下町×雨・みどり

ゼロメートル地帯・すみだでは雨水はしみ込まないのか?〜実際に調べてみました

伊藤 林、尾崎 昂嗣、榊原 隆、笹川 みちる、柴 早苗、高橋 朝子、高原 純子(雨水市民の会 会員及び理事)

東京・すみだといえば、いわゆる「ゼロメートル地帯」。地下水位が高く、地表は水を通しにくいシルトや粘土の層が広がっており、「墨田区は雨水を浸透させるのには向いていない場所」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。

本当にそうなのでしょうか?そんな疑問を抱いた当会の会員有志が、「実際に調べてみよう!」と立ち上がりました。墨田区役所の協力のもと、2026年3月30日・31日に区立公園2ヶ所(東向島北公園・錦糸公園)で現地調査を行いました。飽和透水係数を求める調査です。飽和透水係数とは、土中を水がしみ込む度合いで、数字が小さいほどしみ込みにくくなります。また飽和透水係数と関係がある土の硬さ(土壌硬度)もあわせて調査しました。

現地試験の内容

飽和透水係数*1は、「ボアホール法*2」と「携帯型ミニディスクインフィルトロメーター*3」の2通りの方法で行いました。また、土壌硬度は「山中式土壌硬度計*4」という測定器を使いました。

当会会員の尾崎(合同会社アールアンドユー・レゾリューションズ)の技術指導のもとで実施しました。他のメンバーは初めての経験でした。

なお、「ボアホール法」の詳細データや、地盤の連続的な柔らかさ(貫入量)の変化を調べる「長谷川式土壌貫入計」のデータは、(公社)雨水貯留浸透技術協会の機関誌「水循環 貯留と浸透 第138号 p38~43に掲載されています。そちらもぜひご覧ください。

写真1)ボアホール法により掘削した試験孔   図1)ボアホール法の試験孔模式図

ボアホール法による試験結果

・東向島北公園:

飽和透水係数7.7×10-4cm/s(=0.028m/hr、深度0.40m)、3.1×10-2cm/s(=1.122m/hr、深度0.70m)

・錦糸公園:

飽和透水係数2.1×10-3cm/s(=0.075m/hr、深度0.40m)と1.5×10-3cm/s(=0.053m/hr、深度1.0mm)

これらの数値から、各公園の浅層地盤(雨庭の掘削の深さがGL -40〜-70cm程度)においては、浸透施設の設置可能区域から除外する目安*5とする飽和透水係数の1×10cm/sを下回ることなく、十分な雨水の浸透能力を有していることが確認できました。

携帯型ミニディスクインフィルトロメーターによる試験結果

写真2) 携帯型ミニディスクインフィルトロメーターを用いた浸透試験の様子(錦糸公園)と携帯型ミニディスクインフィルトロメーターの詳細名称

携帯型ミニディスクインフィルトロメーターは、装置内の水に一定の弱い負圧(サクション)をかけながら土の表面から水をしみ込ませ、その浸透速度から土の水の通しやすさを調べる装置です。土の隙間に水と空気の両方がある不飽和状態で、時間とともにしみ込む水量を記録し、その変化から透水性を求めます。

・東向島北公園:

飽和透水係数4.9×10cm/s (=0.018m/hr、深度0.30m)

・錦糸公園:

飽和透水係数1.4×10cm/s(=0.052m/hr、深度0.30m)

※(公社)地盤工学会の基準をベースに、サクション値を3つ以上に変化させて測定し、「飽和透水係数」を算定。図2、図3を参照ください。

測定の結果、両公園ともボアホール法による現地浸透試験結果(深度0.40m)と同等のオーダーで近い値が得られました。なお、ボアホール法と携帯型ミニディスクインフィルトロメーターの試験位置には、1.5m程度の離隔があります。離隔がありながらも近い値が得られたことは一定の検証結果が得られたと言えますが、サクション値を変えても、ウォーターリザバー内の水位が時間とともに減少していく様子に、一部不自然な動きが見られました(後述の「現地試験の感想」もご確認ください)。現場では、どのサクション値の試験結果を地盤の透水係数を代表する結果として扱うべきか、判断に困惑する場面もありました。本装置は軽量かつ小型で利便性が高い反面、土と多孔質ディスクとの接地面が非常に小さいため、わずかな接地状態の違いが試験結果に敏感に反映されてしまいます。簡易的で扱いやすい計器だからこそ、確からしい値を得るためには繊細な測定管理が必要である、という難しさも認められる結果となりました。

以下の図2は、初期値(0分の値)を100として、各時間の値をパーセント表示(変換目盛%)としてグラフ化したものです。サクション2cmとサクション3cmのデータが逆になっているような印象でした。(→東向島北公園の詳細データはこちら

錦糸公園の結果も上記の東向島北公園と同様の処理をしてグラフ化しました(図3)。順当な結果と思われました。(→錦糸公園の詳細データはこちら

図2 携帯型ミニディスクインフィルトロメーターによる浸透試験結果(東向島北公園)

 

図3 携帯型ミニディスクインフィルトロメーターによる浸透試験結果(錦糸公園)

写真3)写真の山中式土壌硬度計による現地試験の様子(東向島北公園)と山中式土壌硬度計

山中式土壌硬度計を用いた硬度指数(支持力強度)の計測結果

平らに削られた断面に垂直にコーンを圧入するだけの、簡便な試験です。地表から0.30mの深度における支持力強度の計測結果(※貫入試験を5回行った平均値)は以下の通りです。

・東向島北公園:2.3kg/cm2

・錦糸公園:2.7kg/cm2

錦糸公園ではメンバー2名がそれぞれ5回ずつの貫入試験を行いました。各回の測定値にはばらつきがあったものの、5回実施した平均値は両名とも2.7kg/cm2となり、複数回実施することによるデータの平滑化を確認できました。

既往研究との比較

図4 土壌硬度と飽和透水係数の関係(木田ら(2022)の既往研究に墨田区内2公園の結果を加筆)

本試験は、各公園における地盤の物理的な特性を多角的に把握するために実施したものです。あわせて、得られた測定値を土壌硬度(土の硬さ)と飽和透水係数(水の浸み込み度合い)に関する既往研究のデータと比較し、検証を行いました。木田ら(2022)による過去の研究では、「土の支持力強度が小さい(土が軟らかい)と飽和透水係数は大きく、逆に支持力強度が大きい(土が硬い)と飽和透水係数は小さくなる」という関係が定量的に示されています。今回の結果を既往研究のデータ図中にプロットしたところ、図4に示すとおり、概ね既往研究と同様の傾向を示す範囲に収まることが判明しました。土の硬さを測ることで大まかな水の浸み込み度合いを評価できるようになれば、調査コストや手間の削減に繋がり、各地で雨水浸透対策がより導入されやすい環境が整っていくと考えられます。

現地試験の感想

・ボアホール法は、連続して注水ができる環境(水源)が必要です。今回は公園施設内の水道栓を利用できる範囲で実施できましたが、水供給が難しい場所では、タンクローリーの手配などが必要となり、調査の難易度やコストが大幅に上昇する点に留意が必要です。

・ハンドオーガやダブルスコップを用いた人力での掘削作業は、かなりの体力を要します。調査体制を組む際には、作業者の労力面への配慮も欠かせません。

・前記の山中式土壌硬度計の他に実施した、長谷川式土壌貫入計の測定では、試験中に土壌の硬さ(貫入度合い)の感触がリアルタイムに手に伝わるため、非常に手応えを感じやすい試験でした。

・携帯型ミニディスクインフィルトロメーターによる試験では、サクションを1cm、2cm、3cm…と大きくしていくと本来は浸透しにくくなるはずですが、必ずしも理論通りにならないケースもあり、現場でデータを解釈する難しさを痛感しました。初期値(ゼロ分の値)を同様に揃えれば、良いデータが得られたのではないかとも思われました。

・現場で求められる浸透試験の目的が「透水係数のオーダーを把握する」程度の精度でよいのであれば、より簡便に実施できる手法が確立されると、調査のハードルが下がり、雨水浸透の取り組みがさらに広がるのではないかと感じました。

おわりに

「ゼロメートル地帯は雨水浸透に向かない」という思い込みを超えて、実際の地盤が持つ力をデータと実感で確かめることができたのは、当会にとって大きな一歩となりました。今回の調査結果や現場での教訓が、墨田区、そしてこれからの持続可能な街づくりに関わる多くの方々のヒントや後押しとなることを願っています。


*1飽和透水係数:土の雨水のしみ込みの度合いを数値で表したもの。東京都下水道局の「浸透適地マップ墨田区」では、「適地」が多く「飽和透水係数 1×10-3 cm/s未満、かつ地下水位が地下-1m以下、かつ法令その他により設置が制限される区域以外」がほとんどである。地下水位-1m以上の地域が2〜3割あるが、浸透がしにくい地域である。一方、「東京都雨水貯留・浸透施設技術指針」においては、原則として台地上での浸透を想定しており、墨田区全域を含む低地帯では「浸透効果を調査し、飽和透水係数を設定」するとされている。

*2ボアホール法:「飽和透水係数」を導く手法。平均的な地盤の浸透能力が把握できること、試験施設の設置が他の試験方法より多少容易であることなどから、標準タイプとして推奨されている。定水位法を用いて終期浸透量を測定し、飽和透水係数を評価する方法が一般的である。

*3 携帯型ミニディスクインフィルトロメーター:不飽和透水係数を簡単に計測できるように開発された計器。軽量で持ち運びやすく、電気も不要なため、どんな場所でも手軽に調査できるのが大きなメリット。

*4 長谷川式土壌貫入計:土壌表面より深さ100cmまでの土壌の硬さを連続的かつ簡便に測定できるように開発された土壌調査用小型動的貫入試験機である。2kgの落錘を50cmの高さから自由落下させ、そのエネルギーで先端の円錐コーンを土中に貫入させ、その時の貫入抵抗から相対的な土壌の硬さを求める。土壌硬度を測定する他の方法として、山中式土壌硬度計もあるが、それとの相関関係も極めて高く、土壌断面を掘らなくとも、土壌硬度の測定が可能である。

* 増補改訂 雨水貯留浸透施設技術指針[案]調査・計画編に記載

参考文献・参考webサイト

・伊藤 林、尾崎 昂嗣、榊原 隆、笹川 みちる、柴 早苗、高橋 朝子、高原 純子 2026.東京ゼロメートル地帯での現地調査から見えてきたこと ~分散型流出抑制の多様な可能性~.水循環 貯留と浸透 138:38-4  3.

・公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会 増補改訂 雨水浸透施設技術指針[案] 調査・計画編 https://arsit.or.jp/book15

・公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会 機関誌「水循環 貯留と浸透」https://arsit.or.jp/journal/

・公益社団法人 地盤工学会 2018.新規制定地盤工学会基準・同解説 地下水面より上の地盤を対象とした透水試験方法(JGS 1319-2017).51p.

・木田 幸男、屋井 裕幸、横田 樹広、梶川 昭則、柴田 昌三 2022.都市緑化技術研究部会「研究集会報告」緑地の保水能とグリーンインフラ.日本緑化工学会誌 47巻 3号:387-384.

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