ひと・市民

あめぐみの結成からあまみずソーダ・あまみずサイダーができるまで

尾崎昂嗣 OZAKI Takatsugu (会員・あめぐみ(雨水生活普及委員会))

尾崎昴嗣さん

尾崎昂嗣さん

2021年度の雨水市民の会は7月10日(土)に事務所でのリアルとリモートの複合方式で総会を行いました。

総会前に会員の尾崎昂嗣さんから「あめぐみ活動報告『あまみず飲料化プロジェクト』」を話題提供いただきました。概略はWebあまみずに掲載しています(2021年7月28日アップ)。今回、尾崎さんからその詳細を寄稿していただきました。また、あめぐみの活動は、2021年8月14日の朝日新聞福井版および8月24日の朝日新聞全国版(夕刊)に掲載されました。(Webあまみず編集部)

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写真1 あまみずソーダ・あまみずサイダー(撮影:笹川みちる)

写真1 あまみずソーダ・あまみずサイダー(撮影:笹川みちる)

はじめに

去る2021年年6月4日、雨水から飲料を試作した「あまみずソーダ」が完成した。そして、ソーダの試作から遅れること3日、6月7日に「あまみずサイダー」の試作品も完成した(写真1)。本稿は、あまみずから飲料を試作した”あめぐみ”の取組みについて、とりまとめるものである。

背景ときっかけ

あめぐみのメンバーは、主査・幹事・委員・オブザーバーと立場は違えど、(一社)日本建築学会のあまみず活用の評価を考える小委員会(設置期間:2021.42023.3)に関わっている。雨水活用とは、災害時の生活用水の確保(防災)、洪水時の流出抑制(治水)、自然の水循環系の復活およびヒートアイランド対策への寄与(環境)、日常的な生活用水の確保(利用)、それぞれの目的のために雨水を敷地内にとどめ、活かすことである。(一社)日本建築学会における雨水活用に関する委員会活動の歴史は長く、諸先輩方による成果は数々の書籍*1にとりまとめられている。

筆者が同学会の委員会活動に参加したのは6,7年前であったと記憶しているが、当時は雨水は飲用に適しているか否か、雨水を飲む・食すためにはどのような基準をクリアすべきか、という議論で盛り上がっていた。治水や環境の観点から雨水浸透を軸に活動していた筆者としては、その議論が新鮮であった一方で、誰でも手に取ることができる、購入できるドリンクを雨水から作れないものか、と委員会の議事録を作成しながら、頭の片隅で考えていた。

少し時が経ったある頃、あめぐみメンバーの1人である笹川みちるさん(雨水市民の会・理事)に、雨水からドリンクを作ることを相談した。すると、笹川さんも雨水から飲み物、例えばビールを作ることを考えたことがあるとの回答を得た。また、雨水市民の会の諸先輩方も雨水を飲料化することを考えているが、災害時に限定して検討しているとの話を伺い、これは挑戦する価値があると感じた。雨水からドリンクを作ることに対して、笹川さんとはそこで意気投合したものの、互いの業務の都合などもあり具体的な活動に転じることができない状態が数年続いた。

*1 日本建築学会が関係する雨水活用に関する主な書籍:『雨の建築学』(2000年6月)、『雨の建築術』(2005年7月)、『雨の建築道』(2011年7月)、『雨水活用建築ガイドライン』(2011年7月)、『雨水活用技術規準』(2016年3月)

あめぐみメンバーが集うまで

2021年8月現在、未だに世界規模でまん延している新型コロナウィルスの到来により業務に制約が生じ始めた2020年前半、笹川さんと改めて意見交換し、地ビールの製造に向けて情報収集することにした。情報を集めるに連れて、雨水から地ビールができるかもしれないと思う反面、アルコールを飲めないという筆者の弱点が常に脳裏をよぎっていた。そんなある日、地サイダーの話を耳にした。サイダーであれば、筆者も飲める。そして、コロナ禍でストレスを抱えている子どもたちを少しでも笑顔にすることができるのではないか、そう思った。

その日から、雨水からサイダーを作るプロジェクトに賛同してくれそうな企業をインターネットで検索、とにかく1社ずつホームページを確認した。その中から、賛同してくれるのでは、と期待したのが北陸ローヤルボトリング協業組合であった。そして、その所在地が福井県福井市ということもあり、(一社)日本建築学会における雨水活用に関する委員会で主査を務め、五島列島赤島活性化プロジェクトにおいて雨水給水システムの構築や雨水生活のブランディングを手掛けている笠井利浩教授(福井工業大学環境情報学部)に本プロジェクトについて相談したところ、快くご賛同いただき、近藤晶准教授(福井工業大学環境情報学部)と日高規晃さん(株式会社日盛興産代表取締役)にもご賛同いただく形で、また以前から相談相手だった笹川さんも入って、5名で『あめぐみ(雨水生活普及委員会)』が結成された(結成したのは、あまみずソーダ・あまみずサイダーの試作が実現に近づいたころであるが)。

あまみずソーダ・あまみずサイダーができるまで

図2 2021年6月4日(福井観測所)のハイエトグラフ

図2 2021年6月4日(福井観測所)のハイエトグラフ

2021年年2月、意を決して北陸ローヤルボトリング協業組合にメールを送ったところ、ご丁寧に返信をいただき、オンラインで打合せさせていただくこととなった。雨水から飲料を作ったことはさすがにないとのことで、最初は懐疑的であったと思うが、打合せを重ねるごとに雨水ドリンクの試作に向けて前進していることを肌で感じた。焦点はやはり水量と水質であり、協議の結果、あまみずソーダ100本(500mLペットボトル)、あまみずサイダー100本(250mL瓶)を試作するための目標水量は200L、水質は試作品ということもあり、食品衛生法に基づき食品製造用水が飲用適の水であるか確認する検査26項目と緑膿菌、腸球菌、嫌気性芽胞菌の検査で異常が見られないことであった。

上から 写真2:集雨面の前で打合せ 写真3:集めた雨水の小運搬 写真4:雨水の整雨・制菌処理 写真5:試作したあまみずソーダ(撮影:近藤晶)

上から 写真2:集雨面の前で打合せ 写真3:集めた雨水の小運搬 写真4:雨水の整雨・制菌処理 写真5:試作したあまみずソーダ(撮影:近藤晶)

あめぐみによる作戦会議の結果、清潔な集水面から雨水を集めるため、降雨の強い日時を狙って合成樹脂製のシートを広げて設置し、降り始めの初期雨水はシート上面を流水させた後、目視レベルで水質が安定した時機の雨水を集水することとした。風などの影響で空気中を浮遊する異物を除去するために、底部がナイロンメッシュで作られた円錐フィルターを通して雨水を集水し、それだけでも水質的には十分な可能性も高いが、今回は安全率を上げるためにMF膜を通水してろ過し、紫外線殺菌装置も用いることとした。2021年5月17日、福井工業大学の協力のもと、同大学の敷地内で水質検査に向けた雨水の集水を行い、上記の整雨・制菌処理を施して第三者機関にて検査を行った。

その結果、緑膿菌、腸球菌、嫌気性芽胞菌は陰性であったものの、食品衛生法に基づく26項目のうち、pH値のみ昭和34年厚生省告示第370号に基づく規格基準(5.8以上8.6以下)に適合しないpH 5.4という結果を得た。他方、人為的に放出された酸性物質が空気中に全くない場合であっても、雨水には空気中の二酸化炭素が雨水に溶け込むため、酸性を示すことが分かっている。気象庁ホームページでは、空気中の二酸化炭素が十分溶けた場合のpHは5.6と掲載されており、水質検査を行った雨水のpHが人為的な影響を受けていない自然な状態での雨のpHと同等であることが分かる。また、今回試作するのが炭酸飲料であり、様々なホームページで情報が開示されているように炭酸飲料のpHは酸性であることから、同様の集雨および整雨・制菌方法を採用することで、北陸ローヤルボトリング協業組合よりあまみずソーダとあまみずサイダーの試作に対する承諾を得た。なお、水質検査で課題となってはいないが、合成樹脂製のシートの臭いが雨水に付着する場合を想定し、試作の際には整雨工程に活性炭フィルターへの通水を追加した。

試作の承諾を得てから1週間も経たないうちに、福井市内で517日と同程度の比較的に激しい雨が降る予報が出た。降雨予報を信じて63日の晩に福井市入りし、翌4日午前2時に福井工業大学で笠井教授と合流した。合成樹脂製のシートを広げるなど、集雨装置を設置してから約30分後に2mm/hr程度の雨が降ったが、1時間も経たないうちに小雨となり、睡魔と戦いながら激しい雨が降るのを今か今かと待っていたことが、鮮明な記憶として残っている。その後、日本の降雨予報の精度が高いことを実感することとなったが、予報どおり、午前9時頃から雨が激しくなっていった(図1)。それ以降は、集めた雨の運搬や集雨装置の点検を繰り返すことで瞬く間に時間は過ぎていき、笠井教授による整雨・制菌処理作業も慌ただしく進められた。

6月4日14時過ぎ、朝採れ雨水を北陸ローヤルボトリング協業組合に運搬し、あまみずソーダの試作が始まった。同組合のご厚意で試作工程を見学させていただいたが、ボトルに詰められた朝採れ雨水は今まで見たどの飲料水よりも透き通って美しく見えた。雨水の搬入時間が遅くなってしまったため、あまみずサイダーの試作は別日に実施することとなったが、ここにあまみずソーダとあまみずサイダーが誕生した。

試作品完成後

近藤准教授によって作成されたあまみずソーダ・あまみずサイダーのメイキング動画をyoutubeで公開したところ、大きな反響があった( https://youtu.be/YS6y_fl22nk )。笠井教授の協力もあり東京の某ラジオ番組でご紹介いただいたり、各新聞社で記事にしていただいたりと、雨水業界には属さない多くの方々にこの活動を知っていただくことができたと実感している。

写真6 あまみずドリンク試飲会(2021年8月1日実施)

写真6 あまみずドリンク試飲会(2021年8月1日実施)

あめぐみメンバーは、それぞれがそれぞれの想いを持ってこの事業に携わっているが、筆者としては自腹を切ってまでこの時期にやろうと決心した想いが2つあった。

1つは、防災・治水・環境・利水を目的とする雨水活用を、雨水業界には属さない多くの方々に考えていただく場を創出することである。コロナ禍により多大な制約を受け、対面型のイベントは断念することがほとんどであったが、「飲んでみたい!」という方々からの要望にもお応えすべく、2021年8月1日、水の日に笹川さんと都内で試飲会を開催した。試飲していただいた方々からは、「やわらかくてまろやかな味でした。びっくり!!」、「初めて雨水を飲みました。クセがなくておいしかったです。」、「あまみずソーダでハイボールを飲みたい!」など多くの感想をいただいた。また、中には「なぜ、雨水からドリンクを作ろうと思ったのか?」という問いをいただくこともあり、その時は喜んで雨水活用のこと、関連する諸活動のことを話させていただいた。これは小さな一歩かもしれないが、明らかな成果であると信じている。

写真7 家族で試飲(2021年6月19日)

写真7 家族で試飲(2021年6月19日)

想いの2つ目は、コロナ禍で学校生活が激変した子どもたちを少しでも笑顔にしたい、という気持ちである。筆者は小学生の2児の父であるが、新型コロナウィルスのまん延に伴い、各種学校行事の中止、給食は黙食、友人と満足に遊べないなど、不憫な状況を目の当たりにしてきた。そんな子どもたちを少しでも笑顔にしたい、大人だって全力で自由研究に取り組むことを伝えたい、コロナ禍でも挑戦する気持ちを忘れてほしくない、という想いから、この時期の試作品完成を目指した。あまみずサイダーを飲みながら、我が子には筆者の想いを伝えたが(恐らく、もう既に忘れているだろうが…)、可能であれば、新型コロナウィルスさえなければ、もう少し子ども向けのイベントを開催したかったのが、本望である。

終わりに

人々が毎日欠かさない『飲む』という行為に雨水という選択肢を加えることで、これまで雨水を活かす、雨水と共生するということを考えたことがなかった方々と接点を持つことができたと実感している。筆者としては、この活動を契機として、水循環系の健全化について共に考えていただける方が1人でも増えることを願っている。

謝辞

あまみずソーダ・あまみずサイダーの試作にあたって、北陸ローヤルボトリング協業組合の協力なしには事業を進めることは叶わなかった。また、福井工業大学の國廣圭太氏には、雨水の集水作業など、朝早くからご協力をいただいた。ここに記して謝意を表す。

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