活動記録

両国ポンプ所見学会報告

高橋朝子(Webあまみず編集部)

雨水市民の会の事務所がある墨田区の他、江東区、江戸川区などの地域は、川で囲まれ、しかも海抜ゼロメートルの地域です。下水道が機能しなくなることは、生活の安全までもが脅かされることにつながってきます。この辺りは合流式下水道*1ですので、弱い雨の時は水再生センターへ自然流下で流れていきますが、下水道がいっぱいになりそうなときは、ポンプ所へ送られ、川に放流されています。このポンプ所はどのように機能しているのかを、実際に見てみようと、墨田区では一番新しく最も大きい能力を持つ両国ポンプ所の見学に行きました。

表1 東京23区の下水道の全体計画 (「平成28年版事業概要」東京都下水道局より)

表1 東京23区の下水道の全体計画
(「平成28年版事業概要」東京都下水道局より)

墨田区などのゼロメートル地帯に必要不可欠なポンプ所

見学前に、東京の下水道の概要を調べてみました。下水道事業は原則、市町村の事務ですが、23区は例外的に東京都が事業を行っています。23区を10の処理区に分け、16か所の水再生センターで下水を処理しています。このうち、両国ポンプ所が属するのは砂町処理区です。砂町処理区は、荒川と隅田川に囲まれた地域である墨田区、江東区の全域及び中央、港、品川、足立、江戸川区の一部の下水を砂町水再生センター及び有明水再生センターで処理しています。ゼロメートル地帯であるこの処理区は、他の処理区に比べ雨水を排除するポンプ所が35施設と、最も数が多いところです。(表1・図1参照)

 地下深くにある両国ポンプ所

11月11日の見学者は、雨水市民の会の会員と武蔵野市「水の学校」サポーター、計8名でした。両国ポンプ所は、江戸東京博物館と一体となっており、隣には国技館があります(写真1)。ちなみに、この二つの大きな建物は、前者が2,500トン、後者が1,000トンの雨水タンクを持つ超大型雨水利用施設です。

図1 砂町処理区と両国ポンプ所の場所 (「平成28年版事業概要」東京都下水道局制作の図を加工)

図1 砂町処理区と両国ポンプ所の場所
(「平成28年版事業概要」東京都下水道局制作の図を加工)

玄関で出迎えていただいたのは、東京都下水道局東部第一下水道事務所のポンプ施設課長の山本武志さん(以下「山本課長」)外4名の職員の方たちでした。山本課長の話では、両国ポンプ所は、昭和56年から58年にかけて、両国や錦糸町の辺りで浸水被害が多発したため、昭和63年から建設工事が始まり、平成14年に完成したそうです。国技館と江戸東京博物館が雨水利用を導入した経緯と両国ポンプ所ができた経緯が同じ都市型洪水対策だったのです。

「見ていただくのが一番です。早速ですが…」と、連れていかれたのは、地下3階の整然とした広いスペース。そこには5m25cmの実物大の下水管の断面図が力士の絵とともに描かれ、「雨水が流れてくる下水管」のキャッチフレーズがありました(写真2)。

「ここは雨水が入って来るだけなのですか?」の質問に、山本課長は「ここは合流式下水道で、下水は砂町水再生センターまで自然流下で流れます。しかし、雨が降って晴天時の時間最大汚水量の3倍を超えるとポンプ所に入り、隅田川に放流されます。ご質問のとおり、合流式下水道は衛生環境の改善と雨水排除の両方を同時に達成できる一方、汚水と雨水を一本の下水道管に収容することから、大雨が降ると雨水で希釈された汚水の一部やごみ(汚濁負荷)が川や海に放流されてしまいます。」実際にいただいたポンプ所のリーフレットにも、ここのポンプは「雨水ポンプ」と書かれていました。雨水市民の会としては、「下水が混ざった雨水」と正確に言ってほしいと思いました。

表2 両国ポンプ所の運転実績 (東京都下水道局東部第一下水道事務所提供の資料より)

表2 両国ポンプ所の運転実績
(東京都下水道局東部第一下水道事務所提供の資料より)

両国ポンプ所に入ってきた「雨水」は、除塵機でごみを取り除き、地下5階の沈砂池で砂を沈ませて揚砂装置で取り出して除きます。上澄みの水は巨大なポンプでくみ出し、隅田川の水面下4.5m(A.P.-4m*2、このレポートではA.P.で表す。)の地点から放流されます。ポンプは、吸い込み口径が2.2mポンプの4台、1.5mのポンプ2台、計6台あり、雨水がポンプ所に到達する前に、全速で運転ができる性能で、ゲリラ豪雨にも対応できるそうです(写真3)。すべてのポンプが一斉に稼働すると、総排水量は3,540㎥/分となり、25mプールならば約5秒で排出できる能力を持っています。しかし、ポンプ所はどのエリアの雨を捌くのかがきっちり決められていて、例えばとなりの業平橋ポンプ所のエリアで集中豪雨があっても、両国ポンプ所が一部受け持って排除することはできません。

また、停電しても、ポンプが動くように、非常用ガスタービン発電機2基が備えられており、6台のポンプをすべて動かすと、約20時間の運転ができるそうです(写真4)。このタービンは飛行機のエンジンにも使われているものだそうです。こんな立派な施設ですが、平成25年度からは無人で、江東区の木場ポンプ所から監視、運転しています。この操作は、下水管内に敷設された光ファイバー通信網により行われています。

強雨が降って、下水管がいっぱいになりそうな時にポンプが動くため、平成27年度は雨が降ったのが114日でしたが、そのうちポンプ所が稼働したのは、35回で、延べ約74万㎥を隅田川に放流していました。ちなみに4年間の実績を比較すると、平成25年度は降雨日数や放流日数は平成27年度とほとんど変わりがありませんが、放流量は127万㎥と1.7倍でした。これは平成25年度に集中豪雨が多かったのでしょう。(表2参照)

下水道があれば洪水等は防げるのか?

砂町処理区は、降水量が時間当たり50㎜まで下水道が支障なく雨を飲み込んでくれます。しかし、1時間ずっと降る雨ではなく、短時間に100㎜を超える雨に対応できるかというと、局地的には対応できず、内水氾濫を起こす場所もあると思われます。また、これらの施設はすべて地下にあるため、大地震や高潮でポンプ所が水浸しになり、電源がすべて使えなくなって、ポンプ所が動かなくなる可能性もあります。これについて質問したところ、津波については、東京都の首都直下型地震等による被害想定では、満潮時で最大A.P.+3.7m程度の津波が想定されています(H24.4)。また、津波より高潮の方が高くなる可能性が高く、防潮堤の高さはA.P.+4.6~8.0mで計画されているとのことです。高さは大丈夫だとの回答でした。

また、最後に、降った雨を全て下水道が負担することは、現在の社会では無理なのではないか、雨水市民の会では雨の貯留・浸透・利用により都市の仕組みを変えていくことを目指しています。東京都の下水道事業でも浸透桝の普及についてパンフレットなどに書かれていましたが、下水道の分野を超えて総合的な雨水政策を展開してほしいと思いました。

見学終了後、隅田川の放流口の場所に行ってみました。堤防の内側からはわかりませんでしたが、川のテラスに行くと、お城のようなデザインの水門がすぐに見つかりました(写真5)。

なお、この見学会及びレポートを作成するにあたって、山本課長さんはじめ担当の方々にお世話になりました。ありがとうございました。

(左)写真1 江戸東京博物館、国技館と並んで建つ両国ポンプ所。 (中)写真2 両国ポンプ所の地下3階。東京都下水道局第一下水道事務所ポンプ施設課の山本課長の説明を受けた。 (右)写真3 巨大な「雨水ポンプ」6台が並んでいる

(左)写真1 江戸東京博物館、国技館と並んで建つ両国ポンプ所。
(中)写真2 両国ポンプ所の地下3階。東京都下水道局第一下水道事務所ポンプ施設課の山本課長の説明を受けた。
(右)写真3 巨大な「雨水ポンプ」6台が並んでいる

(左)写真4 非常用発電機2基、燃料タンク2基が備えられており、6台の雨水ポンプを約20時間、連続運転できる。 (右)写真5 隅田川の水面下約4m両国ポンプ所の放流口がある。水門は豪雨時に備え、常時開けているとのこと。

(左)写真4 非常用発電機2基、燃料タンク2基が備えられており、6台の雨水ポンプを約20時間、連続運転できる。
(右)写真5 隅田川の水面下約4m両国ポンプ所の放流口がある。水門は豪雨時に備え、常時開けているとのこと。

*1 合流式下水道:雨と汚水を一緒の下水管で流す方式。別々の管で流す方式は分流式下水道といわれる。東京都の墨田区は合流式下水道だが、比較的新しくできた下水道では分流式のところもある。

*2 T.P.:東京湾平均海面(Tokyo Peil)= A.P.:荒川工事基準面(Arakawa Peil)+約1m

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