2017.08.30
五島列島赤島活性化プロジェクト~雨まちづくりで目指す持続可能な離島対策
笠井 利浩、近藤 晶(会員・ともに福井工業大学)
1.はじめに
長崎県五島市赤島には、水道施設の他、井戸等の生活に利用できる一般的な淡水源が無く、雨水を使った生活が営まれている。しかしながら、近年問題となっている黄砂やPM2.5による大気汚染による貯留雨水の水質悪化が懸念されており、島内では生活用水の確保が大きな問題となっている。
本プロジェクトでは、国内では貴重な全生活用水を雨水に依存する雨水活用事例として赤島を取り上げ、赤島を舞台に雨水を水源とした小規模給水システムを構築する。この雨水による給水システムを軸としたプロジェクトは、島民の生活用水に対する水質面での安心、渇水による水不足に対する安心を満たすだけではなく、島の人口増加や経済活動に関する問題緩和をも目指すものである。離島にとって最大の問題は、島民減少による無人島化であり、そのためにはIターン者、特に若い年齢層の移住が望まれる。島に安心して使える給水システムが実現することで宿泊施設等の営業も可能となり、現在皆無である島内における経済活動が活性化されることで離島赤島が抱える持続可能な問題解決の糸口を探る。また、本プロジェクトで開発・実証試験を行う雨水を水源とした給水システムは、島国である日本国内の他の島への応用の可能性もあり、今後の小規模水インフラシステムとしての可能性を持つ。
2.長崎県五島市赤島
赤島は、長崎県五島列島福江島の二次離島(図1)であり、面積は0.52㎢と、代々木公園より狭い。また、人口は大正7年、85世帯463人を最高に減少し、現在は13世帯18人である。この島は、電気やインターネットサービスが受けられるにもかかわらず、日本国内では数少ない水道施設の無い島であり、全生活用水を雨水に依存している雨水活用事例として貴重な島である。そのため、島内全戸に数㎥~20㎥規模の雨水タンクが既に設置されている(図2)。年間降水量は2000~2400㎜で、夏多く、冬は少しの降雨である。
3.雨水を水源とした給水システムの構築
現在、島内各戸に設置されている雨水タンクでは、世帯によっては風呂水等の比較的多量に水を消費する用途への給水が十分にできておらず支障をきたしている。本プロジェクトでは、地下水(井戸)や河川などの一般的な淡水源に頼らない給水システムとして、全ての地域で同様に降る雨を水源とした集落給水システムを開発・構築し、その可能性に関する実証実験を行う。本システムは、効率よく雨水から飲用レベルの水を低コストで供給することを目的としたものであり、大気中の汚れを含む初期雨水を効率的に除去するコンピュータ制御式の集雨装置の他、最終浄水装置として小型RO*浄水器等で構成される(図3)。ROは、海水淡水化システムにも利用されている技術であるが、水源を蒸留水に近い水質を持つ雨水にすることで、浄水効率の向上(小型ROシステムが適用可)やメンテナンス費用の低減が図れる。
島内各戸設置雨水タンク内の水質測定結果を、表1に示す。表雨水タンクの材質や槽内コーティングの有無で多少水質は異なるが、全ての家で海塩による影響が見られる。また、場所によっては異常に高いイオン濃度を示しているものもあり、その原因の究明が求められる。
*RO:逆浸透膜のこと。以下Wikipediaより…逆浸透膜(ぎゃくしんとうまく)とは、ろ過膜の一種であり、水を通しイオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ膜のこと。孔の大きさは概ね2ナノメートル以下(ナノメートルは1ミリメートルの百万分の一)で限外ろ過膜よりも小さい。
4.雨水生活のブランディング化
現在、赤島島内には公的に認められた宿泊施設やキャンプ場などは無く、島の唯一の経済的資源である観光産業からの収入が見込めない状況にある。これらの施設を運営するためには、前記の給水システムが不可欠であるが、それだけでは島の活性化には繋がらない。本プロジェクトでは、国内でも希な雨水で生活するライフスタイルを赤島周辺の豊かな自然を含めてブランディング化し、国内に発信することで観光客の誘致を図り、島の活性化に繋げる。ドローンで撮影した動画等を用いた赤島のプロモーションビデオ(PV)制作(図4)や、本プロジェクト専用HP(しまあめラボ)での各種情報発信を行い、赤島のPRを行う。また、持続可能な観光資源の開発を基本とした島内での観光産業を模索・実現する。
5.まとめ
本プロジェクトの一番の目的は、“百聞は一見に如かず”の諺の通り、雨まちづくりの先進事例をつくり、都市における雨水活用を推進する事にある。そのため、本プロジェクトに賛同頂ける団体、企業、個人に可能な限り多く参加頂きたい。そうすることで、本プロジェクトが広く世に知られ、目的の達成に近づくことができる。
(2017年7月9日開催の雨水活用研究・活動発表会にて発表)
福井工業大学 笠井 利浩(かさい・としひろ)
1968年京都府生まれ、福井工業大学環境情報学部環境・食品科学科教授、日本建築学会雨水活用推進小委員会主査、日本雨水資源化システム学会広 報委員 長・理事、あめゆきCafe事務局長、NPO法人雨水市民の会理事、NPO法人あめまちサポート理事を務める。自ら始めた稲作を通じて雨水に目覚め、雨水 活用の技術開発から雨を活かした環境教育まで幅広く活動している。
福井工業大学デザイン学科 近藤晶(こんどうしょう)
京都工芸繊維大学在学中に友人とデザインチームを結成し、音楽イベント等への映像提供やWebサイトデザインなどを行う。卒業後アイコム株式会社 宣伝広告室にて海外向けカタログや展示会向けポスターのデザインや、国内展示会用説明動画などを制作。2009年より福井工業大学デザイン学科で グラフィックデザインやWebデザインを教えながら、デザインやアート作品を制作している。