世界の雨水

1993年ケニア・タンザニア・ボツワナの雨水利用調査と現在

Webあまみず編集部

2021年2月28日(日)に開催されたオンライン座談会「雨タス世界珍道中」のアフリカについて紹介します。

アフリカの雨水利用の実態調査と1994年に開催する雨水利用東京国際会議への招待者を探すため、今回スピーカーを務めた三輪信哉さん(大阪学院大学国際学部)を始め5名が、1993年7月〜8月の15日間、ケニア、タンザニア、ボツワナを訪問しました(参考:図1、図2、表1)。

図1 1993年に訪問したアフリカ3国 図2 ケニア・タンザニア・ボツワナ及び東京の月別降水量(出典:理科年表2016、過去約30年間の平均値)

図1 1993年に訪問したアフリカ3国   図2 ケニア・タンザニア・ボツワナ及び東京の月別降水量                       (出典:理科年表2016、過去約30年間の平均値)

表1 ケニア・タンザニア・ボツワナ及び日本の国の概要(出典:外務省HP、国連統計、理科年表)

表1 ケニア・タンザニア・ボツワナ及び日本の国の概要(出典:外務省HP、国連統計、理科年表)

ケニア キアンブ・フォスタープランの農村支援

写真1 6、7人家族と家畜で1日400ℓの水を使う。ロバに200ℓのドラム缶の荷車を引かせて1日2往復水を運搬する。

写真1 6、7人家族と家畜で1日400ℓの水を使う。ロバに200ℓのドラム缶の荷車を引かせて1日2往復水を運搬する。

訪問した当時、ケニアでは約4万人のフォスターチャイルド*がいました。ロバで毎日水を運ぶ家もありますが(写真1)、ロバを持っていない家は、子どもや女性が水を運ぶので使う水はさらに少なくならざるを得ません。子どもが20ℓを背負って1日2時間以上も働く姿もあります。

キアンブはナイロビの北に位置し、当時、フォスターチャイルドは700〜800人。キアンブのフォスタープラン*では、雨水タンク、改良トイレ、改良カマドの普及、障害者のリハビリ、さく井、住宅建設などの活動をしていました。

写真2 フォスタープランの支援で作った雨水タンク(ケニア・キアンブ)

写真2 フォスタープランの支援で作った雨水タンク(ケニア・キアンブ)

リモル小学校は児童数200人から450人に増やすための増築にあわせて、雨水タンク32㎥(屋根面積は約150㎡)を建設しました。1年を通じて児童1人当たり1日コップ1杯の水が飲める大きさのタンクです。あるフォスターチャイルドがいる家では、12人家族と家畜が住む住宅に雨水タンク5.3㎥(屋根面積は約47.5㎡)が造られましたが、1年のうち2ヶ月しか使えず、タンクが空になると水を運搬しているそうです(写真2)。

*フォスタープラン・フォスターチャイルド:1937年の「子どものためのフォスター・ペアレンツ・プラン委員会」がスペイン内乱の戦災孤児を支援したことに始まった。1960年代は「フォスター・プラン」としてアジア・アフリカ・中南米で活動が広まり、日本でも1983年に事務所が設立。現在は団体名を「プラン・インターナショナル」に変更し、子どもと共に地域開発を進める国際N G Oとして支援国は21カ国に拡大している。スポンサーは寄付することによって、地域のフォスター・チャイルドたちの活動を継続的に支える一方で、チャイルドや家族と手紙などで交流をはかることができる。

図3 ダルエスサラーム大学職員宿舎の雨水利用

図3 ダルエスサラーム大学職員宿舎の雨水利用

タンザニア ダルエスサラームの雨水利用

タンザニアの元首都で最大都市であるダルエスサラームは、現在は500万人を超える大都市ですが、1993年当時人口170万人でした。当時はすでに水道が敷設されていましたが、給水量は市内の地域によって大きな差があるようでした。下水道はなく、河川にそのまま流れていくため、水質汚染が問題で、行った先では風向きによって悪臭が漂っていたりしました。

雨水利用をしている施設をいくつか見ましたが、管理状態が悪く、効率的な集水システムでないところが多くありました。ダルエスサラーム大学の職員宿舎は、スイス企業が設計し、地下タンク80㎥に雨水をためて利用していました。1棟で2軒、2階建の住宅で、6人が住んでおり、シャワー、水洗便所、洗濯、洗面に利用し、洗濯、洗面所の排水は中水用タンクにためて屋外便所の水洗に再利用していました(図3)。

ボツワナ テクノロジーセンター、農家住宅の雨水利用

写真3 ボツワナの貨幣はPula(雨という意味)とThebe(雨だれという意味)

写真3 ボツワナの貨幣はPula(雨という意味)とThebe(雨だれという意味)

訪問した三国のうち、最も降水量が少ない地域です。南部の首都ハボロネの年間降水量は230mmで少ないですが、北部では600mm程度で動植物が豊富なサンクチュアリのオカバンゴもあります。10月から2月が雨期に当たりますが、1ヶ月でほとんど1年分が降ってしまい、残り11ヶ月は10mmしか降らないという極端な降り方をする年もあります。1980年代は5年間連続無降雨の時期もありました。ボツワナの通貨(写真3)はPula(プラ)と言って「雨」または「平和」という意味。ボツワナの人々の水に対する意識がわかります。

雨水利用は1980年代の渇水時に一時期促進が叫ばれていましたが、首都ハボロネ郊外にダムが完成し水道が敷設されたため、水道が未整備の地域で雨水利用をしていました。農村地域は地下水を汲み上げ利用していましたが、塩分が高い傾向にあり地下水の枯渇も懸念されます。雨水利用の促進計画が策定されており、屋根から雨を集めてタンクにためる方法に設置費用の85%の補助金が付くそうです。しかし、雨期においても雨の降り方が極端で、一挙にためる大容量のタンクが必要で、農家の経済的負担が大きくなってしまいます。

写真4 ボツワナ・テクノロジーセンターは雨水利用技術の他、現地で使える中間技術や適性技術の研究を行っている。建築、土木、機械、電気などの120名のスタッフがいる。写真は雨が降ると閉じて集水できるルーバー。

写真4 ボツワナ・テクノロジーセンターは雨水利用技術の他、現地で使える適性技術の研究を行っている。建築、土木、機械、電気などの120名のスタッフがいる。写真は雨が降ると閉じて集水できるルーバー。

ハボロネから車で1時間位にある小学校は、乾燥地帯であり、生徒280人。周辺は赤茶けた土地に灌木が疎に生え、乾燥しきった川筋があり、降雨時には一気に川に水が流れるようです。この小学校は生徒の飲料水として雨水タンクが7基(内1基は使用不能)設置され、建物の屋根から集水されていました。タンクの底近くに蛇口があり、手で押している時だけ出る工夫がされていますが、タンク上部の水の取入口部分が大きな穴があって、ゴミが入って水質はあまり良くないとのことでした。他の地域でも、農家の住宅や農業用貯水池や井戸などを見ましたが、適正な管理がされず衛生上問題があるものや、修理の資金がなく機能していないものが多かったです。

ボツワナ・テクノロジーセンターは、ハボロネの郊外にあり、雨水利用、節水、パッシブソーラーの複合の技術を地域に合わせて普及する研究をしているところです。雨水利用は、駐車場と屋根から集水し雨水に混入する異物を取り除くため、スクリーンや整流壁などの工夫がされていました。特に軒が可動式のルーバーとなっていて、冬は太陽の光を取り入れて熱を壁面に取り入れ、夏は遮断して日陰にする他、雨の場合は集水面として用います(写真4)。施設全体で集水面積565㎡、雨水タンクは6個で総容量は240㎥です。

現在の世界とアフリカの水問題

その後、世界の水事情は大きく変わってきました。まず、世界的には、地球温暖化の影響による気象変動等により、雨の降り方が変わり極端な干ばつや豪雨によるによる被害が頻発しています。また、人口の増加や経済活動の変化により、一人当たりの水使用量が増加しています。世界全体で1995年は1950年に比べ2.7倍、さらに2025年は1995年に比べ1.4倍の使用量の増加と予想されています(World Water Resources at the Beginning of the 21st century,UNESCO,2003より)。アフリカも同様な増加傾向にあります。ケニア、タンザニア、ボツワナの人口は表1で見る通り、約2倍に増加して水使用量も増大している他、干ばつやインフラの老朽化により水がなかなか得られない地域もあります。

また、気象異変による干ばつが何度もアフリカを襲っています。図4は世界の一人当たりの利用可能水資源量を表していますが、水受給の逼迫の程度(水ストレス*)は、アフリカでは「絶対的水不足」「水不足」のランクを付けられている国が多いことが見て取れます。

図5 一人当たりの利用可能水資源(㎥/年,2011) (平成26年版「日本の水資源」国土交通省より) (原典:世界水発展報告書2014(The United Nations World Water Debelopment Report 2014,世界水アセスメント計画(WWAP)2014)

図4 一人当たりの利用可能水資源量(㎥/年,2011)(平成26年版「日本の水資源」国土交通省より)
(原典:世界水発展報告書2014(The United Nations World Water Development Report 2014,世界水アセスメント計画(WWAP)2014)

*水ストレス:農業、工業、エネルギー及び環境に要する水資源量は年間一人当たり1,700㎥とされ、1,700㎥を下回る場合は「水ストレス下にある」の状態、1,000㎥を下回る場合は「水不足」の状態、500㎥を下回る場合は「絶対的な水不足」の状態を表す。

その後のケニア・タンザニア・ボツワナの水事情

Webあまみず編集部は、訪問した3国のその後の雨水利用の情報をインターネット等で調べましたが、まとまった資料は見つからず、断片的内容となりますが報告します。詳細等をご承知の方は雨水市民の会事務局へメールでお知らせてくださると助かります。

いわゆる「アフリカの角」とその周辺の国々では、2001年に地域の雨水利用ネットワーク組織が立ち上がり、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ソマリア、エチオピアがパートナーシップを組みました。2010〜11年に干ばつがあり、過去60年間で最悪と言われ、雨水利用が有効に効果を発揮したことは伺えません。1330万人に人的支援が必要でしたが、政情が不安定な国が多く、日本政府はNGOや国際機関を通じて資金や食糧の支援をしました。

ボツワナでは雨水利用の事例は多いのですが、体系的にまとめたものはありませんでした。2018〜19年は、アフリカ南部の広い地域で1981年以降で最少の降水量となり、人口増加に伴う森林伐採により雨が流出したことや、灌漑設備の修復の遅れもあって、水を得られる手段が効果的に取れないという新聞報道(2019.12.25,日本経済新聞)もありました。

一方、タンザニアは北部は年間降水量が2500mmを超える地域もありますが、首都ドドマ等の中央部は550mmと少雨地域もあります。雨水利用は従来から海外の支援のもと農業での活用や学校・病院などへの導入がされており、近年は政府も全国的に展開しています(「タンザニア・開発ビジョン2025」より)。page103image2955630592

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