2017.12.11
雨タスサロン⑨雨+バングラデシュ:石山民子さん(アジア砒素ネットワーク)のお話
花田 惠美代(雨水市民の会会員)
2017年10月11日(水)に開催された第9回雨タスサロン「雨+バングラデシュ」に参加しました。アジア砒素ネットワーク(Asia Arsenic Network)の石山民子さんによる手作りの伝統的なベンガル料理を味わいながらお話を伺いました。
バングラデシュは、1993年に発覚した砒素(ひそ)汚染による健康被害に今も苦しんでいます。雨水市民の会でも1999年から現地NGOと協力して天水(あまみず)活用による問題解決に努めていますが、アジア砒素ネットワークは問題が発覚してすぐのころからこの問題に深くかかわっておられます。
今回の講師、石山さんは25年間バングラデシュを行き来してきた方で、そうした経験に裏打ちされたお話は具体的で、心に迫るものがありました。
サロンでは、石山さん手作りの豆や何種類もの野菜が入った伝統的なバングラデシュのお料理「キチュリ」とバングラサラダが準備されていました。「キチュリ」は、とてもやさしい味のおじやで、病人にもとてもよさそうです。体を温め、バングラデシュでは雨の日に食べると言われています。トマトとキュウリの塩サラダもさっぱりとおいしく、こうした現地の食べものを味わうことによって、お話がさらに身近なものとなりました。
バングラデシュの水問題の歴史
バングラデシュは、インドの東側に位置する国で、北海道を2つ合わせたぐらいの大きさです。そこに1億6千万人が暮らしています。1947年、パキスタンの一部東パキスタンとしてイギリスから独立しましたが、1971年、西パキスタンと分かれて独自の道を歩むようになりました。
バングラデシュは、三大河川の下流域に位置し、9割が平野です。熱帯モンスーン気候帯にあるため、雨季の洪水と乾季の水枯れの繰り返しです。雨季には家から船で出なければならないほどに水が多いのに、乾季には川底をリキシャが走れる、なんてことが同じ村で起こります。
こうした生活環境に加え、飲料水・生活用水とも池や川、つるべ井戸などの表層水に頼っていたため、かつてはコレラや感染症がたびたび流行し、乳幼児の死亡率が極めて高くなっていました。その対策として、それまでの浅い井戸から、30~50mの水をくみ上げるチューブウェル(管井戸)への転換が図られました。また、下痢による脱水症状を治すために経口補水液が開発され普及したことで、大きな効果をあげてもいました。
ところが、井戸の普及から数十年がたち、インドの病院を受診したバングラデシュ人の患者に慢性砒素中毒の症状が見つかりました。バングラデシュ政府が検査したところ、1993年バングラデシュの井戸から砒素が検出されました。その後の調査で、全国の井戸の汚染が広がり、多くの慢性砒素中毒患者がいることが分かりました。
アジアヒ素ネットワークによる砒素汚染対策の広まり
バングラデシュの砒素汚染は自然由来のもの(ヒマラヤ山脈を源流とする地下水には、地質の構造上砒素が多く含まれる)です。チューブウェルを導入する段階で事前調査が行われなかったことや、水質モニタリングができなかったことは残念なことです。
砒素は猛毒ですが、少量ならば体外に排泄することができます。また初期症状であれば、砒素の入っていない水を飲み栄養状態をよくすることで快復もできるのですが、長く摂取すると、色素沈着や角化などの皮膚症状が現れたり癌になったりしてしまいます。
バングラデシュ政府は砒素汚染された井戸のポンプ口を赤く塗り、その使用を禁止しました。そして、安全な水を供給するためさまざまな措置をとりましたが、技術的・社会的な問題から思うような成果をあげることができていません。また雨水は貴重な資源であるにもかかわらず、バングラデシュの広い範囲で、雨水を飲むことに抵抗があると、感じる人が多く、手近にある汚染された井戸を使い続けて健康被害を起こすということが続いています。
バングラデシュでは近年米の増産や魚の養殖などが盛んに行われ、そのために地下水がますます利用されるようになりました。また、過剰揚水と化学肥料の多投が原因で地下の環境が変わり、地下水に砒素が溶け込みやすくなっていることを指摘する研究者もいます。さらに、灌漑を通じて砒素に汚染された水が地上にばらまかれて土壌や農作物にも砒素汚染が広がるという悪循環に陥っています。
こうした悪循環を断ち切るため、アジア砒素ネットワークは、2017年7月からは現地NGOとともに持続可能な農業の推進にも取り組んでいます。そして、安全な水の確保、栄養改善と持続可能な農業の実践、保健(健康を支える地域づくり*)の3つの分野から、持続可能な社会の実現に貢献しています。
以上が、石山さんのお話の概略ですが、地元の望みに寄り添ったアジア砒素ネットワークの活動は今後もますます重要度を増していくことでしょう。
*ODAジョソール県非感染性疾患リスク低減事業完了報告(3期:2015.3.11~2016.3.10、アジア砒素ネットワーク)