2019.11.12
みずから楽しく学ぶとは? 〜「水の学校」の試み
笹川みちる(雨水市民の会理事)
2014 年度からスタートした、東京都武蔵野市の水環境講座「水の学校」は、武蔵野市環境部下水道課が主催する事業です。2018 年度までに 5 期の連続講座を実施し、計 161 名が受講しました。また 76 名の修了生が、翌年度以降の講座の支援等を行う「水の学校サポーター」となっています。2015 年には、下水道の使命を果たし、社会に貢献した好事例を表彰する、第8回国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞(広報部門)」を受賞しました。
雨水市民の会は、開始当初から企画・運営協力を受託し、事業運営に参画してきました。これまでの 5 年間を振り返り、「水の学校」のあらましと雨水市民の会が担ってきた役割についてご紹介します。
「水の学校」とは
「水の学校」は、市民のみなさんといっしょに、水を知り、考える場です。くらしの中の身近な水循環、上下水道の役割や、水に親しむ知恵、地球規模の水課題など、さまざまなテーマを楽しみながら学ぶこと、受講生同士が仲間となって、地域での自発的な活動が広がることをめざしています。
●体験・参加を取り入れた「楽しい」連続講座
「水の学校」の柱である連続講座は、年度ごとに約 30名の受講生を募集し、半年間で 6 回程度の講座を行いました。共通して取り上げたテーマは、①水循環の基本を知る(講演、参加型アクティビティ)、②水の源を知る(水源地訪問、浄水場見学)、③水のゆくえを知る(水再生センター、下水道資料館見学)、④水から見た武蔵野市を知る(地形、歴史を知るまちあるき)です。これに、周辺地域の湧水・川めぐりや市内の下水道施設見学等の年度ごとにアレンジしたプログラム、行動につながるアイデア発表会によるまとめを加えて、一連の講座としました(写真 1)。
各回は、「楽しい講座」であることを大切に考え、見学と体験、参加型ワークショップを組み込みました。見聞きすることに加えて、講師、市職員、受講生が互いにコミュニケーションをとり、感想や自身の生活と結びつけた意見を共有することで、もっと知りたい、周囲の人へも伝えたいという意識の醸成につながったのではないかと思います(写真 2)。
●人に伝える場を広げる関連イベント・出展等
水に親しみ、知識を得ることができる1回ごとのイベントも開催しています。地元商店会の協力で実現し、親子連れを中心に約 1,000 人が訪れた「水えんにち」、下水道写真家・白汚零氏写真展とトークショー、サポーター発案による「小学生のための浄水場見学&水質講座」など、新しいことへのチャレンジを含め、幅広い企画が実現しています。
また、市主催のイベントへのブース出展、全国の自治体や関連企業が集まる「下水道展」への出展も行いました。2017 年の下水道展では、サポーターが子ども向けの水循環体験ゲームを実施するなど、学んだことを発信する機会も徐々に増えてきています。
●受講生・修了生向けステップアップ講座
一つのテーマをより深く学びたい方のために、2015年度からは、ステップアップ講座を開催しています。「(市内の)川と上水」「下水道の施設更新・耐震化・使用料」「武蔵野市の水道」「世田谷・国分寺崖線の湧水めぐり」など、受講生・修了生のリクエストを取り入れたテーマ設定で、これまでに8回実施されました。市の担当職員やサポーター、外部の専門家が講師を務め、対話を重視しながら、市が取り組んでいる課題や身近な水環境を共に考える機会となっています(写真 3)。
雨水市民の会の役割
開始当初は、雨水市民の会は普及事業の専門家として、企画立案から講師との調整、資料準備、当日の進行までを担い、事業の「牽引役」を期待されていました。幅広い層に情報を届けるため、デザインを重視したいという市の意向を受けて、ロゴ制作やパンフレットも担当し、親しみやすいイラスト、キャラクターを用いたり、水に関心が薄い人にも身近に感じられるコピーライトを心がけました(図 1)。
事業の記録・発信にも力を入れ、講座各回のレポートや水・下水道に関する豆知識等を掲載したニュースレターを発行したり、水をテーマにした武蔵野市内まちあるきマップなどを製作しました(写真 4)。
5 カ年の間に、実務は徐々に市職員に引き継ぎ、補助的に事業を後押しする立場に移行しました。その間には、下水道課を含む、啓発事業に関わる環境部職員を対象にした研修事業も受託し、「水の学校」を実践の場に、市民参加型講座の企画運営スキルを伝えました。
6 年目を迎えた 2019 年度は、講座の形態を変え、参加者の裾野を広げる講演会や修了生を対象にした上級者向け講座など、単発で参加できる講座が計画されています。雨水市民の会も引き続き企画へのアドバイスを担います。
普及活動の視野の広がり
「水の学校」立ち上げ当時の担当者であった武蔵野市職員の平塚香さんから、「下水道課が主管の事業だが、水や水循環そのものに興味を持ってもらい、その面白さやそこから広がる歴史、地形、まちづくりへの学びを共有したい。その結果として、下水道の仕組みや市の事業への理解を深めてもらいたい」という明確なねらいを示していただいたことは、私自身にとっても雨水活用の普及活動を考える上で新鮮な気づきにつながりました。
雨水を前面に押し出すだけではなく、「身の回りの水はどこから来てどこへいくのか」という視点で水循環を総合的に捉えたり、歴史や地形といった切り口で水のめぐりを意識することで、雨の降り方やゆくえについても考えるきっかけが生まれることを実感しました。また、半年間同じ顔ぶれで繰り返し水のことを考え、話すことを通して、お互いが新たな視点にふれたり、得られた知識を伝え合う機会が増えています。
今後も武蔵野市とのパートナーシップで「水の学校」を後押しすると同時に、事業からの学びやサポーターとのネットワークを会の活動にも活かしていきたいと考えています(写真 5)。
これまでのすべての発行物、講座実施風景などは、武蔵野市「水の学校」のウェブサイトからご覧いただけます。
(当会が2019年7月に発行した「あまみずno.60」に掲載)