学術

パンプキンタンク製作による雨水活用普及活動

笠井利浩(理事・福井工業大学環境情報学部教授・あめゆきCafe会員)

雨水活用研究・活動発表会は、雨と親しみ、雨を楽しみ、雨水と暮らしていく中で活かしていく研究や活動等を発表し、会員同士の交流を深め、雨水活用に関する最新の情報を共有するために開催しています。2015年7月26日に雨水市民の会総会と同時に開催された発表会では3つの発表があり、その内容をご紹介します。 以下の笠井利浩さんの発表のうち、実際のタンク作りの様子は別の「『ゆめの雨水タンク』づくり体験記」(早崎敬寛さんレポート)で臨場感あふれる記事として掲載し、笠井利浩さんの了承のもとに省略させていただきました。(Webあまみず編集部)

1.はじめに

近年、地球温暖化による気候変動が顕著化し、各地で極端な気象現象が頻発しています。地球温暖化による気候変動を考えた場合、ミクロな視点からは地球全体規模の気温上昇として捉えられます。しかしながら、マクロな視点から見た地域の気象は、平均的な気温の上昇としてではなく、季節外れの雪やその地域らしからぬ大雨や渇水といった極端な気象現象として現れ、豪雪、洪水による家屋への被害や渇水による農作物への被害等として私たちに大きな問題をもたらしています。 雨水活用は、雨水の貯留による水資源の確保という効果だけではなく、地下浸透や蒸発散による健全な水循環を維持するための方策として大いに推奨される取組みです。また、前述の気候変動による今後の人間社会への影響からも広く一般的に行われなければなりません。しかしながら、現実の社会に目を向けてみると、まだまだ「雨水活用」の知名度は低く、今後も粘り強く啓蒙と実質的な普及に向けた取組みを続けてゆかねばなりません。 本報では、福井市内の公民館を中心とした雨水活用の普及に向けた取組み事例を紹介します。製作は、東京都墨田区にある「すみだ環境ふれあい館」に設置されている雨水タンク(パンプキンタンク)を参考に、公民館を中心として地域住民、第7回雨水ネットワーク会議全国大会2014in福井後に結成された任意団体(あめゆきCafe)および福井工業大学笠井研究室の協働で行いました。

2.パンプキンタンクとは

写真1 すみだ環境ふれあい館にあるパンプキンタンク

写真1 すみだ環境ふれあい館にあるパンプキンタンク

パンプキンタンクは、世界銀行(World Bank)の支援を受けて1995~1998年に行われたCommunity Water Supply and Sanitation Programme(CWSSP)の一部として開発されたものであり、スリランカのBadulla、Ratnapura およびMatara地域の、水道や地下水供給が難しい場所に数百基設置されています(参考:The University of Warwick:Case Study 1 – The Sri Lankan Pumpkin Tank)。 すみだ環境ふれあい館のパンプキンタンクは、この資料館の開設に合わせて、雨水市民の会が2001年にスリランカの雨水利用フォーラムから事務局長と技術者を招いて製作されたものです。

3.パンプキンタンク製作

写真2 夢の雨水タンクにつけた銘板

写真2 延人数97人の手作りで製作された雨水タンクは「ゆめの雨水タンク」と銘々された

本活動で設置されたパンプキンタンクは、福井県福井市内の田園地帯にある福井市清水東公民館横のビオトープ内に設置されました。このパンプキンタンク製作プロジェクトは、2014年10月に筆者がこの公民館主催の講演会で、講師として雨水活用について話をさせて頂いたことを切っ掛けにスタートしました。製作開始までに数回の打合せを行い、実際の製作は2015年3月中旬から始まりました。作業は主に土日を利用して行われましたが、製作工程によっては平日も利用して行われました。製作開始から約4ヶ月後の2015年7月11日に完成し、製作に携わった方々の延べ人数は、97人・日に達した。また、製作にかかる費用については、全額福井市からの助成金で賄われました。

4.雨水活用普及に向けた取り組み

図1 あめゆきCafe勉強会チラシ

図1 あめゆきCafe2015 勉強会チラシ

「第7回雨水ネットワーク会議全国大会2014in福井」開催後の継続的な、北陸地方における雨と雪の利活用に向けた活動を目的として、「あめゆきCafe」という任意団体が今年3月に結成されました。2015年7月11日に、福井市清水東公民館で「被災時の水資源を考える ~被災体験からわかる水の大切さ~」をテーマにしたこの会初の勉強会を開催しました(図1)。阪神・淡路大震災で被災した主婦の方々から地震発生後の生の話を伺い、被災時の生活用水としての雨水利用について議論を行いました。

5.今後の展望

2015年3月から約4ヶ月の期間を費やしてパンプキンタンクは製作され、完成しました。しかしながら、雨水タンクとして利用されるのはこれからであり、何よりも重要なこのタンクの役目である雨水活用普及に向けたシンボルとしての活躍はこれからです。今後は、機会を設けて雨水活用に関する勉強会やイベントを実施し、雨水活用の普及に向けた取組みを行ってゆきたいと考えています。

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