ひと・市民

雨塾「首都水没~危ない都市東京を紐解く」 (その2)2015.4.26実施 土屋信行氏講演

土屋 信行(公益財団法人リバーフロント研究所 理事・技術参与)

その1からの続きです。)

ゼロメートル地帯にはスーパー堤防が必要

私が江戸川区の土木部長をしていた時、スーパー堤防は前政権の事業仕分けで停止となりましたが、江戸川区等の下町地域は逃げる高台がなく、200万人の命がかかっており命の仕分けだと訴えました。洪水の時には物理的に逃げることが出来る高台が必要ですが、この避難の高台がないのが江東デルタを含むゼロメートル地帯です。 過去を辿ってみると、昭和33年の狩野川台風の時には、荒川の堤防は切れませんでしたが、山手線を境に下町全域が水没しました。荒川に架かる木橋はほとんど流されました。また、荒川の両岸の厚さに着目すると、右岸堤つまり都心側は厚く左岸堤防は低くて薄くできています。これは都心を守るための放水路なので当然であり、江戸時代の御囲い堤防の考え方と同じです。現在でも荒川は、中堤を境に都心側が国交省の管理下で、もう一方の左岸堤は東京都の管轄となっていて、脆弱さを抱えています。さらに、東京の真下にある南関東ガス田の天然ガス採取により激しい地盤沈下が起こり、ゼロメートル地帯がさらに拡大しました。このような場所での高台の確保としてスーパー堤防は欠かせません。

地震洪水への対策を

東京は、現在、水害対策が大きなテーマとなっています。A.P±0.0m(*2)以下の低地が多く、高潮のA.P+5mでは、足立や八潮、吉川まで水が遡り、金町浄水場や三郷浄水場も水没します。水元公園や金町浄水場の下には、各々3.3万t、5万tの上水用タンクがあり、区部合計約64万tもの水が確保されていますが、タンクはあっても蛇口が水没し、タンク中の飲料水は取り出せない状態になります。 地震時、海抜ゼロメートル地帯には必ず水が来ます。東日本大震災では、東北だけでなく関東地方も1000カ所の堤防が壊れました。報道はされませんでしたが、旧中川の江戸川区域内でも300mに渡って70cmの段差が生じ、管轄の東京都になんとか修理してもらいました。また江戸川区松島では満潮時に堤防が壊れれば3階まで浸水してしまいます。 以前から地震の被害想定に洪水被害も入れるべきと考えており、中央防災会議で平成3年から言い続けていましたが、やっと2013年12月に首都直下地震被害想定に取り入れ、政府が必要性を認めました。地震洪水に関してまともな議論ができるようになったのはここ1、2年のことです。

*2 A.P±0.0m:荒川河口部の干潮時の水位0mとほぼ同じ高さであること。ゼロメートル地帯は、地盤高がA.P±0m前後の地域一帯を表す言葉である。この地域に住む人は堤防がなければ住んではいられない場所でもある。

地球温暖化による台風の頻度増と大型化、亜熱帯化する日本

「首都水没」土屋信行著(2014年8月、文春新書)

「首都水没」土屋信行著(2014年8月、文春新書)

私は、平成6年ごろから広くゼロメートル地帯は地球温暖化に耐えられるかと問題提起しましたが、何年後なのと訊かれ100年後と応えると、そのころは「正気でない」とほとんど一蹴されました。最近では受けとめてくれるようになっていますが、政策として実行・行動するにはいたっていません。諸外国や日本の気象庁は、今世紀末に気温が4.8℃上がれば海水面が82cm上がるというIPCCが発表した推計を認めています。 海水温の熱膨張で海水面水位が上がり洪水になることは大いに想定されますが、国・政府として事業実施するところまで認めておらず、どこの河川も堤防を上げていません。このように施策に結びついていないのが現状です。

また気象庁の解析では近年の傾向として、年間降水量は変わりませんが、日降水量50、80、100、400mm以上の日数はいずれも増加傾向にあります。一方、1地点当たりの年間降水日数は減少していて、日本が亜熱帯化し、洪水の危険度が増しているといえます。 平成17年の大型台風14号は九州に1年分の千数百ミリの雨を降らし、しかも温帯性低気圧に衰えず台風の勢力を保ったまま北海道を通り過ぎました。日本海全域で海水温が1℃前後高く、日本海では+1.73℃と特に暑くなりましたが、この海水温上昇によって台風の大型化がおきます。台風は1年に26.7個発生し2.6個日本に上陸しています。その進路をみると北緯5~45度と東経100~180度の範囲に収まっています。すなわち台風はこの範囲にしか発生せず、通過しないものであり、日本はそこに位置しています。台風が常襲することが確実な場所であるので、洪水対策は事前に行うべきです。

その1へ戻る)

公益財団法人リバーフロント研究所 理事・技術参与、公益財団法人えどがわ環境財団理事長、一般社団法人全日本土地区画整理士会理事、土木学会東日本大震災特別委員会タスクフォース委員、ものつくり大学非常勤講師。「首都水没」(文春新書、2014年)著。

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