技術・ビジネス

下水汚泥から水素を生産!再生可能エネルギーの新たな資源

小川幸正(理事・㈱大林組)

2015年7月30日の下水道展で、特別企画として「水素社会と下水道」の講演がありました。私は仕事の関係から、下水汚泥から水素の製造に関心がありましたので講演を聞いてきました。下水道は下水や雨水を収集して適正な処理や放流をして、水循環を構築する役割を担っています。下水道の普及率が全国的に大幅に向上し、最近は下水処理に伴って発生する下水汚泥の利活用が注目されています。雨水の利活用とは直接結びつきませんが、下水処理の分野でも水素化社会に向けて、大きなチャレンジをしているのでご紹介したいと思います。

下水道展で「水素社会と下水道」講演を聞いて

上記の講演では、九州大学水素エネルギー国際研究センターの田島正喜教授、福岡市道路下水道局の津野孝弘課長、本田技研工業の岡本英夫主任技師が講演されました。田島教授は、「なぜ今、水素社会なのか!?―水素社会構築の意義から下水汚泥利活用まで―」の演題で、水素社会構築の意義を、資源(エネルギー)制約と環境制約を回避するためには水素社会となることであると、必要性を講演されました。資源制約では、下水汚泥を原料にすることによりエネルギー自給率向上で輸入比率の削減と地域バイオマスの効果的活用に繋がります。また、環境制約は、温暖化ガスの削減効果に繋がる再生可能エネルギーである点です。

写真1 福岡市中部水処理センターの水素ステーション

写真1 福岡市中部水処理センターの水素ステーション(筆者が2015年4月見学時に撮影)

福岡市の津野課長は、「水素リーダー都市プロジェクト―下水バイオガス原料による水素創エネ技術の実証―」の演題で、福岡市中部水処理センターで実証中の事業(写真1)の内容とその経過を報告されました。下水から燃料電池の自動車を動かす「夢のプロジェクト」を実証し、その成果を全国に水平展開することを期待し、「水素社会の実現」に寄与することが目的です。

本田技研工業の岡本主任技師は、「水素社会に向けたHondaの取組み:「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現」の演題でした。Hondaの描く水素社会では、燃料電池車による水素の使用、再生可能エルギー由来の水素を電気分解でつくるスマート水素ステーション、車の燃料電池から外部の給電系に送電するシステム開発で構成されます。燃料電池車は2015年に量販化のモデルを上市予定です。2020年には更なる低コスト化を行い拡販予定とのことです。

下水処理場を水素ステーションに

水素社会構築は、資源制約と環境制約から将来は「水素社会」が目指す目標となります。水素は単位重量当たりの発熱量が他の燃料より大きく、液体での貯留ができて運搬しやすいこと。また、水素を燃料とすれば温室効果ガス(炭酸ガス)の発生がないことなどが大きな特徴です。そういえば、昨年12月にトヨタから燃料電池車の「MIRAI」が販売され、話題を呼びました。

現在の水素は化石燃料を使用した各種の製造業における副産物として発生したガスを精製して水素を製造していますが、再生可能なエネルギーとしての水素を下水汚泥から製造する技術が開発中です。下水汚泥から水素ができれば、日本国内の資源からの製造ですし、廃棄物となる下水汚泥の有効利用でもあります。日本では初めて、昨年度から福岡市中部水処理センターで下水汚泥のメタン発酵から発生した消化ガス(メタンが60%程度)を改質して、高純度の水素を製造し、水素ステーションで燃料電池車の燃料として活用する国土交通省の実証実験が始まっています(写真1)。図1は実証実験の事業イメージです。

図1 下水バイオガス原料による水素創エネ技術の実証の事業イメージ (三菱化工機ニュース(プレスリリース情報)、№425、平成26年4月4日)

図1 下水バイオガス原料による水素創エネ技術の実証の事業イメージ
(三菱化工機ニュース(プレスリリース情報)、№425、平成26年4月4日)

下水処理場は都市の近くにあり、一般的に敷地は広いので水素ステーションの設置が容易で、また下水汚泥から水素が製造できれば、現地での調達になります。水素は自動車燃料以外に、定置式燃料電池を設置することにより、集合住宅や事務所ビルなどでの発電と熱供給ができます。実際にはまだまだ経済性や各種の規制やインフラ整備の構築など課題は多数あります。しかし、東京オリンピック・パラリンピックの際には、燃料電池車による移動も話題になっており、“自動車排ガスが水”という究極の燃料が、下水処理場の汚泥から日本国産の水素ができることは、夢ではなくなっていることは確かです。

なお、下水汚泥からの消化ガスの発生量は少ないので、下水処理場に生ごみや食品工場残渣等を持ち込んで、メタン発酵すれば消化ガスの発生量が大幅に増加するので、下水処理場を水素製造施設にする夢を描くことができます。このため、下水処理場は下水処理だけでなく、各種の廃棄系のバイオマスを集めて燃料を生産する燃料生産施設を兼用する施設になるかもしれません。前述の廃棄系バイオマスは、燃料資源の乏しいわが国で燃料を生産できる貴重な資源に将来は変わっていくことを期待します。

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