2011.03.30
【Report】日本建築学会 第33回 水環境シンポジウム雨を制御し、活用する新たな建築をめざして
あまみず編集委員 大西 和也
2010 年11 月13 日、( 社) 日本建築学会 水環境運営委員会 雨水建築規格化小委員会が主催する「第33 回水環境シンポジウム『雨を制御し、活用する新たな建築をめざして』」が、東京三田の建築会館にて開催され、150 名余りが参加した。
日本建築学会が2007 年より開始した‘ 建築における雨水利用の規準づくり’ が終盤を迎え、「雨水活用建築ガイドライン」として今年発行されることとなり、今回のシンポジウムで、その概要説明と健全な水循環系の再生等の課題に対して、建築が果たすべき役割を考えるというテーマで行われた。
ここ数年、雨水利用についての注目度は高まっている。特に今回のシンポジウムは、今後雨水利用に関する法律や制度の基礎となっていくと考えられる雨水利用のガイドラインの概要が聴けるとあって、建築分野だけに限らず多方面からの参加者も多く、会場はほぼ満席であった。
シンポジウム前半では、小委員会の主査である神谷博氏より、このガイドラインづくりの経緯や趣旨について説明が行われ、それに続きガイドラインを構成する4つの項目「設計ガイドライン」「製品ガイドライン」「施工ガイドライン」「運用ガイドライン」の概要と考え方についての説明、質疑応答が行われた。後半では、九州大学大学院教授 島谷幸宏氏、東京大学大学院教授 古米弘明氏、国土交通省 細見寛氏の3 名より「今日の水問題と雨水の役割」というテーマで各分野からの話題提供と、広島大学特任教授村川三郎氏をコーディネーターに「雨を活用する新たな建築をめざして」と題したパネルディスカッションが行われた。
日本建築学会が示す「雨水活用建築ガイドライン」は、これまで“ 中水” や“ 雑用水” の一部として捉えていた“ 雨水” を独立した水系とし、水道に次ぐ上質な水資源として位置付けている。
また、これまで一般的に使われてきた“ 雨水利用(rainwater utilization)” に替え、雨水の貯留、浸透、利用全てを包括し、雨水を制御し活用するという意味で“ 雨水活用(rainwater harvesting)” という言葉を用い、建築とその敷地に積極的に雨水活用を取りいれたものを“ 雨水活用建築” としている。
その上、雨水活用の際に重要と考えられる雨水の水質について、「整雨レベル」「制菌レベル」を設けている。「整雨」とは、“ 雨水を整える”、すなわち雨水中の混入物を除去することで、その除去度合いを「整雨レベル」によって表す。「制菌」とは、除菌や殺菌行為のことで、その度合いを「制菌レベル」によって表す。この「整雨レベル」と「制菌レベル」を用いて、雨水活用の用途に応じた水質の推奨レベルを示している。また、整雨や制菌のレベルを明確にし、そのレベルを維持できる雨水活用システムを組むことで、お風呂や飲用水に利用することも可能とし、今までより幅広い用途での雨水活用を提案している。
この他、一時貯留、浸透、屋根や池からの雨の蒸発や緑化による蒸散といった項目も設け、水道水の代わりに雨水を使用するための機能に加え、雨水の流出抑制機能も同時に果たす建築にすることで、近年増加するゲリラ豪雨対策として大きな役割を果せるとしている。
今後、日本建築学会では、雨水活用建築ガイドラインの普及活動に加え、雨水活用の技術規準づくりや人材育成のシステムづくりにも活動を広げて行く予定とのことで、今後の活動にも注目していきたい。