技術・ビジネス

雨水利用に関する本の紹介

小川幸正(雨水市民の会理事)

はじめに

「雨水の利用の推進に関する法律」が2014年に制定され、これに基づき国全体の取組みとして雨水利用の推進が発表されました。しかし、実感として雨水利用が大いに普及してきているようには思えません。それでも、国土交通省水資源部によれば、雨水利用施設数は4105件に増加しています(図1)。この件数は中型・大型の雨水利用施設の20223月末の実績数です。この中には住宅用の100200ℓレベルの雨水タンクの数は含まれておらず、住宅の件数は数十万基あると言われています。これからの雨水利用施設の普及・促進のために、一般向けや技術者向けの本を以下に紹介しますので参考にして下さい。これらは、私が所有している図書から私の個人的な意見や判断で紹介させてもらいますのでご了解ください。

雨水利用施設数の推移 ※国土交通省水資源部調べ・令和3年度末現在(国土交通省HPより)

最近の雨水利用に関する本の紹介

住宅用などの小規模の雨水利用に関する本は、本NPOが30年近く前に出版した「やってみよう雨水利用」(1994年8月発行)があります。その後、中規模・大規模向けの雨水利用に関する図書は主に技術者向けに出版され、私も執筆の一端を担ってきました。1980~1990年代に住宅用の雨水利用が渇水対策や水資源確保のために話題になりましたが、それなりの増加にとどまりました。その後、雨水利用は雨水の流出抑制や地震時などの災害時対策の有効性の観点から見直されました。そのため、雨水利用にこれらの新たな付加価値を入れて、2010年代から技術者向けに出版されています。また、最近は一般向けの図書も発行されましたので、これらの主な雨水利用の本を紹介したいと思います。

2010年代以降の主な図書を一覧表にしたのが表1の5冊で、一般の方向け1冊と主に技術者向け4冊を紹介します(写真1)。

表1 雨水利用に関する最近の書籍

図1 雨水利用に関する図書(5冊)

最近出版された一般向けの「雨水利用の知識」は、長年にわたり雨水利用の技術・研究に携わってこられた岡田誠之氏が、家庭用の小規模から大規模の雨水施設を対象に扱っています。雨水の水質、設計手法、問題点と対応、維持管理ならびに温室効果ガスの側面からの評価を分かり易く解説しています。特に、住宅等で雨樋から雨水タンクに集水する際に落葉やごみなどを排除するための各種フィルターを使った場合の集水率のデータも図示されています。一般の方が雨水利用に関して読まれるには、読み易い本だと思います。

住宅用から中小規模の雨水利用施設向けには、(一社)日本建築学会の「雨水活用建築ガイドライン」と「雨水活用技術規準」があります。主に技術者や管理者並びに公務員向けですが、雨水利用に関心のある方には参考になる本です。特に、「雨水活用技術規準」は、「蓄雨」という概念を提案し、治水・防災・利水・環境の各側面から、雨水活用の評価方法とその意義を示しています。

中規模から大規模の雨水利用施設に関しては、国土交通省大臣官房官庁営繕部設備・環境課監修の「雨水利用・排水再利用設備計画基準・同解説 平成28年版」が、官庁施設のみでなく一般の施設でも適用できる基準となっています。本基準には、雨水利用水の水質や標準処理フロー(3方式あり)が記載されています。また、基本計画・実施設計・施工・維持管理の各項目にわたり詳細に解説されています。さらに、「雨水利用の実務の知識」は、設計・施工・維持管理に関して、技術者が実際に活用できるレベルの内容が記載されております。この2冊は、一般の方が手にして住宅用雨水利用で参考にするには、規模の違いもあり少し難しいかもしれません。しかし、雨水利用の基本的な考え方や降水量データなど関連情報を入手するためには有用だと思います。

少し前の住宅向けの雨水利用に関する図書

雨水利用が注目された1980年代や1990年代の一般向けの図書は、本NPOや(一社)日本建築学会でも出版しております。その代表は前出の「やってみよう雨水利用」(注1)です。この本に記載の内容は、住宅の雨水利用に関して絵を使って記載しているので、一般の方にも分かり易い図書です。本書は、海外でも反響を呼び、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語などに翻訳されて活用されています。さらに、雨を雨水利用という側面だけでなく、雨と日本人、暮らしに生きる雨、地球をめぐる雨、生命をはぐくむ雨という広いジャンルにわたって記載した「雨の事典」(注2)があります。今でもこれらの本は、読んでいて面白さを感じます。

さらに、雨水利用に関連して雨と建築物とのかかわりの観点から(一社)日本建築学会から雨水活用に関心のある方用に、「雨の建築学」(注3)、「雨の建築術」(注4)、「雨の建築道」(注5)の3冊の読本が出版されています。国内外の建築物の事例の写真や図を豊富に使用して、分かり易く解説した図書ですので、ご関心のある方はお読みください。

なお。このうち4冊が北斗出版という出版社から発行されましたが、現在、廃業に伴い、手に入りにくくなっています。「やってみよう雨水利用」「雨の事典」は当会に在庫がありますので、事務局メール office@skywater.jp へお問い合わせください。また、「雨の建築学」「雨の建築術」はインターネットでの購入はできますので、試してみてください。

(注1)グループ・レインドロップス編:やってみよう雨水利用、北斗出版、1994年8月

(注2)レインドロップス編:雨の事典、北斗出版、2001年12月

(注3)日本建築学会:雨の建築学、北斗出版、2000年6月

(注4)日本建築学会:雨の建築術、北斗出版、2005年7月

(注5)日本建築学会:雨の建築道、技法堂出版、2011年7月