2013.04.20
ライフサイクル思考で雨水活用を考える(3)雨水活用のライフサイクル思考・効果を最大限にするには& 質疑応答
講師:笠井利浩(福井工業大学経営情報学科)
レポーター:高橋朝子(あまみず編集部)
2012年度雨塾(NPO法人雨水市民の会主催)
2013年2月24日・すみだ環境ふれあい館にて
■雨水は用途を広げて使うことが大切
ここまで、正しいエコ活動に必要となるライフサイクルアセスメント(LCA)の基本的な考え方や雨水活用装置のLCAを簡単に説明してきました。LCAでは、最終的には自然界への環境影響評価までを考慮した評価を行います。この講演の中では、そこまで考えると難しくなりすぎますので、広い視野で環境行動を評価する重要性を伝えたいと思います。この考え方は、LCAよりももう少し柔らかいもので、ライフサイクル思考(Life Cycle Thinking:LCT)と呼ばれます。このような考え方から考えると、本質的な環境負荷
削減を達成するためには、如何に雨水をたくさん利用できるかが問題となってきます。すなわち、雨水をいろいろな用途に使ってタンクがいつも空になっているくらいの使い方のほうが、環境負荷削減には効果的です。ですから、雨水活用の用途を考え、雨水タンクが空になる事を楽しみにどんどん雨水を使うこと
を考えると良いと思います。
- 草木への水やり
- 雑巾を洗う
- 水洗トイレに流す
- 洗たく
- 夏の打ち水
- 緑にカーテンを育てる
■緑のカーテンを使ったライフサイクル思考に基づく環境教育の実践
本質的な環境負荷削減に繋がる正しいエコ活動を実践するには、ライフサイクル思考が重要であるということは分かっていただけたかと思います。現在、私は大学近隣の小学校と連携し、雨水活用装置や緑のカーテンを使ったライフサイクル思考に基づく環境教育を展開しています。今年度は、緑のカーテンへの水やりに水道水を使っていましたが、来年度は雨水を使うことを計画しています。ライフサイクル思考を小学生に分からせるのは難しいのではないかと思われるかもしれませんが、決してそのような事はありません。
この緑のカーテンは今年度初めて育てたものですが、横幅18m、高さが10m程になり、最盛期には、カーテンの厚みが50~60cm程にまでなっていたでしょうか。緑のカーテンの下に入るととても涼しく、夏の暑い日の様子をサーモカメラで見ても、その効果は歴然です(写真3)。ちなみに、このプランターの底には穴が開いていませんので、使った水は全て植物に吸い上げられて葉から蒸散したことになります。一番多い日で、1日600ℓ程の水を使いました(図7)。
すなわち、600ℓの水が葉の表面から蒸散したわけです。使用した水が葉の表面で蒸散することによって奪われるエネルギー量を、緑のカーテンの納涼効果として計算してみましょう。今期全体で通算40m3の水を使ったので、この熱量をエアコンで冷やしたとして考えると電気料金にして10万円、CO2削減効果としては2,247㎏となりました。一方、緑のカーテンの設置に伴って発生するCO2排出量は、プランター、ネット、土などの値段から3EIDを利用して計算すると1,912㎏になりました。これらの値を比較してみますと、納涼効果による緑のカーテンの環境に良い面はCO2削減量で表すと2,247㎏、一方、緑のカーテンに必要な資材などによって発生する環境に悪い面としては1,912㎏ですから、苦労の割に大した差はありません(図8)。
ここで私は、「このぐらいの差しかないのなら、来年はやめようか?」と子供達に問いかけます。すると驚いたことに、多くの子供たちの口から「先生、来年はプランターやネットなどは買わなくてよいから悪い面は増えないけど、良い面はどんどん増えるよ!」といった意見が次々に出てきました。まったくその通りで、来年度以降は良い面ばかりがどんどん大きくなり、悪い面との差が開いてゆきます。「小学生にもライフサイクル思考は十分に理解できる」今年度私が一番嬉しく思った瞬間でした。
10月末には、緑のカーテンを教室から間近に見ていた4年生の子供たちに撤去作業を手伝ってもらいました。すると驚いたことに、目を潤ませている子どもがいました。理由を聞いてみると、「まだ緑のカーテンは生きていて花もいっぱいつけているのに、自分達の手で枯れさせてしまうから悲しい。」と話してくれました。緑のカーテンには生き物を育てるという情操的な面もあり、CO2削減効果がどうのこうのという話だけではなく、奥の深い教材だと改めて気付かされました。確かにこれぐらいの大
きさになると、緑のカーテンの下にいるとオーラ(気配)のようなものを感じます(写真4」)。私も科学者のつもりですから、科学的に捉える事が難しいことを話すのには抵抗がありますが、これは事実です。緑のカーテンを手伝ってくれていた学生も、気が付くと緑のカーテンに話しかけていたことがあると言っていました(笑)。
■投資は最小限、効果は最大限! 雨水活用に取り組もう
最後に今日の講演のまとめをしておきたいと思います。雨水活用で環境負荷削減をするためには、①単純な装置、②部材には極力リサイクル品を使用、③雨水を貯めることより使うことが大切、④雨水を無駄なく効率的に利用することです。何にでも当てはまると思いますが、「投資は最小限、効果は最大限」をめざした雨水活用にチャレンジしましょう。
質疑応答
Q1 自宅でも太陽光発電の雨水活用をしているが、何年で元が取れるかとよく質問される。これには科学的と条理的な要素があって、私は結果的に元は取れないと答えている。環境問題は人の意識の問題が最も大きい。数値化するときに気を付けなければならないのは、何をベースに評価しているかをよく知ることだと思う。右肩上がりの需要を満たすための先行投資をして、供給するためのキャパシティを高くしたうえで、消費量を少なくすることが良いと思われるか?
A1 環境にやさしい生き方を考える上で意識は大変大事だと思うが、良さそうだというだけでは解決にならない。だから啓蒙活動に併せて、実際に本当に良いのかどうかを考えていかなければならない、そういう時期に来ていると思う。この質問は、先ほど私が説明した大野市の例に当てはまるだろう。
Q2 先ほどのエコバッグとレジ袋の比較で、33回エコバッグを使わないとレジ袋1回分にならないとすると、エコバッグはいらないと思うが、いかがか?
A2 私はエコバッグのデザインとして、大きく33と書けば良いと思う。さらに立派なエコバッグの場合には、もっと大きな数字になると思うが、エコバッグを使った本質的なエコ活動において、エコバッグの繰返し利用回数が重要であることを皆が知ることが大切だと思う。実は、近年のエコバッグが普及する一方で、ゴミ袋用のビニール袋生産量が増えているという実態がある。良く考えてみると、レジ袋はスーパーで購入した商品を1回家まで運んだだけでゴミになる訳ではない。その後は保管しておき、生ごみをまとめたりする時のごみ袋などに利用していた。しかし、エコバッグの普及によって最近は家庭にあるレジ袋の枚数が減り、必要に応じて消費者が新たにゴミ袋を買っているために需要が伸びている。
Q3 金沢に住んでいて冬に困っているが、雨水を融雪に利用することはできないか?
A3 雨水タンク内の水の温度は、ほどんど外気温と同じになるため、雪が降るような寒い日には残念ながら撒いても溶けない。
Q4 すみだ環境ふれあい館でも、規模は小さいがゴーヤで緑のカーテンを作っている。収穫した果肉は食べ、実は次の年に撒くなどの取り組みを行って、子どもたちに循環について学んでもらおうと思っている。先生がやっておられた緑のカーテンではいかがか?
A4 高さが10mもあると、実がなっても採れないものが沢山出てしまうのが現実だ。ヘチマ、ゴーヤ、アサガオの3種類の苗を植えたが、今年度のヘチマの実の総量は400~500㎏になったと思う。残念ながら、用途はスポンジ作成に使う程度で、全てを使いきるわけにはいかなかった。途中から肥料成分を調整し、窒素分の多い肥料にすることで実が大きくならないような工夫をした。
大学時代には資源工学を学び、環境分析や汚水処理技術に関する研究を行ってきた。現在は、ライフサイクルアセスメント(LCA)を軸として雨水活用やライフサイクル思考に基づく新しい環境教育に関する研究を行っている。日本LCA学会、日本雨水資源化システム学会、日本建築学会等の学会に所属し、雨水市民の会の会員でもある。“あまみず”58号(2012年4月発行)に「福島原発事故による雨水タンクの放射能汚染調査」を執筆。