ひと・市民

雨水活用生活レポート下北沢“雨の家”で暮らして… Part2

あまみず編集部 大西和也

2012年7月に完成した下北沢“雨の家”は2013年1月12日にレポートしたが、今回、建築後約1年が経過し、雨水活用システムも順調に運用されているようだ。今回は、“雨の家”にお住まいの早坂悦子さんに、1年間の雨水活用生活を振り返っての感想を伺った。

水の大切さや水循環を感られる

第一声、「天気予報の☂のマークに敏感になりましたね」と早坂さん。毎日、まずは天気予報をチェック。少しでも雨の可能性があれば、すぐに雨水活用システムの点検。2か所の初期雨水除去装置の点検に、雨水タンクの水位を確認。雨水が多く残っている時は、降ってくる雨を一滴でも多く溜められるように、庭の草木への水やり、打ち水、洗濯と、できる限り多くの雨水を利用して減らしておく…といったことが日課となった。また、雨が1週間も降らないと雨を待ち望むようになったとのこと。「普通の人は、こんなこと面倒だと思うんでしょうが、(少しでも多く溜めないと)雨がもったいないと思うんですよね…雨(水)の循環が身近に感じられ、水の大切さや生命の尊さ、循環の大切さを強く感じられるようになるんですよ。」これも雨水活用の大きな効果だと言えそうだ。

水質検査からわかってきた

早坂さんは、雨水活用生活をするなかで、雨水の水質を定期的に検査に出し、検査結果を蓄積されている。せっけん普及活動がきっかけで雨水利用と出会い、雨水の硬度の低さが、せっけんでの洗濯に適していることを発見し、それゆえ雨水を積極的に洗濯に利用されている。そこで気になるのが、雨水の水質。「結果をみると、ちょっと気になる点が…」2012年11月、雨水貯留浸透技術協会が数か所の雨水活用施設の水質を一斉調査したところ、“雨の家”の結果は、他の施設と大きく異なる項目があった。それは、〈色度〉〈有機物〉〈一般細菌〉の3項目。水質検査結果

“雨の家”以外の3施設は、集水面が勾配屋根、貯留は地中埋設型タンクとシステムの違いはあるが、雨水の水質を左右する『整雨(活用用途に合わせて、雨水の水質を整えること)』については、基本的に同じ考えに基づいている。でも、この3項目については“雨の家”だけが大きく異なっていた。「使っていて、何も問題は無いんですけど、(他の施設と)何が違うのか知りたくて…」と研究熱心な一言…。

この検査の後、とりあえず、一度タンク内の水を抜いて清掃を行い、屋上の木製タンクについては、木製の蓋の収縮によって発生した隙間から雨が直接タンク内に入らないように、防水シートで覆いを掛けた。また、それまでに比べ、初期雨水の排除量を増やしてみた。その結果、一般細菌の数量はかなり減少したが、色度については、あまり効果がなかった。内部写真

原因を追究したい一心で、11月の水質検査の結果を改めて見直してみた。確かに“雨の家”は、タンク内の貯留水だけでなく初期雨水も他の施設に比べ、色度は高く、一般細菌と有機物の量は多い。しかし、初期雨水とタンク内の貯留水の水質を比較した場合、色度と有機物は数値は高いにせよ、他の施設と同様の傾向にあることが読み取れた。システムの差異ではなく、もしかすると、“雨の家”の立地条件に原因があるのでは?と早坂さんは考えた。“雨の家”は、居酒屋や飲食店の建ちならぶ繁華街の一角にある。毎日、カレーや焼き魚といった様々な香りがどこからとなく漂ってくる、香りのもとは、付近の飲食店からの大量の排気だ。排気には、香りのもととなる成分や油などが含まれており、これが毎日“雨の家”の屋根に降り注ぐ。このことが大きく影響しているのではないか?特に“雨の家”は、陸屋根といって、ビルの屋上の様な形状の屋根で、一般的な住宅の勾配屋根に比べ、ゴミや降下物を溜めやすい構造といえる。これらが相まってこの水質になっているのではないかと早坂さんは考え、新たなチャレンジが始まった。古くから雨水利用施設の水質等を調査・研究されている東北文化学園大学の岡田誠之教授にアドバイスを受け、脱脂綿や活性炭を利用し、今まで以上の水質を得るための新たな整雨方法にトライしている。今後、貯留した雨水の水質がどの様に変わっていくのか、水質検査の結果に注目である。

雨を楽しむ

最後に、早坂さんはこう締めくくられた。「雨を楽しむこと、これが第一ですね。」雨水活用は、誰かに言われてやるものではなく、自分からが楽しみながら行うもの。楽しむことで、今まで見えなかったものが見え、感じられなかったものが感じられ始める。また、何かトラブルが起きても楽しんで乗り越えられるようになると思います」

『雨を楽しむ』これこそが、雨水活用の極意なのかもしれない。

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