ひと・市民

陸前高田雨水活用レポート(3)希望の庭の小さな家に雨水タンクを設置・寄贈

芝 桃子(雨水利用事業者の会 幹事・有限会社風大地プロダクツ)

2013年5月18日(土)、雨水市民の会と雨水利用事業者の会のメンバーで、陸前高田に雨水活用設備の設置に行きました。昨年11月の市民の会支援隊に続き、今回の訪問者は、雨水市民の会から、山本耕平理事長、松本正毅副理事長、雨水利用事業者の会からは、大西和也会長、サンエービルドシステム(株)の前田嘉人氏、(有)風大地プロダクツの芝桃子、の5名です。

「希望の庭」と呼ばれる「花っこ畑」は、高田松原から東へ1キロメートルほどの国道沿いで、津波で流された住宅の跡地にあります。被災者で元小学校教諭の吉田正子さんが、2011年夏から、園芸の好きな被災者仲間や、ボランティアたちと一緒に「花っこ畑」を作り始めました。その後、震災復興支援団体『花の力プロジェクト』ら、全国から多くのボランティアが関わり、「多くの陸前高田市民と復興を願う人々が集う庭になるように」と願い、「希望の庭」と呼ぶようになったとのことです。

その一角に、「希望の庭の小さな家」があります。滋賀県立大学環境科学部の学生たちが、柴田いづみ教授の指導のもと、間伐材を利用して、自らの手で作り上げた6畳一間の家です。「家があっての庭…」吉田さんの言葉を受けて、柴田教授が寄贈することになったのだそうです。

希望の庭の小さな家に雨水タンク2基を取り付ける

希望の庭の小さな家に雨水タンク2基を取り付ける

そして「水があっての花」。「小さな家」に雨水活用の設備を備え、ボランティアで来てくださる方の象徴的存在となってほしい、という吉田さんの思いを、前回の支援隊が聞き、雨水市民の会と雨水利用事業者の会とが共同で、設置・寄贈を検討してきました。その結果、柴田教授の手続き上の奮闘もあり、やっと今回の設置に至ることができました。

設置したものは、雨水タンク2基と、雨水簡易集水ネット「雨葉」5張り。雨水タンクは、「小さな家」の左右両脇に、家と同じく間伐材でできた、デザインもぴったり合った、特注雨水タンクです。特注と言っても、ベースとなる製品があり、ポリエチレン製雨水タンク「ミニダム200ℓ」と木製雨水タンク「雨櫃AMEBITSミニ」の合体品です。

「ミニダム200ℓ」は、かつしか異業種交流会が開発したサンエービルドシステム(株)製作の雨水タンクで、18年来ノークレームという鉄板。「天水尊」が作られなくなった現在は、雨水タンクのスタンダードの一つです。

「雨櫃AMEBITSミニ」は、サンエービルドシステム(株)と(有)風大地プロダクツで製品化した間伐材を組立てて作る角型木製タンク「雨櫃AMEBITS」の小型版で、杉板を嵌め合わせた箱に防水シートをセットして使う、お洒落な120〜150ℓの雨水タンク。

これまで、上記の合体品を特注製作した経験もあり、雨水利用事業者の会の大西会長の設計で、「ミニダム200ℓ」、雨水集水器「龍口」、縦樋と配管をまるごとすっぽりと「雨櫃AMEBITSミニ」の杉板で囲うことになりました。木製の良さで、箱の内側に縦樋を這わせて固定できたので、すっきり・しっかりとした仕上がりになりました。

雨葉が見事に水を捕まえ壺に集まっていく

雨葉が見事に水を捕まえ壺に集まっていく

一方、雨水簡易集水ネット「雨葉」は、福岡の吉村デザイン工房の製品で、畑や山中などの屋根のない所にネットを張り、雨水を集めるユニークな品です。今回の「雨葉」は、テラコッタ製の壷、竹の支柱、シュロ縄など、松本副理事長によるコーディネートと、竹を差す単管パイプをハンマーで打ち込む労作業のおかげで、とても雰囲気の良い、愛嬌のある装置に出来上がりました。

試しにじょうろで水を流すと、「雨葉」の布の特製で、水が落下せずに伝わって、見事に壷に集まり、一同、思わず感声が。「これは面白い!」。単純なことなのに、いいおじさん、おばさんたちが童心に帰って、わいわいとはしゃぐ。誰でも自然と親しむと喜びを感じるのでは。現に「雨水タンクに水が溜まっていた~!」と思わず感激の投稿をくださるお客様も少なくありません。

実は、「希望の庭」には、もともと住宅地だったので水道管があり、すでに水道水も利用できるようになっていたのです。それなのに「なぜ、わざわざ雨水利用なの?」。この問いに、吉田さんはこう答えられました。「花を育てるのに、なぜ、わざわざ水道水なの?!雨があるじゃない」。これは、今回の設置プロジェクトで得た、大切な視点です。

「花の力で心が癒された」「みなで汗を流して力を合わせて、土を耕し栽培をした」「私たちは大きな自然の循環の中で生きている」という感覚がより研ぎすまされている被災地だからこそ、自ずと雨水活用設備の設置が求められたのだろうと思います。もっともっと知恵を絞って、多くの方が雨水活用と出会えればよいと思います。

ともあれ、今回の設置ボランティアに応募させていただき、貴重な体験と感動をいただきました。雨水市民の会のみなさま、ありがとうございました。

有限会社風大地プロダクツを経営。雨水利用事業者の会理事でもある。ライオン株式会社と市民の会が共同で推進する、「雨の恵みプロジェクト」の活動の成果として作られた、墨田区の天水タンク「両国さかさかさ」、大阪府守口市の「守口さかさかさ」の設計デザインを担当。

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