学術

雨水タンク水の精密検査結果の概要報告

柴早苗・高橋朝子(理事)

調査の経緯・目的

表1 簡易検査による首都圏の雨水タンク調査結果(タンク材質・pH・電気伝導率) 2015年7月~2016年6月実施

表1 簡易検査による首都圏の雨水タンク調査結果(タンク材質・pH・電気伝導率) 2015年7月~2016年6月実施

雨水利用する際に実際の水質はどの程度かを把握するため、2015年度からpHや電気伝導率等(以下「簡易検査」という。)を実施し、①タンクがコンクリート製の場合はpHが高め(アルカリ側に片寄る)こと、②雨水の電気伝導率は120μS/㎝以下がほとんどでイオン性物質が少ないこと、などが分かりました(表1参照)。しかし、簡易検査では雨水タンク水の水質の全容を語ることができません。

そこで、2016年度は以下の点について明らかにするため、会員等の協力のもと、専門の検査機関に依頼して精密検査を実施しました。

1.排気ガスや屋根に積もるばい塵の影響を受けていることが推測されるが、どの程度か。

2.細菌等の汚染の程度を把握する。

この精密検査の結果はすでにWebあまみずに詳細を掲載し*ていますが、今回は、概略としてまとめてみました。

*「雨水はきれい!~大気汚染物質と微生物を探る~雨水タンク水の精密検査結果の報告(その1)」及び「雨水はきれい!~災害時に飲む判断は自分の五感で~雨水タンク水の精密検査結果の報告(その2)」(2016年12月26日掲載)

水質検査内容と検査項目

今回の精密検査は経費の問題もあり、比較的検査の目的にかなっていると思われる場所で、協力が得られる場所の雨水タンクを選択して実施しました。実施時期も細菌検査のため夏季の期間にしました。

●採 水 日:H28年9月6日及び9月13日

●検査項目:細菌(一般細菌・大腸菌・レジオネラ属菌)、一般的水質(有機物・臭気・色度・濁度・pH値・塩化物イオン・カルシウム及びマグネシウム《硬度》)、大気汚染物質(硝酸態窒素・亜硝酸態窒素・硫酸イオン・金属元素として銅・亜鉛・鉄・マンガン・バナジウム・ヒ素・(カルシウム及びマグネシウム…再掲)) 計 19項目

●採水場所:首都圏の会員や雨活している個人や施設 11ヶ所(簡易検査の結果や幹線道路近く等を考慮して)

●分析機関:株式会社山梨県環境科学検査センター(採水後、クール宅急便にて送付)

●検査方法:厚生労働省告示第261号、2011年版上水試験法等による

結果概要

◎大気汚染に係わる検査結果

●pH:データの範囲は 4.6~9.7で、日本に降る雨と同程度。コンクリート製のタンクは高くなる傾向。

表2 雨に含まれる陰イオン濃度(単位:mg/ℓ) 硝酸イオンは、検査した硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素から換算。

表2 雨に含まれる陰イオン濃度(単位:mg/ℓ)
硝酸イオンは、検査した硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素から換算。

酸性雨に該当する5未満のものは3件でしたが、各4.4、4.6、4.7と、それほど低くないものでした。雨そのもののpHについては環境省がモニタリング調査を実施しており、その結果をみると2010~2014年度の東京北の丸公園のpHは4.79~5.03(平均4.89)です。また、日本全体で見ても4.60~5.21(2008~2012年度・27~31地点の調査)です。

pHを低くする要因として、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオンなどの陰イオンの存在が考えられますが、2014年度の環境省モニタリング結果(東京北の丸公園)と比較しましたが、これらと比較してもほぼ同等の結果でした(表2)。

また、 9以上の高値であったのは 2件(9.6、9.7)でしたが、ともにタンクがコンクリート製で、コンクリートのアクの溶出が原因と考えられます。

金属元素等:硬度は低く軟水電気伝導率と硬度の相関がよい

図1 電気伝導率と硬度の相関(γ=0.97)

図1 電気伝導率と硬度の相関(γ=0.97)

水に溶かすと陽イオンになる金属元素等は、大気汚染の指標となります。自動車の排気ガス、工場の生産活動で発生したり、越境移動で大陸からやってくる場合もあります。また、屋根材等からの溶出もある程度はあると思われます。

①硬度(カルシウム及びマグネシウム):最高でも29.7mg/ℓでした。水道水はおよそ50~90mg/ℓ(東京都水道局のデータで水源が河川水の場合)ですので、軟水でも「超」が付くほどのものであることが分かります。また、 電気伝導率と硬度の相関は、相関係数が0.97とよい(図1)ため、簡易検査で硬度分を推測できます。

②他の金属元素:屋根材の影響があったと思われるものが若干あった。

便宜的に水道水の水質基準と比較して検討しました。亜鉛で1件水質基準を上回りました。これは、屋根のガルバリウム鋼板の劣化による溶出と思われます。他は水質基準を超えるものはなく、次のような結果でした。鉄は3件から検出(水道水の水質基準0.3㎎/ℓの半分以下)、銅は全て水道水の水質基準1.0㎎/ℓ未満、ヒ素とバナジウムは定量下限値(検査機器の精度の点から下限値未満のものは数値化されない。)未満、マンガンは水道水の水質基準0.05㎎/ℓ以下を満たしていましたが、そのうち基準の半分以上が1件で他は2割以下でした。

◎細菌検査

一般細菌(病原性のない一般的な細菌の数):1~3800CFU/mlの範囲であり、自然水の雨水では普通にみられる。

大腸菌(恒温動物の腸内に棲む、病原性微生物汚染の疑い):陽性が3件(検出率27.3%)

一過性に陽性になることがありますが、雨を集める場所に猫や鳥などが出入りしたりしている場合に検出される場合があります。

レジオネラ属菌(呼吸器から侵入し肺炎を起こす、土壌中に棲む菌):いずれも不検出

これらの細菌やウィルスは、一般に煮沸によって死滅させることができます。災害時等に飲む可能性がある場合でも、備えがあれば安心です。

◎五感に関わる検査項目

図2 色度と有機物の相関(γ=0.93)

図2 色度と有機物の相関(γ=0.93)

色度(着色具合):5度以下が殆どで1件のみ 6.1度。自然界では枯れ葉などが分解したフミン質が水中に溶け出て、色度が高くなります。今回の調査では、色度と有機物の相関が良いことが分かりました(図2)。また、雨を集める屋根や配管などに鉄が含まれている場合は、錆が原因で色度が高くなります。

濁度濁りの程度):いずれも2度以下。

臭気(臭い):ほこり臭10件、腐敗臭1件(朽ちた落ち葉の感じ)。

有機物(全有機炭素(TOC)の量):0.4~1.7mg/ℓで問題ない値。

飲用と同等の水質を期待する場合は、着色や濁り、臭いが気になる場合がありますが、活性炭と中空糸膜フィルター等で除けます。また、他の生活用水に使うには支障ないと思われます。

まとめ

大気汚染:pHは4以上であり極端な酸性雨の影響はありませんでした。大気汚染物質も現状ではあまり問題にならない値でした。しかし、劣化した屋根材等からの金属(亜鉛)の溶出が1件見られ、水質を気遣う場合は、雨を集める屋根の状態を確認しておくことも必要です。

細菌:大腸菌陽性が3件、レジオネラ属菌は不検出でした。

五感関連:色度や濁度、臭気は気にならない程度、有機物も少な目でした。日頃から五感でタンク水の状況を観察することが大事です。

水道水は、品質管理された浄水場で生産され、蛇口まで生産者が責任をもって届けているものです。雨水という自然の水に水道水と同等の水質レベルを求めること自体が無意味で、水道水の水質基準はあくまで目安として考えるべきです水質基準を超えたからと言って、直ぐに体に影響があるわけではなく、水道水の検査項目は毒性の観点以外に、生活上の使用で問題が生じない値として決められているものもあり、短絡的に使えないとは言えません。毒性の観点からも、人が一生飲んで病気にならない数字ですので、例えば災害時に1週間飲むとしても、すぐに病気になるものではありません。しかし、どの程度の値であるかはある程度知っておいた方が良いでしょう。

ただし、病原性の細菌に汚染されると、急性的に消化器系の病気になってしまう場合もあり、どのような経路で得られた水であるかを把握し、汚染の可能性がある場合は、煮沸や細菌を除けるフィルタを通すなどの対処も必要と思われます。

2017年7月9日開催の雨水活用研究・活動発表会にて発表)

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