技術・ビジネス

雨活アイデアコンテストの8年間のあゆみ

柴 早苗(雨水市民の会理事)

日用品メーカーのライオン株式会社(以下「ライオン」)は、雨水市民の会の本拠地と同じ墨田区にあり、当会の環境学習活動の支援をしている、当会と関わりの深い会社です。本社ビルの屋上庭園では、雨水を散水に使っています。2010 年には雨水活用のシンボル的な雨水集水貯留装置「両国さかさかさ」を両国国技館前に設置し、墨田区に寄贈しました。その後、大阪府や宮城県石巻市などライオンとゆかりのある地域へも同様の寄贈を行っています。

ライオンは、「洗うこと」を通じて水と深い関わりのある事業を展開していることから、「雨の恵みひろば」をホームページ上に展開し、CSV 推進部を中心に「雨水活用の普及啓発」に力を入れてきました。その一つが 2011 年から実施してきた「雨活アイデアコンテスト」です。この企画は当会と共催の形で開催し、2018 年で終了しました。ここで 8 年間のあゆみを振り返りたいと思います。

雨活アイデアコンテストとは

雨活アイデアコンテストは、全国の小学生・中学生を対象とし、身近な雨を通して水の大切さや世界の水問題、水辺の生きもの、水の循環など、水に関することに興味を持つきっかけづくりになることを目指して行いました。学校や地域の環境活動などの団体を通じて募集され、個人での応募も可能としました。

募集テーマは、当初、「“ 雨水 ” を観察しよう」「“ 雨水 ” 活用するアイデアを考えよう」の 2 つのテーマで、まずは雨水に興味を持ってもらうことを目的としましたが、2017 年からは「“ 雨活 ” を通じて水の大切さを考えよう」と、さらに本質に踏み込んだ内容をテーマとしました。

写真1 2019年1月19日、キッザニア東京で「雨活アイデアコンテスト2018」の表彰式を開催した。最優秀賞を受賞した小学生4名、中学生4名とその家族、総勢22名をご招待した。(写真提供:ライオン株式会社)

写真1 2019年1月19日、キッザニア東京で「雨活アイデアコンテスト2018」の表彰式を開催した。最優秀賞を受賞した小学生4名、中学生4名とその家族、総勢22名をご招待した。(写真提供:ライオン株式会社)

募集部門は、①作文部門 ②ポスター部門 ③自由研究部門(2016 年から自由表現も追加) ④標語部門(2015年まではスローガン部門)の 4 部門でした。応募期間は、夏休みを挟んで概ね秋頃までとしました。

審査は、下審査から一次、二次、三次、最終審査の順に厳正に絞り込まれ、当会も主催者として理事を中心とした会員が二次審査を担うと同時に、理事長が最終審査に参加してきました。最終審査は、他に有馬朗人氏(元文部大臣・審査委員長)、全国造形教育連盟委員長(学校の先生)、ライオンの社長等が加わり行われました。個人賞は、最優秀賞、優秀賞、佳作等が数点ずつ、団体賞は、一次審査会から推薦のあった学校や団体の中から奨励賞や努力賞等が選出されました。そして参加者全員に参加賞が付与されました。

優秀な作品について表彰する受賞式は、概ね翌年の1月に行なわれ、毎年受賞者と家族の皆さんが全国から東京見物等も楽しみに集合しました(写真 1)。

図1 2018年度の雨活アイデアコンテストの募集チラシ

図1 2018年度の雨活アイデアコンテストの募集チラシ

約 6 万人が参加した 8 年間を振り返って

この事業を主催してきたライオン CSV 推進部は、小中学校の全国校長会、墨田区教育委員会を始め全国の市町村教育委員会連合会、小中学校の環境教育や理科研究の全国組織、環境省、文部科学省等々の後援のもと、雨活アイデアコンテストの趣旨をライオンの事業所や社外の関係先を通じて学校へと広めました(図 1)。また一層雨水活用への理解が深まるよう、子どもたち向けの手引き書や指導に当たる学校の先生方向けの学習指導テキストを作成・配布しました。

それらの努力の結果、8 年間でのべ約 6 万人(小学生約 2 万人、中学生約 4 万人)、学校数は約 2,100 校(小学校約 1,200 校、中学校約 900 校)、その他 20 団体と、実に多くの子どもたちが雨水活用を考え取り組みました。そして回を重ねるに連れ、作品のレベルも向上してきた印象がありました。

小・中学生の応募割合を部門別に示しました(図 2)。標語は、応募数が小・中学生ともに 6 割前後と一番多く、取り組みやすい部門と思われました。2 番目は小学生ではポスター、中学生では作文になっています。言葉で表現することが年を重ねる毎に次第に上手になり、負担でなくなっていくことがみて取れます。

図3 2018年度の雨活アイデアコンテストの作品集

図3 2018年度の雨活アイデアコンテストの作品集

ポスター部門は、小学生の応募割合が中学生の 2.5 倍と多く、小学生では豊かな感性や発想で自由闊達に表現している作品が多かった印象があります。自由研究(自由表現)は、小・中学生ともに応募数は少な目でしたが、部門別に占める割合では、ポスター部門とは逆に中学生が小学生の 2.5倍多くなりました。立てたテーマに沿って実験や調査を行い、結果を導き出す長い経過を辿るため、やはり学齢が上がるにつれて方法論が身についてくるものと思われました。指導する先生方の苦労や親御さんの協力などが、作品の背後に偲ばれる事例もありました。

審査の経験から思い出されること

当会メンバーによる審査時のコメントを振り返ると、熱心に取り組む様子が想像できる作品、斬新な発想や子供らしい観察眼・表現などがきらりと光る作品に出会う度に、とても楽しく、刺激を受けました。祖父母など年長者の知恵や言動から雨水や自然を大切にすることを学んだりして、実体験からとても素直に表現する作品には、ほのぼのとした思いを持ちました。身近なところでは、墨田区の小学生たちが応募した作文や自由研究には、当会の活動との関連が感じられるものもあり、受賞の際にはとても喜ばしく思いました。

図2 雨活アイデアコンテストの小・中学生別の部門別応募割合

図2 雨活アイデアコンテストの小・中学生別の部門別応募割合

見聞きした震災時の体験や自分が暮らす地域で昔あった水争い等をテーマとして取り上げ、自分のこととして深く掘り下げた作文等も印象に残っています。ポスター部門では、配色やデザイン、表現のうまさなどを実感する中学生の作品にも、いくつか遭遇しました。標語は、感性の豊かさという点では小学生の方が勝っているような印象がありました。自由研究(自由表現)の部門では、後半の回になるにつれて、科学的かつ論理的な手法や高度な装置の工夫等も身につけた、かなり出来栄えのよいものが増えたように思いました。チームで取り組んだ優れた作品など、いくつか思い出されます。

また、審査の過程で残念に思ったことは、「雨水は汚れている」という固定観念で、実際の雨水を観察せずにろ過実験をするものや、危ない雨・酸性雨というテーマで調べたことをまとめる等の作品が比較的多く見られたことです。降り始めの雨水は、多少汚れて酸性に傾いていますが、その後は蒸留水のようにきれいになるということを、私たちの雨活普及活動の中でも伝えていくことが重要と再認識しました。

 

雨活アイデアコンテストの取り組みは、子どもたちが独自の視点で雨水活用について考え、体験することにより、「雨」を通して自然について学んだり、社会のあり方を考える良い機会になったものと思われます。今後さらに地球温暖化等の影響で異常気象が増え、地球上で洪水や干ばつなど自然災害が頻発することが懸念されます。これからは様々な知恵や経験を共有しあい対処していくことが重要です。コンテストに参加した子どもたちには、大きくなっても、世界の空はつながっているという実感、水や雨、そして自然を大切にしていこうという思いを持ち続け、諸外国の人々と手を携えて、さまざまな課題に対応していってくれることを期待しています。雨活アイデアコンテストの概要や各年毎の入賞作品(図3)等は、ライオンのホームページ「雨の恵みひろば」のサイトで紹介しています。

(当会が2019年7月に発行した「あまみずno.60」に掲載)

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