学術

ライフサイクル思考で雨水活用を考える(1)雨は天然の蒸留水。うまく溜めて水質アップ

講師:笠井利浩(福井工業大学経営情報学科)
レポーター:高橋朝子(あまみず編集部)

笠井利浩准教授

笠井利浩准教授

2012年度雨塾(NPO法人雨水市民の会主催)

2013年2月24日・すみだ環境ふれあい館にて

写真1 降り始めの雨水(右)と降り始めから1時間後の雨水(左) その差は歴然。

写真1 降り始めの雨水(右)と降り始めから1時間後の雨水(左)
その差は歴然。

■雨水はキレイ?キタナイ?

写真1は、降り始めの雨(初期雨水)と降り始めからしばらくたってからの雨です。見た目にはずいぶん違いますが、水質のデータにも明らかに差があります。たとえば電導度(水中での電気の通り易さを示し、値が大きいとイオン性物質が多く溶け込んでいることが分かり、小さいほど純水に近い。)は、2~3ミリ分も降れば半減します。もともと雨は蒸留水に似た大変きれいな水質です。

■雨水は洗たくに適している

硬水中の石けん分子の様子

図1 硬水中の石けん分子の様子

雨水の硬度(カルシウムやマグネシウムの量)は大変低く、東京都水道水の約20分の1程度、硬水で有名なミネラルウォーター(エビアン)と比べると100分の1程度しかない超軟水です。雨水に洗剤を入れて振ると泡立ちが抜群に良く、水道水と比較するとその差は歴然です。石けんは油分(汚れ)を取り囲んで油分を水に溶けやすくさせ、洗浄力を発揮します。しかし、硬度分であるカルシウムやマグネシウムがあると、石けんは硬度分と強く結合し、水に溶けずに沈殿してしまいます(図1)。ですから、硬度分が高い水では洗剤を余分に入れなければ汚れが落ちません。硬度分のある水道水と比較して、雨水は洗剤使用量が少なくなって経済的です。また、環境中への界面活性剤の放出量も減らすことができ、財布と環境にダブルで優しい面を持ちます。

■雨水タンク内の放射性物質

表1  雨水タンク中の底質泥の放射性物質分析値

表1  雨水タンク中の底質泥の放射性物質分析値

福島第一原子力発電所の事故の後の2011年6月頃、福井市内で環境教育用に利用している雨水タンクを掃除していた時に「まさかここまで来ていないよね」とふと思ったのが始まりでした。私の大学には原子力技術応用工学科という学科があり、詳細な放射性物質濃度が測定できる環境が身近にあったため、測定を

依頼しました。その結果、底質泥から50Bq/kg程度の放射性セシウム134と137が検出されました。また、福島原発から900km以上も離れた山口県宇部市の雨水タンクからも、微量ですが同様に検出されました。一方、東京都墨田区や千葉県鎌ケ谷市では、いわゆるホットスポットの影響から、かなり高い値が出ました(表1)。これらの放射性物質が福島原発からのものであることは、セシウム134と137の比率で分かります。チェルノブイリ事故の場合には、1:2くらい

表2 雨水タンク中の雨水の放射性物質分析値

表2 雨水タンク中の雨水の放射性物質分析値

でしたが、福島原発の場合はほぼ1:1でした。

福井市の雨水タンクは私が管理しており、その後も3カ月ごとに清掃していましたが、底質泥から放射性物質が継続的に検出されています。これは、一度地上に降り積もった放射性セシウムを吸着した土埃等が、再び舞い上がって雨と共に雨水タンクに流入してたまったと考えています。時間の経過と共に放射性セシウム134と137の比率が変化しているのは、これらの半減期が2年と30年で違うことから起こっているものです(表1)。

肝心の雨水についても底質泥と同じ雨水タンクで測定しましたが、ほとんど検出されません。場所によってわずかに検出されるものの、その濃度が非常に少ないのが特徴です(表2)。これは、放射性セシウムが雨と共に雨水タンク内に流れ込んだ土埃(粘土鉱物等)と強く結びつき、底質泥として雨水タンクの底に沈殿しているためです。

初期雨水カット装置の仕組み(例) ①降り始めの汚い雨水が装置(左)に入る。②水量が増えるに従って中のボールが浮く。③満水になってボールが穴を塞ぎ、きれいな雨水が雨水タンク(右)に入る。④装置の底の小さな穴から初期雨水を自然に排水。

図2 初期雨水カット装置の仕組み(例)
①降り始めの汚い雨水が装置(左)に入る。②水量が増えるに従って中のボールが浮く。③満水になってボールが穴を塞ぎ、きれいな雨水が雨水タンク(右)に入る。④装置の底の小さな穴から初期雨水を自然に排水。

安心して雨水活用するためには、汚染物質を含む初期雨水を極力雨水タンク内に入れない工夫と、雨水タンクの底に沈殿している底質泥を舞い上げない工夫が重要となります。事故当初からの底質泥が貯まっている雨水タンクでは、清掃して底質泥を除去した方が良いのですが、あまりに放射線量が高い場合には処分することが困難なため、ケースバイケースにならざるを得ません。

■雨水の溜め方

雨の溜め方は、樋からの雨水をバケツやポリタンクなどに溜めるシンプルなもの、甕や樽などを利用したおしゃれなものもあります。量を溜めたいとなると、ある程度大きい市販のタンクがよいでしょう。インターネットで検索してみると、オークションにリーズナブルな中古タンクが多数出品されていました。今回紹介する例では、250ℓで3,000円位(送料別)でした。雨水を汲み出す方法としては、安価なバスポンプをお勧めします。ホームセンターで1,000円位で売っていますので、壊れても安いものです。

写真2 超簡単!初期雨水カットの例。 雨樋から落ちる位置を少しずらすことで、雨の降り始めの小雨の時には勢いが無く、タンクの肩に当たって中には入らない。雨がたくさん降ると勢いが出て、タンクに入る。

写真2 超簡単!初期雨水カットの例。
雨樋から落ちる位置を少しずらすことで、雨の降り始めの小雨の時には勢いが無く、タンクの肩に当たって中には入らない。雨がたくさん降ると勢いが出て、タンクに入る。

■初期雨水カット装置

先ほど話したように降り始めの雨は汚いので、雨水タンクに入らないようにしたいですね。この初期雨水カット装置の模型は講演用に作ってきたものですが、材料は全てホームセンターで揃えたものです(図2)。この模型の場合、全部で1,000円から2,000円位で作れました。

究極的に簡単な方法として写真2のようなものがあります。

■フローティングサクションフィルター、雨水流入緩衝装置など(図3)

初期雨水カットをしても、雨水タンクにはゴミや泥が溜まりますし、水面にも小さなゴミが浮いている場合があります。雨水と共に雨水タンクに流入した土埃等は時間と共に沈殿するため、水面近くの雨水がタンク内で一番清浄となります。

清浄な雨水を得るためのタンク内の工夫 フローティングサクションフィルター、雨水流入緩衝装置、底面・水面排水装置の紹介

図3 清浄な雨水を得るためのタンク内の工夫
フローティングサクションフィルター、雨水流入緩衝装置、底面・水面排水装置の紹介

このような理由から、送水ポンプの吸水口を水面から常に10cm程下にくるようにすることで水質の良い雨水を得ることができます(=フローティングサクションフィルター)。

一方で、新たに雨水がタンクに流入したときに底の泥をかきまぜないように流入した雨水が上向きに流れるようにします(=雨水流入緩衝装置)。オーバーフローについては、雨水タンク底の雨水から優先的に排水されるようにすれば、沈殿した底質泥を積極的に排除できますし、豪雨時には表面の浮いているゴミを流し出す工夫もあります(=底面、水面排水装置)。

これらの装置はどれも、一般的な工作レベルで簡単にできるものです。

(1)(2)(3)

 

大学時代には資源工学を学び、環境分析や汚水処理技術に関する研究を行ってきた。現在は、ライフサイクルアセスメント(LCA)を軸として雨水活用やライフサイクル思考に基づく新しい環境教育に関する研究を行っている。日本LCA学会、日本雨水資源化システム学会、日本建築学会等の学会に所属し、雨水市民の会の会員でもある。“あまみず58号”(2012年4月発行)に「福島原発事故による雨水タンクの放射能汚染調査」を執筆。

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