2016.08.01
雨水水質調査事業の中間報告~安心して利用できる雨水の水質とは
柴 早苗・高橋朝子(雨水市民の会理事)
当会が2015年7月から実施している雨水水質調査事業では、雨水をより安心して利用できるように水質の実態を調べています。その背景として次のような市民の意識や排気ガスの影響がどの程度か把握できていないことがあります。
1.雨水活用に接していない人は”雨水は汚い”と思っている。
2.雨水活用していても、トイレの流し水や散水に使っている人は水質を気にしていない。
3.雨水活用は災害時に生活用水として利用することが期待されているが、どこまで利用できるのか?飲めるのか?を気にする人が多い。
4.雨水の水質は排気ガスや屋根に積もるばい塵の影響を受けていることが推測されるが、どの程度かが不明。
雨水利用実態調査結果の概要について
実態調査は、2015年7月~2016年6月の期間に利用実態アンケート及び簡易水質検査の2本立てで行いました。調査対象は、首都圏を中心(他福井市、近江八幡市、長久手市)に会員や雨活している個人や施設を調査しました。
調査の内容及び主な結果は表1の通りです。雨水利用実態アンケート調査は、近接状況や雨水タンクの材質や維持管理などについて53施設に協力していただきました。
集計した結果の主なところは、以下のとおりです(図1及び図2参照)。
1.雨水タンクがある場所は住宅地が70%、幹線道路近くが25%
2.タンクに入る前のごみ取りがあるタンクは60%
3.タンクは、メーカー品42%、オーダー品32%、自家製26%
4.タンクの容量は、100~200ℓまでのものが最も多く40%、次に1~10㎥のものが38%
5.タンクの清掃は、していないが53%、しているが17%
6.用途は、散水のみ55%、トイレ洗浄・散水・洗車などの複合用途が40%
簡易水質調査は、雨水と水道水のpH値及び電気伝導率を散布図(図3)で表したところ、pHについては、雨水は酸性からアルカリ性まで幅がありますが、水道水は7.5前後で変動幅が小さくなっていました。電気伝導率(水に溶けてイオンになっているものが多いほど高い。)では、雨水では120μS/cm未満が9割を超えていましたが、逆に水道水は120μS/cm以上が9割を超えていました。この結果、雨水は中に溶けているものが少なく、「天然の蒸留水」と言えます。
また、雨水タンクの材質とpH値の関係を図4に表しました。いずれも設置後6年以上経過したものですが、樹脂製のタンクとコンクリート製のものではpHの平均値に優位な差がありました(t=5.49,df=32,ρ<0.025)。コンクリート製タンクではpHの平均値が7.6、樹脂製タンクでは平均値5.5となり、コンクリート製のものはアクが溶出してアルカリ性に傾いたと思われます。樹脂製タンクでは、設置年数や立地条件を無視した分布図でも図3と同様に二山になるのですが、原因は不明です。
課題として残ったもの
今回の調査は、当会が少ない予算の中でできうる範囲で行ったもので、調査数が少なく、因子別のデ-タの分析が困難でした。とくに、当初の調査の目的で、雨水の水質について、排気ガスや屋根に積もるばい塵の影響がどの程度あるのかをみるために、住宅地と幹線道路に近い立地での電気伝導率の平均値の優位差を調べたが、調査数が少なく、結論は出ないままとなりました。
また、着色した雨水がいくつかあり、ポンプや配管のサビが雨水に溶けたのか、それとも有機物がタンクに入って雨水に溶けたのかがわかればよいと思い、特に幹線道路に近い雨水タンクをターゲットに簡易検査(色度、過マンガン酸カリウム消費量(有機物)、鉄)を追加してみました。色度は、標準液を調製して目視で比色しましたが、光の入り具合で違って見えたり、特に水道水水質基準である5度以下のものが判定が困難でした。過マンガン酸カリウム消費量と鉄はパックテストを使用しました。過マンガン酸カリウム消費量は、低濃度の発色が見辛く、これも判定が困難でした。鉄については、ポンプなどのサビで色度が高かったと思われる検体(汲み始めはサビ色だったが、汲み上げ続けるほどに色が薄くなった)もパックテストの発色が思うように進みませんでした。しかし、判定時間より長くに放置すると色度に応じて徐々に発色してきました。これは、鉄分がコロイド状でイオンの状態ではなかったため、発色しにくく、電気伝導率も高くはなかったと思われます。
今後は分析機関に委託し、上記の問題も踏まえて、一般に行われている簡易11項目を主体に、有機物や排気ガスなどの汚れの影響等が分かる検査項目も実施していきたいと考えています。
(この記事は、2016年7月16日、雨水市民の会主催の「雨水活用研究・活動発表会」にて発表した内容をまとめたものです。)