活動記録

雨タスサロン11:雨+膜「雨と膜の素敵な関係」山村寛さん(中央大学理工学部准教授)のお話

図1 膜の種類(山村寛中央大学理工学部准教授 資料提供)

図1 膜の種類(山村寛中央大学理工学部准教授 資料提供)

2018年2月21日(水)の雨タスサロンは「雨+膜」でした。「雨と膜の素敵な関係〜とことん、膜を好きになって帰ってもらう会」と山村寛先生が名付けたタイトルに、興味津々、ワクワクしてお話を伺いました。山村寛先生は、中央大学理工学部人間総合理工学科で「膜」の研究をされています。香川県の出身で、1994年の大渇水では水の大切さを見に沁みて体験し、大学で膜と出逢った時から膜の魅力に取り憑かれたそうです。白いチューブ状の膜を美味しいコシのあるうどんに似ていると、さすが香川出身の人らしい。

膜の性質・種類

実験1:コロイド状の水溶液(カオリン)①をろ過してみる。コーヒーフィルターは素通り。理科実験で使うフィルターは少し色が薄くなった程度(②)。MF膜はほぼ透明ととなった(③)。

実験1:コロイド状の水溶液(カオリン)①をろ過してみる。コーヒーフィルターは素通り。理科実験で使うフィルターは少し色が薄くなった程度(②)。MF膜はほぼ透明ととなった(③)。

さて、膜とは何?簡単にいうと粒子の大きいものと小さいものをふるい分けできるものです。穴の大きさによって取れるものが違います(図1)。実際にコロイド状の液(カオリン)と茶色のフミン酸が溶けている液を使って、ふるい分けができるかどうかをやってみました(実験1)。ろ材はコーヒーフィルタ、理科実験で使うろ紙、MF膜の3種類です。コロイド状の液はコーヒーフィルタではほとんど濁りは取れず、理科実験のろ紙は若干取れて透明感が出てきました。MFは全てろ過され透明になりました。しかし、MFでもフミン酸が溶けている茶色の液はろ過したあともほとんど変化がありませんでした。

膜の利用法

近年、膜はどのように利用されているのでしょうか。海水淡水化など上水に使われたり、シンガポールのNEWater処理設備では下水処理に使われて飲料水に匹敵する水質にまで浄化されます。また、ビール工場ではこれまでの珪藻土に代わりMFが利用されつつあります。腎臓の機能が低下して受ける人工透析もUFを使っています。将来的には人体に埋め込む人工腎臓の開発もされているそうです。

実験2:膜の作り方。プラスチックを溶剤に溶かした液を水に入れると、あっと言う間に糸のような膜ができる。

実験2:膜の作り方。プラスチックを溶剤に溶かした液を水に入れると、あっと言う間に糸のような膜ができる。

最近は浄水場でも利用されています。横浜市の川井浄水場は、道志川を水源とする明治時代からの浄水場ですが、老朽化した施設を改修し、2014年からセラミックによる膜ろ過処理で稼働しています。

膜が使われるようになったのは以下の利点があるためです。

1.エネルギー効率のよい分離=低エネルギー消費型分離

2.加熱を伴わない=熱変異性のリスクが小さい

3.低分子間の分子量の差で分離が可能

4.確実なろ過

膜の作り方

膜の多くは「相分離法」で製造されています。膜の材質はポリエチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂などの高分子材料が多く、溶剤に溶かしてから一気に冷やしたり、溶けない溶媒に浸すと、混合物が不安定化してプラスチックが網目構造となります。このときのポリマーの組み合わせ、溶剤の混合比、冷却速度や冷却温度など、様々な条件の違いにより孔の形状や大きさが違ってきます。山村准教授は、膜を作る実験(実験2)もやりました。

家庭用浄水器の構造

さて、日常生活で一番よく目にする膜は家庭用の浄水器です。ろ材の種類は中空糸膜と活性炭、取替えの目安として3カ月と表示されているものが多いが、これは、膜ではなく、活性炭の寿命によるところです。膜は目詰まりしたり破れたりすることなく、さらに長く使えます。

膜の課題

海水の淡水化は、逆浸透膜(RO)を使って実用化されていますが、1㎥あたり約160円もかかり、エネルギー消費も大きい。このための対応策として「正浸透」という方法が着目されています。膜は、先に上下水道で利用されている話をしましたが、実際に運用する場合、膜の目詰まりをどのように運転条件の中に組み入れ、どのような薬品で洗えばよいのかの技術の開発が待たれます。下水道では硫酸ジルコニウムを使ってリンを選択的に吸着させる技術とMF・UFを使った膜処理により、リン回収をすることが検討されています。また、使用済みのRO膜を再生し、再利用する研究もされています。さらに膜の目詰まりを解消させる研究として、目詰まり物質を食べる微生物の研究もされています。

雨水と膜

日本の人口は2050年に1億人を切ると言われています。水道事業に着目してお話しすると、水道管路は高度経済成長期に整備されましたが、法定耐用年数40年の更新が進まず、全ての管路を更新するには約130年かかると想定されています。一方で、水道事業者の技術職員数は30年前に比べ30%減少し、10年以内に現技術職員の40%が退職を迎えます。このような状況で、水道事業を今まで通りに維持管理していくことが大変困難になっています。

雨水は誰もが簡単に利用できる天からの恵みです。水質も比較的良いので、用途によって膜と組み合わせることによって望みの水質が確実に得られます。すなわち雨水は「分散型水資源」の一つです。下水道にしても同様な問題があります。今後、エネルギーをかけずに個別に水処理できる膜のあり方が注目を浴びると思います。

2018年2月21日(水)に開催された雨タスサロン「雨+膜」。右写真は、膜をこよなく「愛する」話し手の山村寛准教授。

2018年2月21日(水)に開催された雨タスサロン「雨+膜」。右写真は、膜をこよなく「愛する」話し手の山村寛准教授。

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