2025.05.06
災害時の雨水活用〜のと里山空港視察レポート
笹川みちる(雨水市民の会理事・水循環基本法フォローアップ委員会幹事)

のと里山空港ターミナルビル(2025年3月1日撮影)
NPO法人雨水市民の会は、超党派水制度改革議員連盟(水議連)の下部組織である「水循環基本法フォローアップ委員会」(FU委)に委員として参画しています。FU委の活動の一環として、2025年2月28日(金)~3月2日(日)の3日間、能登半島を訪問し、昨年元日の能登半島地震と9月の豪雨災害における水に関わる被災状況と課題について視察とヒアリングを行いました。
視察先の中から、災害前から雨水貯留とトイレでの利用を行なっていたのと里山空港(能登空港)の事例についてご報告します。能登空港には、3月1日に訪問し、能登空港ターミナルビル株式会社の松茂之総務課長にお話を伺いました。

ビル内の壁面が崩落した箇所(2025年3月1日撮影)
能登空港は、石川県輪島市に2003(平成15)年に開港しました。当初から「環境配慮型」を念頭に設計されており、空港ターミナルビルの屋根に降った雨を地下のタンクに貯留し、ポンプアップして建物内のトイレの洗浄水として利用する仕組みを備えていました。屋根の集水面積は3,700㎡、地下の雨水貯留槽の容量は500㎥です。雨水利用に加えて、太陽光発電等を取り入れており、広い駐車場を備え、業務継続計画(BCP)を策定していることや、建物の耐震化、無停電化、通信や水の確保等により業務の継続が可能であることから、2021(令和3)年には国土交通省が選定する広域防災拠点である「防災道の駅」に選ばれています。
2024年1月1日に発災した能登半島地震の際には、滑走路に段差ができたり、ターミナルのガラスが破損、壁面の一部が崩落したりひびが入るなどの被害を受けました。また電気系統でトラブルがあり、自家発電が復旧するまでの1日は電気が使えない状態だったそうです。発災当時は、搭乗予定者と見送りの方およそ200名が空港ビルにおり、周囲の道路の被災で行き場を失った避難者と合わせて地震直後には約600名の避難者を受け入れました。また、滑走路の復旧に少なくとも2週間はかかるとの見込みから、1月2日には通常の立ち入り制限エリアを含めた空港の待合室を避難所として開放しました。1月3日以降、滞留者は徐々に減少しましたが、奥能登地域の住民を中心に約50名が、1月末に航空便が再開するまで空港に滞在しました。

能登空港の雨水利用トイレ(2025年3月1日撮影)
今回の視察では、行く先々で水の確保、特にトイレを流せないことによる衛生環境の悪化とストレスが被災時の大きな問題として挙げられました。その中で、能登空港で最も活躍したのが雨水を使った水洗トイレだったそうです。電気が復旧した1月2日以降は、通常時と変わらず水洗トイレを使用することができ、他の避難所と比べてかなり快適に生活することができたと伺いました。被災当初は、「奥能登で唯一使用できる水洗トイレ」として、消防、警察、電力会社、電話会社、各自治体支援者などのほとんどが能登空港を拠点に活動し、自衛隊の方もトイレットペーパーを持参して用を足されていったとのお話でした。2024年5月末までは、24時間空港ビルを開放し、能登空港を通過する全ての人のトイレ休憩の場として活用されました。ピークの2024年1月は873トン、推定で約3,000名が利用したと考えられます(図1)。
そうなると水量不足が懸念されますが、松課長によると2024年8月の少雨期の105㎥を除き、上水補給の必要はなかったとのお話で、集水面積と貯留容量、この地域の降雨量の兼ね合いから考えると、普段は十分余剰が出る量の雨水が蓄えられていたことになります。もちろん避難所で使用する飲用水については給水車で補給を受けて使っていたそうですが、雨や雪が降れば地下タンクに使用可能な水が補給されるという状況は、緊急時において大きな安心感につながったのではないかと思います。

図1 能登空港ターミナルビルの月別中水使用状況(2024年) 能登空港ターミナルビル(株)提供
過去の上水補給の実績については後日データもいただくことができましたが、5年間で補給したのは、全体使用量のわずか1.5%程度と、地震の前もトイレはほぼ雨水で賄っていたことがわかりました(表1)。また、排水処理は敷地内の大型浄化槽で行う仕組みだったため、下水道の復旧状況に関わらず水洗トイレを使用することができたそうです。

表1 能登空港 中水使用実績(2020,21,22年はデータに一部欠測あり)
能登空港管理事務所提供データから筆者作成
今回視察して改めて感じたのは、フェーズフリーの備えの大切さです。地震が起こる前から特に意識することなく、普通に雨水をトイレに使用しており、地震が起きて断水になった際も電気系統が復帰すれば通常時と変わらず、雨水で水洗トイレを使用できたということが、日頃から身近な水源を確保しておくことの大切さを裏付けています。
空港ビルという、日々不特定多数の方が利用する環境下で、開設以来20数年間、管理者が大きな負担を感じることなく、雨水トイレを維持することができ、それがそのまま災害時にも不具合なく活躍したということは、インフラとしての雨水活用の可能性にも大きな示唆を与えてくれる事例だと感じました。