ひと・市民

雨を浸透して庭がイキイキ!〜Y家(墨田区)の雨水活用

Webあまみず編集員

2022年の春、コロナ禍で休業していた雨水市民の会事務局の雨カフェをオープンしました。店頭に自転車を停めたお客様が、雨カフェ店長に「こちらが雨水活用のご相談に応じていただける場所ですか?」と尋ねられました。

写真1 表門の後ろに高木のスダジイ

同じ墨田区にお住まいのYさんです。「現在、空き地となっている敷地を、近隣の方々に行事などで楽しく集う空間として使っていただきたいと考えています。同時にこの空き地を、雨水の有効活用を試していただく場所として、雨水市民の会の皆さんに使っていただけませんか?」と申し出られたのです。現在、その企画は、空き地がある地元地域の有志の皆さんと検討が行われています。

Yさんが、空き地での雨水活用の着想に至った理由は、ご自宅で雨水活用を実践した経緯があったからでした。そこで、ご自宅の雨水活用の取材をお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。

訪問して驚きました。現在の墨田区の中では珍しい緑青銅葺き屋根のある表門(写真1)を見ながら庭内に入ると、手入れが行き届いた古民家がありました。古民家の周りには、貫禄ある高木のスダジイの他に、モチノキやクスノキなどの常緑樹、梅雨の季節に美しいアジサイ、バラなど、数多くの種類の庭木がありました。従来から、剪定や管理は家族で担い、現在はYさんご自身が「日曜庭師」だそうです。ただし、大きなスダジイだけは、2年毎に本職の庭師さんに頼んで剪定をするのが必要不可欠だそうです。

写真2 築118年目のY家の縁側。波打つレトロなガラス戸に庭の緑が映える

古民家は、1904(M37)年上棟とのことです(写真2)。1910(明治 43)年の大水害、1923(大正12)年の関東大震災1945(昭和20)年の東京大空襲でも被災を免れたとのこと。2011(平成23)年の東日本大震災では家屋内の破損が生じたため、2017(平成29)年に耐震補強改修が行われたそうです。

古民家の改修に加えて、庭内の雨水活用の方も手を入れ、通路や露地に砂を2cm、その上に白川砂利を敷いて保水力を向上させました。雨樋の先2箇所に浸透ます(写真3)、古民家玄関土間の清掃した後の水を入れる浸透ます、別の雨樋には水やり用の雨水タンク(写真4)を設けました。墨田は粘土層が多い地域ですが、この辺りは砂層が厚く、浸透しやすい場所のようです。雨水タンクの近くの脇には、雨樋から落ちる雨水で鳴る水琴窟があるのですが、壊れていて、修理・復元を予定しているとのことでした。

浸透ますなど雨水活用の改修をして5年が経ち、庭内がさまざまなな変化を見せているそうです。まず、植木の水やりが必要なくなりました。雨水タンクの水は、鉢植えの水やり、洗車、庭石洗いに使っているそうです。玄関先の浸透ますに近い枯れかけていたシイの木は元気を取り戻しました。砂利を敷かなかった露地はコケと下草で覆われるようになりました。高木のスダジイの剪定は2年に1回では間に合わなくなりました。スギが一本だけだった北側の庭に、10種類以上の低木を植樹して、今は中高木に成長しました(写真5、6)。野鳥が頻繁に飛来するようになり、年々、その種類や数が多くなりました。雨水を活用したこの5年間の自宅の庭木の成長は、Yさんにとっては、予想以上の成果だそうです。

(左)写真3 玄関先の浸透ます。コケもイキイキしていた (右)写真4 樽のデザインの雨水タンク

(左)写真5 改修前の北側庭はスギの木が一本の他、何もなかった(2017年6月23日撮影) (右)写真6 現在、植木が大きく育ってきた(2022年6月19日撮影)( ともにYさん提供の写真を一部加工)

たまたま、九州にお住まいの一級建築士で雨庭の設計に携わっておられる木村洋子さんが取材の際に同行され、こんなコメントいただきました。「自然に育っていく庭の空気は何と落ち着くのでしょう。石や湿り気をたたえた土を包む緑の様々な苔・地被類、草花、様々な灌木を囲む高木の木々、飛来する鳥たち、そして地中に住んでいるたくさんの虫たち。すべてがY邸の庭のたたずまいを作り上げています。それは自然からの恵みの雨を自由に受け止めそれぞれが必要なだけ、欲しいだけ、受けた恵みの産物なのでしょう。」

この地域は、平安時代から明治時代初期まで水と緑が豊かな田園地帯でした。Yさんは、自宅での雨水活用の実践を踏まえて、近隣の空き地を、地元の皆さん集う、雨水を活用した、水と緑の空間にしたいと考えています。

(2022年6月18日取材)

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