2017.04.07
新たな雨水管理の取り組み
Webあまみず編集部
2011年の東日本大震災では、甚大な被害を目の当たりにしました。国ではこれを教訓に、必要な事前防災及び減災その他 迅速な復旧復興に資する施策を総合的かつ計画的に実施するため、2013年12月に「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が制定され、2014年6月に国土強靭化基本計画が策定されました。大規模自然災害の発生よる国民生活や経済に及ぼす影響に関連する多分野の施策において、毎年の現状評価及び計画的な実施が求められています。2016年の国土強靭化アクションプランでは「異常気象等による市街地等の浸水」が、「起きてはならない最悪の事態の例」として重点化プログラムに挙げられています。
近年の雨の降り方が局地化、集中化、激甚化してきており、市街地における内水氾濫のリスクが高まってきています。雨と都市の付き合い方を抜本的に変えなければならない時期に来ているのです。ハードだけを整備すればよい時代は過ぎ、市街地の浸水対策は下水道だけに頼ることでは解決しなくなってきています。また、少子高齢化社会でありかつ人口減少社会となるこれからは、地方自治体の財政難や人材不足等の厳しい情勢に、既存施設の定期メンテナンスも難しくなることが予測されます。これらの背景を鑑み、都市の浸水対策を如何に進めるかを国の政策として打ち出しました。
このレポートでは、国の雨水管理の政策の変化に視点を当て、会員の皆さんと情報の共有化のためにその一部を紹介したいと思います。
「新下水道ビジョン」(2014年7月)の中で、「雨水管理のスマート化」という概念が提起されました。2015年5月に「水防法等の一部を改正する法律」が公布され、同年7月に一部施行、11月に完全施行がされました。この法律は、下水道法、水防法、日本下水道事業団法の改正ですが、メインは下水道法です。これらの改正の中で、雨水管理対策がどのように位置づけられているのでしょうか。
雨水管理のスマート化
「下水道ビジョン2100」(2005年9月)の改訂版として2014年7月に「新下水道ビジョン」として策定された中で、気候変動に伴う浸水・渇水対策についてハード・ソフト・自助の組み合わせで被害を最小化するためのビジョンとして「雨水管理のスマート化」という言葉を使っています。少子化高齢化・人口減少が進行する社会となる中、2011年の東日本大震災や2012年の笹子トンネル事件などを経験し、さらに2013年12月に「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が、2014年には「水循環基本法」「雨水利用の推進に関する法律」が制定され、下水道のあり方も大きく見直されたものです。雨水管理のスマート化の具体的施策では、前述した下水道法改正に伴う浸水対策の骨子が謳われているほか、雨水利用の推進や合流式下水道及び分流式下水道の雨天時越流水の水質改善を謳っています。
浸水被害対策区域
2015年の下水道法改正に伴って、「浸水被害対策区域」が新しく制度化されました。都市機能が集積し、浸水すると著しい被害が想定される区域で、公共下水道の整備のみでは浸水被害の防止ができないと想定される区域を、地方自治体が条例で定めるものとされています。
浸水被害対策区域内では、民間事業者が雨水貯留施設を設置して地方自治体と管理協定を締結した場合には、整備費用の支援を受けられ、その管理は締結した自治体が行うことができます。すなわち、民間の貯留設備が下水道事業の肩代わりをすることになります。ほかに法人税や所得税の割増償却制度や容積率の緩和などの誘導策もあります。個人住宅に設置する雨水貯留タンクや浸透施設などは、現状でも地方自治体が助成しているケースがありますが、今回の改正で、このような制度を持つ地方自治体へ国が助成することとなりました。浸水被害対策区域の中では、大規模な雨水貯留施設のみならず、個人住宅などの小規模なものも浸水被害対策の一環として位置づけられたということです。
また、このような支援策のみでは浸水被害対策区域の浸水被害の軽減が難しい場合は、地方自治体の判断で条例を制定し、義務付けすることも今回の下水道法改正で明記されました。
雨水公共下水道
「雨水公共下水道」も「浸水被害対策区域」と同様に、2015年の下水道法改正による新しい制度です。本来、公共下水道とは市街地の下水を排除し処理するもので、地方自治体が管理をします。市街地の構成要素とされ、日本の市街地のおおむねの地域が、公共下水道の汚水区域と雨水排除計画区域を同一の目標として整備されてきました。しかし、下水道を整備しても将来的に人口減少となっていく地域では、地方自治体の予算と人材の限界を踏まえつつ、下水道計画を見直し、計画の縮小を図っているところもあります。今回の下水道法改正では、汚水処理を下水道から浄化槽等へ見直した区域で、雨水の排除及び処理を行わないで雨水の排除のみを整備対象とする公共下水道の制度を設けました。これが、「雨水公共下水道」です。
グリーンインフラ
国が「グリーンインフラ」という言葉を使ったのは、2015年8月に策定された「国土形成計画(国土交通省)」です。この計画の中で、グリーンインフラを「社会資本整備、土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が 有する多様な機能(生物の生息・生育の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を活用し、 持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるもの。」と定義しています。その実施事業として、多自然川づくり、緑の防潮堤などの事業の例が挙げられています。
また、行政情報とは離れますが、2016年8月に雨水ネットワーク全国大会2016 in 東京では、「めぐる水 活かす人 潤うまち~雨から始まるグリーンインフラ~」というテーマで、このグリーンインフラについて幅広い分野からの発表がありました。グリーンインフラと雨との関わりが重要なキーポイントとなっています。米国のポートランドやシアトルでは、植物を上手く使って、雨水の流出抑制や水質改善を図っており、当ウエブでも小川幸正さんが「米国西海岸のグリーンインフラ調査に関する速報」(2016年9月26日掲載)のレポートを寄せてくださいました。
「新下水道ビジョン~「循環のみち」の持続と進化~骨子」(国土交通省)
「水防法等の一部を改正する法律が施行されました>改正の概要」(国土交通省ホームページ)
アメッジ下水道浸水対策ポータルサイト(国土交通省水管理国土保全局下水道部監修)>行政情報
「下水道による都市浸水対策について」(国土交通省/水管理・国土保全局下水道部/下水道事業課長/加藤裕之氏の基調講演テキスト(「雨水管理のスマート化戦略シンポジウム 地域とともに考える下水道浸水対策」(2017.2.16実施InterAqua2017にて)