世界の雨水

EU 水枠組み指令 雨水活用を後押し

あまみず編集委員 大沢 幸子

 EU の健全な水循環を取り戻そうとする試みは10 年前に発効したEU 水枠組み指令から始まりました。加盟国はこの指令に従って、2015 年までに域内すべての水環境を生態系が維持できるレベルまで改善しようとしています。「雨水市民の会」と協力関係にあるドイツの市民団体、fbr は、この目標達成に雨水の貯留、浸透、利用は不可欠であり、今こそ、その有効性をアピールする好機ととらえています。

EU概念図

EU概念図

 

国境を越えた流域単位の管理計画
EU は、2000 年、EU 内の全水域を対象とした環境保護と利水に関する統合的な政策、「EU 水枠組み指令」*1 を策定した。その背景には、水質悪化、水不足、河川の氾濫が頻発し、域内全体としての包括的な対策を求められていたという事情がある。この指令はEU 内の河川、湖沼、沿岸の海水、河口水、地下水のすべてを対象としたもので、2015 年までに全水域を「良好な状態」まで改善することを目標としている(目標達
成までの日程は表1のとおり)。
同指令の特徴は、州や国の境界にまたがる河川の場合、行政区分にとらわれず、流域ごとに関係機関が連携して流域調査、モニタリングを行い、一般の個人や団体、利害関係者の意見を取り入れた流域計画を策定し、水質改善へ向けての全行程をすべて公開で実施していく点にある。
また、水資源の効率的利用により、持続可能な利水を実現するために、経済的な手法を取り入れている点も特徴的だ。つまり、同指令は産業界、家庭、農業それぞれの利用セクターごとに汚染者負担の原則を取り入れて、利用者にとってのインセンティヴとなるような水の価格設定政策を導入し、水供給サービスにかかるコストを回収するようEU 加盟各国に要請しているのだ。

EUスケジュール

EUスケジュール

ドイツ国旗ドイツの取り組み
ドイツは2002 年から日本のJIS に相当する工業規格DIN に雨水利用装置を加えて、EU の中でも積極的に雨水活用*2 を推進してきた。ドイツはこの指令にどう対応しようとしているのだろうか。ドイツ連邦政府は2002 年、連邦水管理法を改正し、国内法にEU 水枠組み指令を組み込んだ。これに続いて全16州も水法を改正し、EU 指令にそって動き始めた。いくつかの州では農業共同組合から自然保護分野に至るまでの重要な水関係者たちが円卓を囲んで具体的な水域の改善策を対等に議論する仕組みを整えている。
しかし、ドイツの水環境の現状はそれほど楽観的ではない。EU 指令が2015年までに目標とする水質は単なる汚染の浄化だけでなく、生態系が維持できるレベルであり、すぐにその基準をクリアできそうなのは調査対象となった河川のわずか14%、地下水に関していえば、わずか47%にすぎない(2007 年現在)。ドイツの河川は一見、きれいにはなったが、生物の生息域としての基準に達するまでにはまだ長い時間がかかるものと思われる。

雨水活用のチャンス
ドイツの雨水活用推進団体、fbr ではEU の水循環に対する統合的政策よって水質改善を図ろうとするこのような動きを、雨水活用の有効性をアピールする好機ととらえ、機関誌『fbr-wasserspiegel』(2007.1)の中で次のように提言している。
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河川の有機物による主な汚染源は下水処理場からではなく、雨水下水道からのものだ。そこに前処理や貯留施設がない場合に、河川に病原菌や排泄物、砂、重金属が流入する。従って、雨水を貯留、浸透、利用して河川に流入する雨水の量を減らすことにより、処理コストを削減し、汚染を防止できるのである。EU 水枠組み指令の目標を実現するには、上記の点をはっきりと指摘し、個々のケースにあてはめ、具体的に検討する必要
がある。
また、水を供給するのに必要なコストを水の価格に含める政策は、雨水や中_水の利用を推進させる上で有効である。特に、地下水を汲み上げることにより、汲み上げ量が多くて地下水位が下がってしまう場合や、湿地や湧水池、小川に悪影響を与えるような場合に、雨水や中水の利用が普及する可能性は高くなる。なぜなら、このように環境に悪影響がある場合は、自然修復コストを水の価格に組み込まれなければならならず、水の価格は高くならざるを得ない。その結果、水の利用料金を少しでも安くするために、これまでとは違ったもう一つ別の水源として雨水や中水を加えた水の利用を検討する必要に迫られるからだ。
同指令は水の供給と廃棄、エネルギー確保のために持続可能な水資源利用についてのあらゆる可能性に実現の機会を与えるものだ。このことはすなわち、地表水の汚染浄化や地下水の減少を防ぐ上で雨水と中水利用の持つ可能性を示すものであり、雨水活用を普及推進する格好のチャンスが巡ってきたといえるのである。

*1 EU 水枠組み指令:EU Water Framework Directive ( 略称WFD)
*2  雨水利用:英語ではrainwater harvesting という。雨水を貯留・浸透・利用・蒸散などの方法により水循環を健全化し、資源としての水を有効に活用していくこと。雨水利用はその中の一つ。

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