2017.06.28
グリーンインフラ・雨水活用の先駆け、三井住友海上駿河台ビル
Webあまみず編集部
グリーンインフラの実例見学
「グリーンインフラ」という言葉を知っていますか?一言でいうと、「自然の力を賢く使う」ことです。2013年、欧州委員会(EU)では、EUにおける生物多様性戦略を進めるうえで2020年までにグリーンインフラを導入することなどを採択しました。米国では、グリーンインフラは雨水管理や洪水対策と環境保全を同時に実現させうることに注目し、ポートランド市などで取り組んでいます(「米国西海インフラ調査に関する速報」(小川幸正レポート”Webあまみず”2016/10/21掲載参照)。日本でも2015年に国土形成計画に取り入れられ、防災、減災の点から国策として始まっています。
このように新しい概念と思われるかもしれませんが、歴史的にみると日本では里山や昔からの治水技術など、グリーンインフラの考え方に近いものがあります。また、近年でも都市開発における実践例があります。雨水市民の会では、都市の雨水管理に着目しグリーンインフラの先駆けとなった三井住友海上保険株式会社の本社ビルの見学を2017年6月3日に行いました。(参加者9名)
生物多様性に配慮した建物
JRお茶の水駅から歩いて5分のところにあり、周辺は日本大学、中央大学、明治大学がある学生街でもあります。見学は、地球環境・社会貢献室の浦嶋裕子さんに案内していただきました(写真1)。
1984年に竣工した際には、地域の要望で低層部の屋上約2500㎡におよそ100種類の植栽を施しました。その後、本社機能の拡大により隣接する敷地に駿河台新館を建設する際には、計画の段階から緑地を生物多様性に配慮する試みが取り入れられました。2012年に駿河台新館が竣工し、翌年2013年駿河台ビルの改修工事が終わりました。生物多様性の視点から、皇居、上野公園の鳥や蝶が訪れるように、植物は在来種を中心に鳥や蝶が好む実のなる樹木を植えてあります。生物多様性に関する数々の賞も受賞しています。
地域の雨水管理に役立っていた
当会との交流を通じて、「アピールすべきなのは、地元とともに取り組む緑地管理や近くの大学と連携したバードウオッチングなどの活動に加え、豪雨対策にも役立っていることだと認識しました」と、雨水の適正管理も重要と気づいた浦嶋さん。保険会社であるだけに、生物多様性には関心が薄い社員にも、豪雨対策に役立つというと説得力があるとのことです。
本館と新館を合わせて敷地17,000㎡に対し、緑地は7,000㎡。本館の地下には3,500㎥の雨水槽を備えています。2,500㎡の屋上庭園(写真2)は、ふかふかの良い土が1mの厚さで敷かれ、空隙率30%とすると、750㎥の空隙があることになります。雨水槽を空にして備え、屋上庭園の緑地だけを考えた場合、単純化すると、合計4,250㎥の蓄雨が可能となるわけです。もし、蓄雨の機能がないと、例えばこのビルの敷地17,000㎡に100㎜/hrの豪雨が降ると、1時間に1,700㎥の雨が下水道に流れていくことになるので、2時間30分は下水道に流れない計算になります。ほかの緑地も4,500㎡あるので、さらに上回る蓄雨能力があると思われます。
実際、豪雨予報がある際は、ビル管理の担当者が雨水槽の水を事前に下水道へ流しているとのことです。なお、雨水槽の水を何も使わずに下水道に流すときは、下水道料金は取られていないそうです。
ビルが林立するこのような地域にとって、雨をため雨水が一気に流れ出ない場所があるということは、大変頼もしい存在です。
雨水槽の水は、雨の少ない冬季でもトイレの洗浄水や緑地の散水に月に370㎥を利用しています。また、雨水の他、ビルで使われたトイレ排水以外の雑排水を処理して、これもトイレの洗浄水に月に1,300㎥利用されています。
他にも様々な試みがされています。車道の歩道側にある「レインガーデン」(写真3)は、規模は小さいですが、周囲の雨を一時貯留させ地面に浸透させるもので、緑地帯にもなっています。最初は湿地に生える植物を植えていたそうですが、今では鳥が運ぶ種で周辺の植生も生えてきていますが、あえてそのままにしているそうです。
また、屋上庭園のわきには地元の人たちに農園として貸し出しているスペースがあり、見学当日も十人程度の皆さんが農作業に勤しんでいました(写真4)。この水やりにも雨水が使われているとのことでした。
普段から植物や鳥や虫たちに優しいまちは、防災にも役立ち、地域との交流も図れる、一石三鳥の効果があるのです。グリーンインフラは複層的に多様な効果があると実感しました。
* ECOM駿河台では、雨水市民の会の『雨となかよく!「あめかつ(雨水活用)」のススメ』を7月14日まで展示しています(写真5)。ぜひ見に行ってください。