクト」で設置したモデルスポットを中心に、京島・向島エリアの雨水活用の現場を見て歩きました。京成曳舟駅を出発し、吾嬬町ウエスト(町会会館)の屋外階段下に敷設した塩ビ管の雨水タンク、けん玉横丁長屋の外構部分の雨水一時貯留・浸透施設、カフェ・オーロラキッチンのプランターを組み合わせた雨水タンクを見学しました。加えて、コミュニティで共有する雨水タンク(天水尊)や雨水ポンプ(路地尊)を複数見学しました。
オランダの水管理
地表水や地下水位を人工的にコントロールし、国土を守っているオランダで、その管理を担うのが地域の「水管理委員会」と呼ばれる組織です。行政とは独立して規制や税金の徴収を行い、行政、NGO、企業などと合意形成しながら実施しています(詳細は「水の文化・合意の水位」(ミツカン水の文化センター2005年vol.19)参照)。
また、EUでは「ブルー・グリーンインフラ」の名の下に植物や土壌の緑(グリーン)と水辺や水環境(ブルー)を組み合わせた生態系ネットワークを目指し、気候変動や都市のレジリエンス向上に取り組んでいます。中でもオランダは前述の通り水をコントロールしてきた歴史をもち、建物の屋上で植物を栽培し雨水を回収して貯留したり、スマートバルブと呼ばれる自動弁で、豪雨の前に自動的に放出して、下水道が溢れないように備える仕組みもあります。
ダッチブルー社の取り組み

オランダDutchBlue社のマネージング・ディレクターのローザンヌ・フィレート氏(ウエブ参加)と澤田陽樹氏。画面のフィレート氏の講演を澤田氏が同時通訳をされた。
オンラインでフィレート氏から「ブルーグリーン テクノロジー(Blue-Green Technology)と都市の水管理」と題して講演いただき、会場の澤田氏に逐語通訳をしていただきました。
会社が立地するアムステルダムは運河に囲まれて、氾濫や洪水のリスクが昔からあったところですが、ダッチブルー社は、25年以上にわたり水管理事業に従事しています。洪水や浸水を防ぐだけでなく、雨水を一滴も無駄にせず、集めて一時貯留して再利用・循環させ、都市を改善するというコンセプトで事業を展開しています。街路樹、自転車レーン、ルーフトップ、スポーツ施設、公園、個人宅の菜園などでの事業展開をしてきており、国や自治体などの公共セクターで実績を積んできています。国際的な事業も幅広く手がけており、各々の地域の実情と問題を踏まえて、各国のライセンスや技術ライセンスを持つ現地パートナーとともに事業を行っています。例えば、インドで は800 ㎡のスポーツピッチプロジェクト、南アフリカで 20 のコミュニティピッチでの雨水管理を実施しました。
目指すのは、健康と安全、防災です。まちを水と緑で覆い、心地よい空間を創出することです。水管理については、自然の摂理をできるだけ応用し、地形がどのように成り立っているかを考えながら行うようにしています。
ブルーグリーンシステムの概要

Blue-Green solutions to improve cities and communities worldwide. “Blue-Green solutions to improve cities and communities worldwide.”(Rozanne van Vliet, Managing directorによる講演スライドより)
ブルーグリーンシステムの仕組みを断面図(左図)で示すと、表面がアスファルト、コンクリート、インターロッキングなどの舗装では、排水分の雨水を貯留するのが主となります。土壌改良と植栽を導入した左側では雨水貯留に加えて浸透と蒸散により気温も下げる働きもします。
システムは、100% リサイクル素材から製品を製造し、他は自然の材料を使い、廃棄物を出さずに水と緑のシステムをつくっています。自然を最終的なインスピレーション源とし、自然界では無駄がないという原則に基づいています。下部の雨水を貯める層は砕石などの一般的な空隙率30%を多く上回る95%を達成しています。その層に蓄えられた雨水は毛細管現象で上方に上がり、気化熱によって人工芝などの温度を快適な温度に保ちます。
これまでの導入例
ロンドンでは、下水管を敷設できない街路で歩道の下に集めた雨水を周辺の木々の水やりに使用している実績があります。アムステルダムの南駅の地下駐車場の上部にも導入し、樹木も育って健康的な空間ができました。アムステルダム市では、ブルー・グリーン・テクノロジ-の水を捉える層の研究をオランダ政府と共同で3年間実施し、ダッチブルー社の象徴的なプロジェクトとなっています。また、市民と市の助成を結び付けて、納屋の屋根にブルーグリーンシステムを導入しました。
水循環システムを応用し、舗装やあらゆる地所に水貯蔵が雨水貯留に使用され、貯留された水は植物に再利用できます。自転車道、駐車場、造園、多機能屋根、スポーツシステム、家庭用庭園などの水管理において、多様な解決策を提供しています。

図2表面温度の推移_2020年26週目(6月下旬)の記録
※TKI-プロジェクトシティスポーツ研究調査結果 http://doi.org/10.3389/frsc.2024.1399858(dutchiblue社の「雨水循環型スポーツピッチ技術ブルーグリーンシステム」パンフレットより)
ある公園では、夏には人工芝の場所は大変暑くなるため、ヒートアイランドを防ぐために人工芝の下に1㎡あたり60Ⅼの雨水を貯留できるようにし、蒸散によって暑熱のリスクを減らすことができました。
グルーグリーンシステム2026年のワールドカップの決勝会場にも採用されています。また、オランダ東部のスポーツ施設ヘラクレス・スタジアム、オランダのクラブチームのグラウンドでは、センサーを使って雨の排出を制御しました。つまり夏の日に水がないとなったら隣のビルから貯めた雨水を横から入れたり、気象予測で線状降水帯が来るとわかっていたら、事前に貯留スペースを空にしておくということなどを行っています。2021年を皮切りに、2024、2025年には日本でも導入しています。
オランダ外務省が関わって、南アフリカやインドでは、地域の協力を得て貯留した雨水を飲料水化するプロジェクトも進めています。メンテナンス業務等の雇用を創出しながら、経済的に恵まれない子どもたちに飲料水として提供したり、今後は販売も視野にいれています。
注力する地域の施設は?
人々の目に触れる機会が多い、家族や親子で訪れる総合運動公園、スポーツ施設、多目的広場にグリーンインフラを導入することが有効だと考えています。それらの施設の人工芝はヒートコレクターになっていることが問題視されており、システムの導入により子どもの遊び場、ランニング、癒しの場などとして、心地よく利用できるようになり、効果が分かりやすい場所です。施設の管理者は、異常気象が進行する中、洪水や渇水、ヒートアイランド、内水氾濫、流出抑制、生物多様性への対応等のほか、子ども食堂、デイケアサービスなど分野が違う社会課題と組み合わせて、解決に結びつけていこうと考えています。
アーバンスポーツにグリーンインフラを導入し、雨水を一滴も無駄にせず水を集めて、蒸散により大気中に返す水循環を現出しています。課題や解決策の見える化のためQRコードを作成して現場に設置し、雨水が循環されていることや生物多様性などを利用者の人たちに分かりやすく示す取り組みもしています。また、施設の案内などもみることができるような発信もしていこうとしています。
雨水管理状況の示し方
雨水管理については、何をやっているか、どういうものがあるかなどを示すことが重要です。民間の施設でインフラ機能の4〜5割を果たしていますが、最終的には地域ぐるみで水循環を改善していく必要があります。皆さんの地域と同じように地域のコミュニティがないと中々伝わりません。個人宅でも受け入れられるためには、自分で設置できることを示すことも大事です。そしてライデン市のコミュニティガーデン、駐車場の屋上、アムステルダム市が企画した面白いデザインの屋根を使って、雨を無駄にせず集めたり、人々と菜園をつくる試みなどを通して、水がつながり、緑をつくり、地域に面的に広がっていくことを望んでいます。緑を創出するには水がないといけないですし、水が地域でつながっていく必要があると考えています。
質疑応答
Q1 どういうコンセプトで導入、量的評価等がなされているのか?
日本の国交省のような組織が気候変動に関わる方針をきめ、それに則って各州や各市が優先事項をそれぞれ決めていくというやり方でこの10年間は実施してきています。いろんな解決策を組み合わせて強化するためのプロジェクトを実施しています。どの方策が良いか、どういうものを導入するかを、各自治体が雇い入れた研究機関の協力のもと、プロジェクトの中でチェックしたり評価したりして決めていきます。2018年から3年間、わが社でもプロジェクトの中で排水の制御性や生物多様性を確保できるのかなどの観点から評価を受けました。
Q2 気候変動が激しい中でどんな視点が求められているか?
洪水や渇水だけでなく、人口も過密化してきていて、一石二鳥の解決策では市は採用してくれません。一石三鳥、四鳥、五鳥と多機能の空間を提示する必要があります。
Q3 水道水、地下水、雨水、ポータブルウォーターなどがある中で、雨水はどういう位置づけか?
このシステムを使えば、水道水の代替になりうるようになるのは理想です。渇水時には上水や地下水を使いますが、なるべく上水に依存しない世の中になるとよいと思います。
Q4 住民参加型のまちづくりには、合意形成にはどのようなアプローチを考えているか?
オランダではキーメッセージとして、何が、なぜ起きているかを理解してもらうことが大切です。そしてそれがなぜ重要なのかを知ってもらう必要があります。例えば公園の再整備では、なぜこんなところをアスファルト舗装にしないのか、様々なリスクを根拠として説明しなければなりません。
Q5 オランダでは認証やコンサルティングはどのように進められている?
導入やメンテナンスに関しては専門のアドバイザーが各分野にいます。マルティファンクショナルテクノロジーとして私企業等がハードウェアを提示したものを、関わるプロジェクトで評価、定量化します。土壌設計、芝、システム自体、生物多様性などの多様な評価については、大学人や研究者など各々の専門家と一緒に行う必要があります。同時にソフトの観点も重要です。スポーツ分野の人とも一緒に協働します。ソフトウェアとしては、市や大学の方々が連携して教育的な内容のアプローチもしていて、縁の下の力持ち的存在となっています。
Q6 人工芝で蒸発散する仕組みについて
貯めるには浅い層で、再利用するために一時貯留するというのが基本です。浸透させるのではなく、礫層の空隙率を95%にあげ、砕石層から砂利層、人工芝へと毛細管現象で20~30cm吸い上げて、蒸発散させます。
最後にWebあまみず編集部より
ダッチブルー社の取り組みは、雨水市民の会が今取り組んでいる「雨どいプランター」、「レインガーデン」などのNbS(Nature-based Solutions)を取り入れた小規模分散型雨水管理モデルやスマート雨水タンクなど普及によって下水道への負荷を抑える取り組みなど、同じ発想にあるものが多くあります。きっとオランダ人にも「流せば洪水、ためれば資源」という標語を理解していただけるでしょう。今回の講演をきっかけに、情報交換の機会が増えることを願っています。









