下町×雨・みどり

下町×雨・みどりWS第2回『意外と知らない?! すみだと雨の関わり』報告

下町×雨・みどりプロジェクト担当

第2回目ワークショップは、5月7日(土)笹川みちるさん(雨水市民の会理事)の案内で、京島の路地尊を中心にまち歩きを行い、その後曳舟文化センタ-にて同講師が今回のプロジェクトの趣旨や墨田区の雨水活用の取り組みの経緯などのレクチャーを行いました。

雨水活用をまちづくりに活かす

この地域は、京島地区まちづくり協議会が主体となって災害に強いまちづくりを進めています。まちには至る所に青いタンク(写真6)が置かれ、中の水は汲み出せるようにちゃんとバケツも入っています。また路地尊は中層のコミュニティ住宅等の屋根に降った雨水を地下タンクにためて、手押しポンプで汲み出します。名前が「◯◯一休」という名前で統一されているのが特徴的です。今回一筆書きで巡った路地尊は、なんと10ヵ所となりました(写真1〜3)。協和井戸端広場には井戸があり、テントを収納できるベンチは座面を外すとカマドにもなります(写真4)。

また長屋をリノベーションションしたギャラリーやアトリエも増えており、ユニークな雰囲気も味わえます。

1 マンションの一角にあるおしゃれな路地尊(イーストコア曳舟) 2京島のまちづくり事業で作られたコミュニティ住宅の一角の路地尊(あづま一休) 3公園の子象の横に(子ぞう一休) 4協和井戸端広場には井戸がある 5雨は樋から植木鉢へ、白丸のところに注目(ミニミニ雨庭) 6京島のまちの至る所にある消火用タンク。中にバケツもある 7車止めの上に盆栽が鎮座 8金のネズミ?

 

すみだは洪水に弱い

江東5区大規模水害ハザードマップ(2018年8月)より抜粋。白い点線が京島地域。最大浸水深は3〜5mとなっている。

すみだは、ゼロメートル地帯と言われる低地帯にあり、木造住宅が密集するまちです。まち歩きした京島地域は、海抜がマイナスの場所も多くあり、洪水の危険性が高いところです。近年、気候変動の影響で雨の降り方が変わってきたと言われ、将来にわたっても強い雨の頻度や雨の降らない日の日数が増えることが予測されています。私たち市民自らが雨のゆくえを考え、行動すべき時が来ていると思います。

現在、東京に降った雨のおおよそ半分が下水道に流れ込んでいます。墨田区の下水道は合流式*であるため、豪雨時に下水道のキャパシティーを超える量の雨が流入すると、汚水混じりの雨水がポンプ所から川へ排出されてしまいます。区内には5ヵ所のポンプ所がありますが、両国ポンプ所では、2013〜2016年の4年間の平均で、年間112日の降雨に対して、35回川への放流があったそうです。

*合流式下水道:汚水と雨水を同じ下水管で流す方法。汚水と雨水を別々の管で流す方法は「分流式下水道」という。東京23区全体では約80%が合流式である。

雨水タンクは洪水対策に役立つか?〜すみだの雨水利用

雨を捨てずにためるという発想は、今から約40年前、錦糸町周辺で都市型洪水が頻発した頃に遡ります。折しも国技館が両国に移転してくる際に、墨田区職員だった村瀬誠さん(現当会理事)の進言により、墨田区として日本相撲協会に申し入れ、1985年国技館に1000トンの雨水貯留施設が敷設されました。1988年からは雨水タンクを併設するまちの防災のシンボル「路地尊」が作られ始め、区内21ヵ所に敷設されました。1994年には、雨水利用東京国際会議が墨田区で開催され、その際の実行委員会を母体に当会が発足しました。翌年、区は全国初めての雨水タンク助成制度がつくられ、今では200以上の自治体もそれに追随しています。2006年にはすみだ環境基本条例を制定し、一定規模以上の新設の建物に雨水施設の設置を義務付けました。墨田区役所では1,000トン、スカイツリーを含むソラマチにも2,635トンなど、区内で731ヶ所、合計2万5千トン余の雨水タンクがあります(2021年3月現在)。

墨田区内にあるすべての雨水タンクを空にしたとすると、約2mm分の降水量を引き受けられます。東京都は、1時間あたり75mmの降雨に対する床上浸水等を防止するために、2014年から30年後を目途に流域対策(雨水の流出抑制)の一つとして大規模開発時や個人住宅等での浸透桝の導入や緑地の設置などで、10mm分を確保したいとしています。そのうちの2mmというのは、結構大きな部分を占めるのではないでしょうか。小規模な個人レベルのタンクでも、水がたまりやすい地域に集中的に設置すれば、地域によっては洪水対策としてより効果が出るのではと思われます。

水循環から雨を捉えなおす

都市では、コンクリートで地面を覆ったり、遠くのダムに水源を頼り、雨は下水道に捨てており、水環境に大きな影響を与えています。そのため、都市の水環境の健全化のために雨水を地域でうまく活用し環境に還していくことが求められ、近年は、NbS(Nature based Solutions)すなわち「自然を基盤とした解決策」という考え方が世界的にも喧伝されています。ささやかな市民サイドの試みとして、直接下水道にいかないように屋根の雨水を縦どいから庭などの雨が浸み込む地面に導くことや雨どいと下水道の間に設置する「雨どいプランター」といった小規模のものもその範疇とされています。

遊び心をもって雨のゆくえを見える化するのも大切です。墨田区では、2016年からすみだ北斎美術館の開館を機に文化芸術活動で盛り立てようと「森羅万象墨に夢」というプロジェクトが始められました。その際、当会でも雨のつぼ庭や水に濡れると絵が浮かび上がる「雨アート」を作成して楽しみました。

今回の「下町×雨・みどりプロジェクト」は、米国コカ・コーラ財団の助成金を得た4年間のプロジェクトですが、その拠点の一つとして、当会事務所前の一角を、ワークショップ等でアイデアを募りNbSのモデルとしたいと考えています。モデル地区の京島エリアには、小規模の雨水タンクや小さな雨庭を設置して、「雨水小路」などをつくっていきたいと考えています。

また、既存のタンクの実態を把握して、有効な洪水対策として機能する運用方法や制度について検討し、行政や市民に向けて国内外に発信していきたいと考えています。

皆さんがおすすめスポットを話題に

ワークショップの後半は、参加者がまち歩きで気になった場所の写真を題材に、自由に意見交換を行いました。

【雨水活用は利水、防災、治水のバランスが難しいと思うが、運用事例は?】

  • ・墨田区役所では雨水タンクの半分500m3を治水用に空にしている
  • ・世界水フォーラム(2003年)の頃、京都では、文化財を守るため「環境防災水利」という考え方で、町中の消火用貯水槽を、日常的な治水や環境用として何割、非常時の防災に何割とか、割り当てて運用する取り組みを進めていた
  • ・昭和30年代から水路が暗渠化して何も見えないことや、上流のメッキ工場からの薬剤が地下浸透して地下水が飲めないということもあった
  • ・隅田川沿いと違い、京島地域は防火(災)用に路地尊だけでは足らないと、井戸を掘ったりしている
  • ・雨水がどこからどこへ流れていくか下水道の管路図を調べ、下水道への流出抑制として地域毎にタンクや緑をどう配置すれば効果的で適正なのかを、考えてみたい
  • ・自然流下で流れるように巧みに敷設された下水道網など、行政が大きくなると、最先端のことをやっていても住民にはわからないというのも現状としてある
  • ・頻繁に浸水があった草加市では、雨の日に洗濯をしないことや敷地に雨水を浸透させることなどを住民に呼びかけた。ひところは住民が一緒に側溝の泥上げ、汚泥の処理を行うといったことも行われていたが、近年は行われていない
  • ・空気の汚れ、屋根の汚れが気になるところだが、途上国では雨水は地表水よりもアクセスしやすく、汚染の心配も少ないと考えられ、飲み水としても活用が図られている地域もある

【印象に残ったスポットは?】

  • ・路地尊のポンプのデザインが気になる。圧力をかける押し上げ式のものもある。ホースがおいてあるところもあったが、劣化していた。雨どいは鉄製と思われる所や長屋には銅製など様々あったが、水質に影響があるかもしれない
  • ・協和井戸広場の藤棚になっているところには、屋根をかければ雨を集められるのではないかと思う
  • ・住民の生活がにじみ出た感じの狭い路地が見られた。路地尊をもっと使ってほしいと思う
  • ・小さい槽や懐かしい防災用初期消火バケツもあった
  • ・NbSのモデルを設置する候補地の一つになりそうな所もあった。明治通りに面して樋の先を敷地に向けていて惜しい所も
  • ・棚状に花を飾っているところは、絵葉書になりそう。また、建物自体が防火帯になりそうな壁面緑化で緑あふれるところもあった
  • ・防災用、利水用、治水用の3つの用途を1つのタンクで兼ね備えるのは難しいが、普段使いながら緑多く潤いがあって心和む暮らしができるようになるとよい

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