学術

「雨水活用技術規準」が出版されました

小川 幸正(㈱大林組、雨水市民の会理事)

雨水活用技術規準(表紙)

図1 「雨水活用技術規準」(日本建築学会、2016年3月発行)

本年3月7日に(一社)日本建築学会から「雨水活用技術規準」(図1)が発行され、私も作成の委員会で参画していましたので、ご紹介したいと思います。

「雨水活用技術規準」刊行の経緯

日本建築学会では、2011年に「雨水活用建築ガイドライン」を刊行し、その続編として本年3月に「雨水活用技術規準」を刊行しました。

現在、雨の降り方に変化が生じており、ゲリラ豪雨が各地で頻繁に起きています。“異常気象”が“極端気象”と呼び替えられる様になり、これまでの下水道施設や河川だけでは雨水流出に対応できずに、建築敷地で雨を制御しなければならない状況になってきています。流域全体で面的に雨水を管理するためには、個々の建築物が担うベき役割は大きくなっています。これまでの建築のコンセプトとして、雨を防ぎ流出することが第一目標であったことを根本的に見直す必要があります。「雨水」という言葉も、従来土木分野を中心とした「うすい」という呼び方ではなく、雨水を活用するという認識から「あまみず」と呼んで使い分ける必要もあります。雨水活用建築ガイドラインでは、「雨水活用(あまみずかつよう)」を「広義の雨水利用」に相当するRainwater Harvestingに対応する用語として、初めて定義しました。2014年4月に成立した「雨水の利用の推進に関する法律」(以降(雨水法)と呼ぶ)でも、雨水法の名称として雨水利用(うすいりよう)ではなく、「雨水の利用(あまみずのりよう)」と読ませています。

「蓄雨」の概念を提起

今回刊行した「雨水活用技術規準」では、雨を貯めて活かす「蓄雨」という新たな概念を提示したことが大きな特長です。

「蓄雨」は、建築とその敷地にできる限り雨を貯めることを基本としており、100mm降雨に対応する技術的な規準の基本をなす概念です。蓄雨高100mmとは、降雨時間に関係なく、建築敷地に降った100mmの雨を貯めることができる能力があることを意味しています。蓄雨には「治水」だけでなく、「防災」、「利水」、「環境」の4つの側面があり(図2)、これらを統合管理することにより、建築を起点とした雨水活用のまちづくりの手法にもなります。それでは、「蓄雨」はどのように実践するのかは、「雨水活用技術規準」ならびに「雨水活用建築ガイドライン」に基づいて、建築敷地レベルで建築のみでなく、造園や都市土木施設と連携した雨水管理が必要です。図3は戸建て住宅を例に、蓄雨を高めるための要素技術例を示しています。要素技術としては、雨池、雨溝、緑化と屋上緑化、浸透ますや浸透トレンチ、トイレ洗浄水等の雨水利用、屋上散水などがあります。

(左)図1: 蓄雨の4つの側面  (右)図2: 戸建て住宅での蓄雨  (ともに引用文献:神谷博、雨水利用推進法に基づく雨水活用建築、BE建築設備、2015年11月号、P17-19)

(左)図2: 蓄雨の4つの側面            (右)図3: 戸建て住宅での蓄雨  
(引用文献:神谷博、雨水利用推進法に基づく雨水活用建築、BE建築設備、2015年11月号、P17-19)

雨水活用を評価する手法

また、雨水活用の効果についての評価方法も示しています。評価の要素としては、雨水収支、コスト、低炭素、要素技術、感性の5つの視点です。それぞれに評価項目を設けてポイントをつけて、さらにこれらの視点の総合評価を行います。今後、個人の家や庭のつくり方を含めて、全国で自治体雨水計画や地域雨水計画を立てていく必要が生じます。その際には、「雨水活用建築ガイドライン」や「雨水活用技術規準」を手掛かりに、地域の状況に即した計画を立てることができます。

出版記念会を開催

この「雨水活用技術規準」の出版を記念して、“「雨水活用技術規準」の出版を祝う会~これからの「雨水まちづくり」に向けて~”を本年3月7日(月)に開催致しました。この会では、出版にご助力された多くの方々、また、これまで雨水活用関連で活動されてきた様々な方々62名に品川駅近くにある大林組30階のレセプションホールにご参集頂き、出版を祝うとともに、これまでの活動を振り返りながら、今後の雨水活用の展望を語り合いました。本記念会には、国土交通省から5名、東京都から1名の参加がありました。本市民の会からは、日本建築学会の委員会に所属する笠井理事、大西理事、笹川理事、小川ならびに高橋理事が出席しました。(写真1)

写真1 「雨水活用技術規準」の出版記念会の様子(2016年3月7日)

写真1 「雨水活用技術規準」の出版記念会の様子(2016年3月7日)

購入について

「雨水活用技術規準」は、日本建築学会が2、052円(本体価格1,900円+税別)にて販売していますので、学会ホームページの出版図書購入方法をご覧ください。また、同会のホームページでは雨水活用技術規準の序文と目次が見られます。

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