行政

シンポジウム「大規模広域豪雨に向き合う」に参加して

Webあまみず編集部

2019年1月30日(水)に東京ビッグサイトで開催されたインターアクア2019(第10回国際水ソリューション総合展)でシンポジウム「大規模広域豪雨に向き合う」がありました。雨水市民の会の事務所がある墨田区はゼロメートル地帯にあり、洪水の危険性が高い地域です。雨を活用するばかりでなく、雨の危険性についても知っておかなくてはと思い、参加してきました。その概要をレポートします。

4名のパネリストにより、まだ記憶に新しい、西日本を中心に記録的な大雨となった平成30年7月豪雨の被害の実態や対策について報告や議論がされました。

●天野雄介氏国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 流域管理官)

3時間降雨量の期間最大値の分布、期間2018年6月28日〜2018年7月8日(「平成30年7月豪雨」(災害をもたらした気象事例、H30.7/13、気象庁)より) https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/2018/20180713/jyun_sokuji20180628-0708.pdf

3時間降雨量の期間最大値の分布、期間2018年6月28日〜2018年7月8日(「平成30年7月豪雨」(災害をもたらした気象事例、H30.7/13、気象庁)より)
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/2018/20180713/jyun_sokuji20180628-0708.pdf

気候変動の影響により、IPCCの予測では世界的に21世紀末には、気温は最高で4.8℃、海水温は2℃上昇するが、日本では世界より早く変化していくと予想されている。洪水の危険性は今後さらに増加していくことになる。平成30年7月豪雨は、昨年6月28日から7月8日に西日本を中心に全国的に大きな被害をもたらした集中豪雨で、平成になっての水害では最悪の被害となった。2万9千戸が浸水被害にあったが、そのうち内水氾濫で被害を受けたのは1万9千戸にものぼった。特に大きな被害(1000戸以上の浸水被害)があったのは、岡山市(岡山県)、久留米市(福岡県)、福山市(広島県)である。下水道施設も多く被害を受け、水処理センターやポンプ場の浸水、下水道管の破損などにより、下水道機能が停止した所が目立った。

このような中で、浸水対策を実行し効果が上がった事例がある。広島市では、JR広島駅周辺でかつて20mm/hr程度で浸水被害が発生していたため、マツダスタジアムの建設時に53mm/hr対応の14,000㎥の雨水貯留槽を作った(*1)。平成30年7月豪雨では46mm/hrの大雨だったが、被害は0であった。また、岡山市ではこの後に報告があると思うが、ポンプ場を新設して、その地域の浸水を免れた。今後は、河川行政等と連携して、メリハリある(どこを、どの程度、いつまでに)雨水管理総合計画を作り、実施していくことが求められる。

 *1マツダスタジアムの雨水貯留槽:大洲(おず)雨水貯留池と称され、グラウンド下に浸水対策用の14,000㎥及び散水やトイレ洗浄に使う水槽1,000㎥が設置されている。(Webあまみず編集部)

斎野秀幸氏(岡山市 下水道河川局 次長)

岡山市の南部にはゼロメートル地帯が広がっている。平成23年には5回の浸水があり、4,700戸が被害を受け、そのうち内水氾濫は4,600戸あまり、JR岡山駅の南西地域の被害が多かった。対策としては、河川整備や下水道施設の設置は有効だが、お金と時間がかかる。市では「岡山市浸水対策の推進に関する条例」により、開発行為などによる雨水貯留浸透施設の誘導などを実施している。特に既存施設の有効活用として、市が管理する農業用水が4,000kmもあるので、豪雨が予想されるときに水位を下げて備えるように、内水氾濫していた地域を重点に関係者と調整していた。また、ポンプ場を1箇所新設、1箇所増設した。この対策により、平成30年7月豪雨では、306mm/48hrという過去最大の大雨になったにも関わらず、この地域はほとんど被害を受けなかった。しかし、一方では、その西側の今保地区が広く被害を受けた。

平成30年7月豪雨における浸水対策の効果事例について(岡山県岡山市)(国土交通省HPより) http://www.mlit.go.jp/common/001251295.pdf

平成30年7月豪雨における浸水対策の効果事例について(岡山県岡山市)(国土交通省HPより)
http://www.mlit.go.jp/common/001251295.pdf

 

東山直氏(舞鶴市上下水道部 下水道整備課 浸水対策担当課長)

「総合的な治水対策について(二級河川高野川流域における総合的な治水対策協議会、京都府・舞鶴市、H29.3)」より http://www.pref.kyoto.jp/kasen/takanogawa_kyogikai.html

「総合的な治水対策について(二級河川高野川流域における総合的な治水対策協議会、京都府・舞鶴市、H29.3)」より
http://www.pref.kyoto.jp/kasen/takanogawa_kyogikai.html

舞鶴市では下水道整備に雨水対策を取り入れていなかった。平成16年10月の台風23号による大雨では、由良川の氾濫によってバスが立ち往生し、乗客乗員がバスの屋根に乗って救出された。同じとき、二級河川の高野川流域でも約800戸が浸水被害を受けた。高野川下流は、地盤高が低く、高潮の影響も受けやすいため、①高野川の堤防を越水、②高野川へ注ぐ排水路等を通じ市街地へ逆流、③高野川に雨水を排水できないことによる内水氾濫などの複数の要因が重なって、過去にも度々水害となっていた。その後、京都府と協議会を設置し高野川の浸水対策を行ってきた。市では高野川への排水路の出口にゲートポンプを設置したり、宅地のかさ上げや各戸貯留の雨水貯留設置の補助制度(京都府では「マイクロ呑龍」設置制度として京都府市町村と連携)などがある。しかし、平成30年7月豪雨では、高野川で568戸が浸水したため、今後さらに対策を充実していきたい。

 

服部貴彦氏(日水コン 下水道事業部 ビジネス・イノベーション部)

度重なる浸水被害を最小限にするには、下水道施設の整備だけでは追いつかない。ソフトとハードを混ぜ合わせた減災対策が必要である。実際の被害想定を考慮して、水害に弱い地域、強い地域に対する対策は当然違って良い。降雨実績や土地利用、地理的条件などを加味して、これまでの下水道計画及び河川計画に加えて雨水管理総合計画を設定する必要がある。雨水管理スマート化などシミュレーションによるシステムも充実してきている。

 

シンポジウムを聴いて

東京でこんな雨が降ったらと思うと空恐ろしいと感じました。昨年の8月に江東5区広域避難推進協議会が「江東5区大規模水害広域避難計画」及び「江東5区大規模水害ハザードマップ」を公表しました。江東5区とは隅田川の東側の江東区、墨田区、葛飾区、足立区、江戸川区を指し、ゼロメートル地帯が広がっている地域です。258万人が住んでいますが、ハザードマップではほとんどが真っ赤なのです。また、高層の建物に逃れて水害の難を逃れたとしても、水が2週間以上引かない地域の人口は100万人。全力で救出するにも2週間以上かかってしまうそうです。なんとしても100万人が広域避難するには、どうすべきか?課題が多いです。また、このハザードマップには高潮による氾濫についても掲載があります。

もちろん、治水対策として下水道や河川施策を行う意義は十分ありますが、それだけでは水害は防げません。市民も各々雨を貯めたり、浸透させることが当たり前と思う社会の仕組みを作ることも大切です。しかし、その限界を理解して、危険を察知する前に避難することをまちぐるみで真剣に考えていかなければならないなど。そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡っていました。

« »