2015.08.18
「ゆめの雨水タンク」づくり体験記
早崎 敬寛(福井工業大学 工学部2年生)
第7回雨水ネットワーク会議全国大会2014in福井では、福井での雨水活用の普及のため「あめゆきCafe」が結成され、地域住民とともに公民館に雨水タンクを作る活動がされていましたが、2015年7月に完成しました。その様子は実質的発案者の笠井利浩さん(福井工業大学教授)が、2015年度雨水活用研究・活動発表にて発表され、本サイトでも掲載してあります。今回、笠井利浩教授の教え子で「ゆめの雨水タンク」造りに携わった早崎敬寛さんに体験記を投稿していただきました。(Webあまみず編集部)
はじめに
2014年10月に福井工業大学の笠井利浩先生が、福井市清水東公民館で雨水活用に関する講演をされたことが切っ掛けでこの活動は始まりました。今でも鮮明に覚えていますが、11月の初め頃に笠井先生が研究室の学生を集めて設計図を見せながらパンプキンタンクと大まかな造り方を説明され、春から製作に取りかかるとのお話がありました。内心、本当に造れるのかな~と疑問に思いましたが、自分の立場では意見を言うわけにもゆかず、春の製作開始の日が来るのを不安と楽しみな気持ちを持ちながら過ごしていました。実際の作業は3月14日から始まりましたが、地域住民の方々も多く集まってこられ“本当にできるのか?”という一抹の不安を抱きながらもやる気に満ちあふれた集団の力で作業は確実に進められていきました。
今回の報告では、パンプキンタンク製作の各工程別の作業内容と私の感じたことをレポートさせて頂きます。
工程1:基礎杭と土台製作
設置した場所は非常に地盤の弱い場所で、周囲の建物は全てパイルの上に建設されています。今回製作したパンプキンタンクの重さは満水状態で約11~12tになると予想されましたので、その重量が僅か2m四方の土台の上にかかるために設置後の沈下が心配されました。このような理由で、土台を製作する前に長さ4m程の松杭をパワーショベルで打ち込みました。基礎杭や土台の型枠作業は、地域の職人さん達に製作、設置をして頂きました。この型枠に地域住民の方々と一緒に、砂利、砂、水、セメントを混ぜて生コンを作り、型枠に流し込んで土台を完成させました。(写真1)
工程2:枠組みと金網貼り
タンクの形状を決める鉄筋の枠組みは、コンピュータ上で設計した図面を原寸大で印刷し、それを基に職人さんに加工して頂きました。鉄筋枠組みの組立は、職人さんの指導の下、地域住民の方々と共同で行いました。次の工程の、金網を鉄筋に貼り付け作業は、結束線とハッカーと言われる道具を使って行いました。職人さんが作業される様子を見ているといとも簡単にハッカーを扱って結束作業をされていましたが、いざ自分で作業を行ってみると、なかなか上手くはできませんでした。しかし、この作業を繰り返していくうちに上達し、終わる頃にはスムーズに作業が行えるようになりました。(写真2)
工程3:モルタルの塗り重ね
このパンプキンタンクはこの地域の雨水活用のシンボルでもあり、十分な強度を持ったものにしたい事もあり、厚さを10cm程度にすることにしました。
金網の内側から、ベースとなる一層目として少し固めのモルタルを手で金網の隙間に入るように塗り付けました。次に、二層目も手で塗り始めましたが、手での作業は時間がかかりなかなか作業が進みませんでした。作業をしながら塗り方について相談する中でコテ塗りの提案があり、試しにコテを使ってみると作業ペースは上がって綺麗に塗ることが出来ました。しかし、コテ塗りは経験がものを言う技術ですので、曲線部分を滑らかに塗るのには苦戦しました。この作業には、センスと体力が必要だということが分かりました、また、塗り付け面を荒らしておく等の工夫が必要であることが分かりました。
内側も同じようにコテを使ってモルタルを塗りましたが、タンク内の作業はスペースの関係で大人3人が入るのが限界でした。タンクの中は、外と違って雨風がしのげて天候には左右されずに作業することが出来ましたが、その一方で狭い上に、蒸し暑く、外の肌寒い気候とは全く異なった環境で汗だくの作業となりました。途中から暗い内部を明るく照らすためのライトと換気用の扇風機を設置し、その後は快適な環境下で作業が行えました。外の作業も同じですが、特に内部の作業は狭い空間であることもあり、地域の方々と交流を深めるための良い空間になったようにも感じました。このような作業を朝8時頃から周囲が見えなくなる夜8時頃までひたすら作業を続けました。内側と外側それぞれ5~6層を塗り上げ、最終的には約10cmの厚さに仕上げました。(写真3)
工程4:モルタル塗りの極意とタンクの養生
今回、モルタルの塗り付け作業を通して、自分自身が考えたモルタル塗りの極意を二つ紹介したいと思います。一つ目は、なるべく細かな振動を与えながらモルタルをすり込むように塗り付けることです。振動を与えることで、タンク壁面との間に生まれる空気の層を少なくすることができ、一層目の表面により密着させることができます。二つ目は、モルタルを塗る時に少し多めの量を取って勢いよく一気に塗り付けることです。これは、タンク製作に参加し、ご協力頂いた左官職人さんのやり方を観察し、見つけ出した極意です。何度も往復すると、塗っているつもりが剥がしているような感じになり、浮き上がってきたり、最悪の場合は多量にめくれ上がってきたりすることもありました。また、モルタルの硬さや粘り気の維持管理も非常に重要なポイントです。管理が不十分であれば、非常に塗り付けにくかったり、直ぐにひび割れのようなものが出来てしまいます。モルタルの管理は、特に担当する人の感覚と経験が重要ですので専属の人を選ぶことが必要です。また、コテを使う時には、コテ板があると効率よく上手く塗れることも分かりました。左官職人さんが使っていたコテ板を参考に、自分用のコテ板も作ってみました。自分用にサイズや取っ手の角度などをカスタマイズすることで、より道具が使いやすく塗り方に磨きがかかると思います。
タンクに塗り付けたモルタルを十分に硬化(*1)させるため、農業用ビニールでタンク全体をラップし、毎日内面に散水してぬれた状態を維持しました。この養生は約1か月継続して行い、モルタルの塗り付け開始から養生終了まで約3ヶ月を要しました。使用した資材は、25kgセメントが55袋、砂3t、モルタル用軽量骨材を500ℓ、セメント防水剤(*2)18kgになりました。(写真4)
*1 硬化:セメントの成分と水が水和反応をすることで起こる。したがって硬化するために必要な水がないと十分な強度は発現しない。またその期間は約1か月が目安となる。
*2 防水剤:ケイ酸質系塗布防水剤(セリノールDS)を用いた。コンクリート躯体にケイ酸イオンが浸透し、反応して針状または繊維状結晶体を生成し、防水機能を発揮する。
工程5:配管
配管は、公民館の竪樋からパンプキンタンクと竪樋からビオトープへの2系統設置しました。公民館の屋根で集められた雨水は、まず優先的にパンプキンタンクに導かれ、満水になると残りの雨水はビオトープに流れます。また、雨水を使う際にはパンプキンタンクから浅井戸ポンプに貯水された雨水が導かれ、水道水のように蛇口から雨水が出るように配管にしました。配管自体の取り付け作業は比較的簡単にできましたが、その準備や土を掘る作業が大変でした。土掘りは、クワで少しずつ土を掘って行いました。配管の敷設作業を行う頃には夏が近づいていましたので、作業中は暑さで汗が止まらず、のどが渇き、倒れるかと思うほどの辛さでした。それでも、やり終えた時にはここまでやったんだと実感し、嬉しくなりました。竪樋に設置した取水器は、研究室での研究時間の合間を利用して設計図を見ながら、組み立てました。(写真5)
工程6:仕上げ(防水工事、表面仕上げ、デザイン)
内面仕上げは、左官職人さんに防水剤を塗って頂きました。防水剤は薄く満遍なく塗る必要がありましたが、さすが職人さんの腕は確かで、あっという間に綺麗に塗り上げて頂きました。外側は、ペンキを塗る前の下地調整作業を入念に行いました。モルタル塗り作業ででた表面のでこぼこは、石用の研磨ディスクを付けたグラインダーで薄く削って行いました。このグラインダーで削る作業は、手元が振動でしびれ、自分の手を削るかもしれないという、恐怖と闘いながらの作業となりました。最終的には3人がかりで3台のグラインダーを使って丸1日研磨作業を行い、タンクの全面の研磨作業を終えました。その後、外側にペンキ用の下地(シーラー)を塗りましたが、表面に残ったモルタル用の軽量骨材が溶けてしまい、小さな穴が沢山できてしまいました。その穴は、上塗り塗料(白い塗料)を何度も塗り重ねることで、おおよそ無くすことができました。タンクの表面には、清水東公民館に来ている子供たちが描いた絵をベースに、デザイン学科の近藤晶先生と学生さんにアレンジしていただいた絵をシールにしてタンクに貼り付けました。最後に、地域の職人さんに作って頂いた、石製のプレートをはめ込み、無事に「ゆめの雨水タンク」が完成しました。(写真6)
終わりに
今回のパンプキンタンク造りは、3月14日から7月11日の約4か月間の時間を費やして行われました。実は、全体の総指揮をされている笠井先生でさえもモルタル塗りを終えるあたりまでは「本当にできるのかなぁ」と話しておられるのを聞いていましたので最後まで不安を抱えていました。しかし、これまでにも何回も“ちょっと無理かも”と思いながらも色々なものをやり遂げてきたメンバーだけあって、最後の粘りには感心しました。
このパンプキンタンクには石製のプレートが埋め込まれており、そこには“ゆめの雨水タンク”の文字が刻まれています。この名前は、笠井先生が10年ほど前からパンプキンタンクを何処かで造りたいという夢と鈴木館長さんの雨水タンクで地域防災を進めるという夢、そして地域の子ども達の未来に向けた色んな夢が詰ってできたタンクということから名付けられました。このタンクの中の雨水が防災に役立つ日が来ないのが一番ですが、もし何か起こった時に役立てば嬉しく思います。