2011.07.25
【東日本大震災と雨水】Report from 仙台被災者が語る被災時の水問題
取材・文:あまみず編集委員 大沢 幸子
衛生工学がご専門の東北文化学園大学の岡田誠之教授は仙台市内で被災し、2週間というもの大学の研究室でライフラインが破壊された生活を余儀なくされました。阪神・淡路大震災の調査をもとにした「災害時の水利用」などの著書もある教授に被災時の水問題についてうかがいました。
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自己水源の大切さ
「市内で水道が復旧したのは2週間から1カ月かかりました。ふつうは1週間から10日といわれていますから、これだけでも被害の大きさが分かります。その間、大学の受水槽にたまった水道水の残り水を毎日測りながらしのぎました。自己水源の確保がいかに大切か、身にしみましたね」と岡田教授は実感を込めて振り返る。
以前から同大学では受水槽の水を災害時に住民に提供する仕組みができており、地震の翌日から7日間、1人4リットルの制限付きで近隣の住民4000人に提供された。しかし、制限を大幅に上回る量を持ちかえる人も多く、災害時でも生活レベルを下げようとしない人々を見て、岡田教授は適正な水の使用用途と使用量ということを普段から意識しながら生活することの必要性を痛感したという。
受水槽の水が長期的にみて、不足することを考え、途中、雨や雪が降り、凍りついて水が取れないという問題もあったが、雨樋の立て管から容器に入れて、それをバケツに移して4日間はトイレの洗浄水に雨水を活用した。雨水はいざという時に頼りになる水源ということがこの震災でも実証された。市内には以前からニッカウイスキーの木の樽を雨水タンクとして利用している地域もあり、これが役立ったという報告もある。
マンホールからあふれ出る汚水
排水の問題はさらに深刻だ。
「断水時、ビルやマンションの水洗トイレはバケツで水を流すと紙が詰まってしまうので回収し、かなり高い位置にバケツを持ちあげて、5~10秒ほどで一気に水を流さないと汚物は流れてくれません。それこそ汚れた水が顔に跳ね返るくらいの勢いが必要なんです」。
下水処理場は沿岸にあるが、津波でタンク内は汚泥が詰まり、ポンプも故障していて利用できない状態だ。節水を呼びかけ、下水道に流れる水量を減らして、マンホールからあふれ出ないようにして生の汚物を沈殿させ、消毒をして川に流している。下水道の完全復旧にはまる2年かかるという。
災害に強い自立型給排水システム
災害時の給排水の備えは戸建て住宅、マンション、事業所の違いや都市部と農村部との違いを考えて対応すべきと岡田教授はいう。違いとは例えば水源なら農村部では雨水以外にも井戸や河川など多様なものが考えられる。都市部では受水槽、自家製手押し汲み上げポンプ等装備し、トイレの問題も戸建てで庭があれば庭に穴を掘ることもできる。戸建ては自然勾配なので電気がなくとも普通に水を流せばトイレを使えるが、汚水を地下の排水槽へ貯める集合住宅タイプは停電時使用量に制限がある。
インフラに頼らない自立型の給排水システムを備えておくことが有効な災害対策となるというのが震災を実体験した岡田教授の結論である。
岡田 誠之 Okada Seishi
工学博士、技術士(衛生工学部門)。関東学院大学大学院工学研究科博士後期課程修了、1999年から 東北文化学園大学科学技術学部環境計画工学科教授。『水とごみの環境問題』 (共著)TOTO出版(2007年)など、著書多数。仙台市内在住。