世界の雨水

グリーンインフラとは何か?《米国と日本の事例紹介》

小川 幸正(理事)

今話題になっています「グリーンインフラストラクチャー」(以降GIと略す。)は、『自然の力を賢く使う』ことですが、それには14の要素技術があります。また、2016年8~9月に米国西海岸でGIの導入で名高いポートランドとシアトルの現地調査に参加してきましたので、その概略の報告をします。また、日本のGIと言われている事例を3か所紹介し、日本におけるGIの適用に関して私感を述べたいと思います。

GIの14の要素技術

『決定版!グリーンインフラ』(グリーンインフラ研究会・三菱UFJリサーチ&コンサルティング・日経コンストラクション編、日経BP社、2017年1月発行)には、幅広い分野でのGIの事例が紹介されています。この著書の中で、都市でのGIについて執筆された本田幸男氏(東邦レオ)は、米国環境保護庁(EPA)が「雨水を貯留、浸透させることにより、自然の水循環機能を模倣する雨水管理システム」として位置づけ、GIの要素技術として11項目を掲げていることに加え、日本特有の適用を含め14項目として紹介しています。GIを語るうえで大切なキーワードであり、以下に紹介します。

1.竪樋の非接続:屋根からの雨水を下水道管や雨水排水管に流さない。

2.雨水の利用:雨水の貯留と散水・トイレ洗浄水等への利用。

3.雨庭(レインガーデン):屋根や歩車道の雨水を集めて、一時的に貯留し、地下浸透をするための窪地を設置。

4.雨花壇(プランターボックス):屋根や歩車道からの流出水を浸透あるいは閉塞した底を持つプランターボックスに導入する都市型雨庭。

5.緑溝(バイオスエル):雨水を移動させながら一時滞留や浸透させる植栽帯。

6.浸透性舗装:降った雨をその場で浸透または貯留できる舗装。

7.緑の道・路地:道路や路地に雨水を貯留・浸透させ、それを蒸発散させて気温低減効果を図る。

8.緑の駐車場:雨庭や緑溝を設置して、駐車場下層に雨水を貯留・浸透させる。

9.緑の公園:保水性ブロックや樹木の蒸発散作用で微気候改善と雨水循環を可能にする。

10.屋上緑化:屋上に植栽基盤を設置して、雨水の一時貯留や植栽の蒸発散作用による冷却効果。

11.壁面緑化:建築物の壁面に植栽基盤を持つ構造で、壁面の雨水の直接流下を遅延、軽減する。

12.芝生広場:芝生植栽基盤への雨水浸透により、流出速度の低減、雨水の減量と浄化が可能。

13.植冠遮断:樹木の葉や枝で雨を遮断することで、雨水の流出量を減らし、流出速度を減じる。

14.自然地の保護、雑草広場:外部の影響を受けやすい自然の保全や軽メンテナンスで、雨水流出速度を緩和・軽減し、自然生態系の保全が可能。

 

図1 "Stormwater Cycling Tour"ではポートランド市のグリーンインフラの各スポットをレンタル自転車で巡ることができる。

図1 ”Stormwater Cycling Tour”ではポートランド市のGIの各スポットをレンタル自転車で巡ることができる。

私は、2016年8月29日から6日間、米国のGIを実践しているオレゴン州ポートランド市及びワシントン州シアトル市の視察に行きました。この視察については「米国西海岸のグリーンインフラ調査に関する速報」(Webあまみず2016.09.26掲載)にレポートしました。今回は、GIの事例に焦点をあてていきます。

米国、ポートランドのGIの事例

ポートランド*1は、北緯45度の札幌市とほぼ同じ緯度にあります。人口約61万人(2013年)のまちは、「雨のまち」として知られています。ここ10年「全米で一番住みたい都市」に選ばれ、環境にやさしい都市として日本でも話題となっています。ポートランドのGIは1980年頃から始まり、2000年頃に本格的に実施されるようになりました。私たちはGIのスポットの地図(図1)を見ながら、州立ポートランド大学の教授の案内でレンタサイクルに乗ってまちを回りました。

*1ポートランド市:平均気温:7.1〜16.7℃、降水量:941.7mm/年、降雨日数:152.4日/年

アルバムⅠ ポートランドのグリーンインフラ (上):一般住宅の雨樋の非接続。(下):緑の道●●赤丸の部分の解説●●

アルバムⅠ ポートランドのGI① (上):一般住宅の雨樋の非接続。(下):緑の道と緑溝

アルバムⅡ ポートランドのグリーンインフラ モニュメントのある雨庭

アルバムⅡ ポートランドのGI② モニュメントのある雨庭

写真Ⅲ ポートランドのグリーンインフラ(左)路面電車の緑の道。(右)グリーンストリート

アルバムⅢ ポートランドのGI③(左)路面電車の緑の道。(右)緑の道(グリーンストリート)

図2 シアトル市のWatershed projectsの地図

図2 シアトル市のWatershed Projectsの地図

米国、シアトルのGIの事例

シアトル市*2は、ポートランドのあるオレゴン州の北、カナダと国境を接するワシントン州にあり人口約65万人(2013年)の太平洋岸北西部では最大の都市です。海と緑に囲まれた美しい都市で、「エメラルドシティ」と呼ばれています。シアトルでは、雨水の流出抑制と流出水による周辺の湖や河川の水質汚染を改善するため、”Seattle Watershed Projects”と呼んでいるGIを進めています(図2)。私たちは北部と南部の住宅地区及びダウンタウンをタクシーで回りました。

*2シアトル市:平均気温:7.2~15.5℃、降水量:950㎜/年、降雨日数:152日/年

 

 

アルバムⅣ シアトルのグリーンインフラ① 道路わきの浸透緑地(緑溝)右下の写真は雨水の越流用堰

アルバムⅣ シアトルのGI① 道路わきの浸透緑地(緑溝)右下の写真は雨水の越流用堰

アルバムⅤ シアトルのグリーンインフラ② (上)緑道(下)道路わきの各種緑溝

アルバムⅤ シアトルのGI② (上)緑道、(下)道路わきの各種緑溝

アルバムⅥ シアトルのフリーンインフラ④ 雨水排水用の流路と流出抑制用のバイオリテンション(河川内に植栽)

アルバムⅥ シアトルのGI③ 雨水排水用の流路と流出抑制用のバイオリテンション(河川内に植栽)

アルバムⅦ シアトルのグリーンインフラ④ (左)緑の道(雨水プランター) (右)住宅の竪樋の非接続

アルバムⅦ シアトルのGI④ (左)緑の道(雨水プランター) (右)住宅の竪樋の非接続

日本のGIの事例

日本のGIの事例として3か所紹介します。最初に京都市内の京都学園大学・太秦キャンパスの雨庭です。私が訪問した時は晴天でしたが、降雨時には一時的に雨が溜まり趣のある庭園となります。

また、屋上緑化の事例として、横浜市戸塚区役所の屋上に水田と畑、花壇があります。水田は区民による田植えがされたそうです。

緑の公園の事例として、横浜市のみなとみらいにあるグランモール公園があります。浸透側溝や保水性舗装やブロックが使われ、基盤材下層の雨水が樹木から蒸発散します。また樹冠遮断効果も加わって水の循環回廊を作っており、心地の良い体感ができるとのコンセプトです。

アルバムⅧ 京都学園大学・太秦キャンパスの雨庭 (左)晴天時の雨庭 (右)降雨時の雨庭(京都学園大学HPより)

アルバムⅧ 京都学園大学・太秦キャンパスの雨庭 (左)晴天時の雨庭 (右)降雨時の雨庭(京都学園大学HPより)

アルバムⅨ 横浜市戸塚区役所の屋上緑化 (左)田植えをした水田(2017年6月撮影) (右)田植え前の水田(2017年3月撮影)

アルバムⅨ 横浜市戸塚区役所の屋上緑化 (左)田植えをした水田(2017年6月撮影) (右)田植え前の水田(2017年3月撮影)

アルバムⅩ 「緑の公園」横浜市グランモール公園(MM21)。浸透側溝や保水性舗装、植栽ちから地中に 浸透させた雨水を雨水貯留砕石に保水させている。

アルバムⅩ 「緑の公園」横浜市グランモール公園(MM21)。浸透側溝や保水性舗装、植栽地から地中に
浸透させた雨水を雨水貯留砕石に保水させている。

米国・日本のGIのまとめと私感

米国のGI調査では、ポートランド市やシアトル市は雨水流出抑制と流出水の水質改善にGIを1980年頃から導入し、2000年頃には本格化し、治水対策に成果があがっています。さらに緑溝や雨花壇などにより、緑豊かな生活環境が創出されました。ただし、GIの維持管理は重要で、行政と住民がともに参加して実施していく必要があります。

日本のGIは、屋上緑化、雨庭、雨水利用、透水性舗装、樹冠遮断など要素技術は保有していますが、インフラ整備への適用に至っていないと思われます。都市部へのGI導入のためには、日本版GIの技術を確立する必要があります。

2017年7月9日開催の雨水活用研究・活動発表会にて発表)

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