世界の雨水

1994年のハワイの雨水利用調査と現在の水事情

Webあまみず編集部

写真1 1994年3月、雨水利用東京国際会議実行委員会で事前調査に訪れたハワイ。

写真1 1994年3月、雨水利用東京国際会議実行委員会で事前調査に訪れたハワイ

2021年2月28日(日)に開催されたオンライン座談会「雨タス世界珍道中」のハワイについて紹介します。

1993年、ハワイ大学のユー・シー・フォク国際雨水資源化学会会長が墨田区を訪れました。フォク氏からハワイでは多くの個人住宅で雨水利用をしていると聞いて、俄然興味が湧いた雨水利用東京国際会議実行委員会は、翌年3月、今回スピーカーを務めた会員の佐藤清さん、小川幸正理事を始め、技術部会を中心に、総勢29名で現地を訪れました(写真1)。

ハワイの水事情

火山が噴火してできたハワイ諸島は、地下の火山岩の空隙に雨水がしみ込んで巨大な天然の貯水池となり、比重が重い海水の上に浮かんで淡水として存在しています。

ハワイ島、マウイ島、オアフ島、カウアイ島等の島々(図1)があり、ハワイ島には4000m級の火山、他の島々も高い山々があります。4月から10月頃まで北東からの貿易風が吹き抜け、島の北東部は雨が多く森が広がり、南西部はフェーン現象によって乾いた風となり緑が少なめです(図1、図2)。

ハワイ諸島の水道は地下水に多く依存しており、訪問した当時、オアフ島では汲み揚げ過ぎにより塩分が高めになるところがあるとのこと。また、標高1500フィート(458m)以上には公共水道を供給しない(勝手に住んでいるから行政に義務はないとの考え方)とのことでした。

図1 ハワイ諸島の年間平均降雨量  図2 ハワイ諸島の降雨機構と西側の昇温の関係 (図1出典:Geography Department -University of Hawai'i at Manoa:ホームページより) (図2出典:「ハワイの雨水利用調査報告書1994」平沼洋司氏報告より作成)

図1 ハワイ諸島の年間平均降雨量         図2 ハワイ諸島の降雨機構と西側の昇温の関係
(図1出典:Geography Department -University of Hawai’i at Manoaホームページより)
(図2出典:「ハワイの雨水利用調査報告書1994」平沼洋司氏報告より作成)

写真2 オアフ島の個人住宅のレッドシターウッド製雨水タンク(1952年製、32㎥)

写真2 オアフ島の個人住宅のレッドシター製雨水タンク(1952年製、32㎥)

雨水利用の調査

当時、オアフ島ではホノルルの北にあるタンタラス地区で約110世帯、ハワイ島では約8000世帯が雨水利用していました。衛生的問題があり、ペンキ由来の鉛汚染や枯れ葉や鳥の糞が入って下痢や腹痛などに悩む家庭もありました。宿泊したハワイ島・ヴォルケイノ村のホテルは、2基の木製タンク(レッドシダー製、49㎥の方が120年前、19㎥の方が60年前)とコンクリートブロック製(38㎥で21年前)に設置したそうです。雨水利用の水質は自己責任で飲むというのがハワイの人々の認識ですが、システム設計が悪い、メンテナンスが悪いなどが重なって衛生的に支障をきたす場合がありました。

写真3 キラウエア軍事保養施設の雨水タンク

写真3 キラウエア軍事保養施設の雨水タンク

アメリカ軍のキラウエア軍事保養施設も見学しました。建物の屋根のほか、レインシェッド(屋根だけの建物)24㎢、地表面の12㎢から雨を集め、塩素処理して10数基の巨大タンクに貯めていました。

写真4 スリット付きスナイプ雨樋を説明するフィンチさん

写真4 スリット付きスナイプ雨樋を説明するフィンチさん

また、雨水をきれいに集める工夫を考案したフィンチさんの自宅も訪ねました。平家の屋根372㎡からフェロセメント製38㎥の雨水タンクへ導くのにスリットが付いているスナイプ雨樋を考案し、ゴミを取り除くようになっていました。1セット73ドルで販売しているとのことでした。

ハワイ雨水利用調査のコーディネートをしていただいたハワイ大学のユー・シー・フォク先生や同じくハワイ大学水資源研究センター所長ロジャー・フジオカ先生によると、雨水利用についてのガイドライン作成を州政府に提案する予定だとのことでした。

現在のハワイの水事情

ハワイ諸島は、人口が142万人(2014年現在)で、オアフ島に約7割、ハワイ島に約2割が住んでいます。ホノルル市郡水道局戦略プラン(2018〜2022年)によると、人口が増えていますが、住民が節水に務め、使用量が減ってきています。しかし、ホノルル市郡水道局戦略プランによると気候変動による降水量の減少傾向(図3)、海面上昇による淡水と海水の地下水バランスの変化や埋設水道管の腐食が問題視され、再生水の利用や海水淡水化装置の導入等も検討しているとのことです。

訪問した当時に話題になった雨水利用のガイドラインは2020年7月に”Guidelines on Rainwater Catchment Systems for Hawai’i”((by College of Tropical Agriculture and Human Resources,University of Hawai’i)(写真5)として作成され、ハワイ州保健省のホームページでも紹介されています。ハワイ島の推定3〜6万人が雨水利用をしており、問題となった鉛や銅の検査には補助金もあるそうです。

25年前に聞いたガイドラインのことが実現したのはハワイ大学のスタッフの努力によるところが多いと想像しますが、地球温暖化の現象が顕著となり、ハワイの水事情も水道だけには頼れない時代に入ってきたのだと感じました。

図4 オアフ島の年間平均降雨量の推移             写真5 ”Guidelines on Rainwater Catchment Systems for Hawaii” 図4出典:"Waer Master Plan,2016/6,Board of Water Supply Comホームページ

図4 オアフ島の年間平均降雨量の推移 写真5 ”Guidelines on Rainwater Catchment Systems for Hawaii”
図4出典:”Water Master Plan”,2016/10,Board of Water Supply Comホームページ

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