学術

ライフサイクル思考で雨水活用を考える(2)雨水活用のライフサイクルアセスメント

講師:笠井利浩(福井工業大学経営情報学科)
レポーター:高橋朝子(あまみず編集部)

笠井利浩准教授

笠井利浩准教授

2012年度雨塾(NPO法人雨水市民の会主催)

2013年2月24日・すみだ環境ふれあい館にて

■エコロジカルだと思っている生活は本当にエコロジカルか?

ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)は、物の製造から使用、廃棄に至るまで

図4 太陽光発電を例としたライフサイクルアセスメントの基本的な考え方

図4 太陽光発電を例としたライフサイクルアセスメントの基本的な考え方

の環境負荷を量的に表し、全体で評価する考え方です。私は、小学生向けの環境教育でこの考え方を太陽光発電を例に説明しています(図4)。太陽電池を作る製造段階では多くの資源やエネルギーを使い、環境に悪い面として「10悪」。一方、使用段階では何も排出せずに電気だけを発電するので「12良」。最後の廃棄段階では、製造段階ほどではありませんが少し環境に負荷をかけますので、その分を「1悪」としましょう。全体として考えた場合にも「1良」となり、この場合は「良い」という評価になりました。ここで私が言いたいのは、一般的な太陽電池の評価は使用段階の「12良」の部分だけで議論されており、製造時や廃棄時の環境負荷については殆ど考慮されていないということです。この例では、全体としてよい「良い」シナリオでしたが、例えば工場の生産効率が悪く製造段階の環境負荷が「12悪」、天気が悪い地域で使用したために発電効率が悪く使用時の環境に良い面が「10良」、廃棄は同じとして「1悪」だとします。この場合には全体として「3悪」となり、総合評価は「悪い」となります。

表3 エコバッグとレジ袋の1枚当たりのライフサイクルCO2排出量の比較 レジ袋:エコバッグ=26.0:854.0=1:33

表3 エコバッグとレジ袋の1枚当たりのライフサイクルCO2排出量の比較
レジ袋:エコバッグ=26.0:854.0=1:33

この講義では、ライフサイクルアセスメントの身近な例としてエコバッグとレジ袋の比較を考えてみたいと思います。エコバッグもレジ袋もプラスチック製品ですので、石油を採取して樹脂を製造するところまではほぼ同じです。その後の製造工程では、エコバッグの場合には製糸、製繊、縫製と複雑ですが、レジ袋はブロー成型加工だけで終わります。製品1枚あたりの重さを、レジ袋は5g、エコバッグ35gなどと前提条件を設定した上で1枚あたりのライフサイクルCO2排出量を求めると、レジ袋と比較してエコバッグは33倍環境負荷が多いということになります(表3)。すなわち、この場合にはエコバッグは33回以上使って初めて、レジ袋より環境負荷が少なくなるということです。一方、レジ袋は1回で使い捨てするのでなく、次の買い物の機会にリユースすることもできますし、生ごみなどをまとめる際のごみ袋などの用途にも使うことができます。さて、こうして考えると、どうすれば良いと思われますか。

以前、京都の講演でこの話をしたときに、環境団体の会長さんから「環境にやさしいからエコバッグを配ったことがあるのに、まるでエコバッグが悪いようではないか!」と怒られたことがありました。ライフサイクルアセスメントはダメ出しツールではありません。ライフサイクルアセスメントはどこに問題があるかを考えるツールだということです。ですから、ユーザー側の視点からエコバッグを使って本当のエコ活動をしたいのなら、レジ袋に負けないように、使用頻度をさらに上げることを考えればよいのです。一方、エコバッグ製造者の側から考えると、より製造工程を簡略化した製造方法を考える事で全体としての環境負荷量を効果的に低減させることができるということが分かります。

■雨水活用のライフサイクルアセスメント

図5 水道水1㎥造水時のCO2環境負荷量 笠井利浩:地域特性からみた一戸建て住宅における雨水活用装置の環境負荷削減効果,日本雨水資源化システム学会誌,Vol.18,No.1,pp.27-33,2012 より

図5 水道水1㎥造水時のCO2環境負荷量
笠井利浩:地域特性からみた一戸建て住宅における雨水活用装置の環境負荷削減効果,日本雨水資源化システム学会誌,Vol.18,No.1,pp.27-33,2012 より

さて、本題の雨水活用について考えてみましょう。ここでは、私のこれまでの研究から雨水活用による環境負荷削減効果について紹介いたします。コンピュータシミュレーションを行う条件として、日本全国の各市区町村(約1,800)ごとに、降水量(10年間)、建築面積、世帯当たりの人数(平均3.0人)、雨水活用の用途をトイレ洗浄水として利用するとしました。また、雨水活用による環境負荷削減効果を計算する際に必要な水道水造水時のCO2環境負荷量は、自治体によってかなり開きがありました(図5)。これらの基礎データを使ってパソコンで1週間ほど計算し続けると、図6のような環境負荷削減量マップが得られました。このシミュレーションでは、雨水タンク容量を0.5m3、1.0m3、2.0m3の3パターンで計算を行っています。

このマップを見ると、地域や雨水活用装置の設置条件によって環境負荷削減効果は大きく異なることが分かります。全体的にみると、タンク容量が大きくなるほど効果は高くなっています。地域的には、日本海側では「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉があるくらいに頻繁に雨が降るため、タンク容量が小さくても雨水を貯留できる頻度が高いため効果は高くなっています。福井県大野市では、局地的に環境負荷削減効果が非常に高くなっています。大野市は湧水で有名な町ですから少しこの結果に違和

図6 雨水活用による環境負荷削減量マップ 笠井利浩:地域特性からみた一戸建て住宅における雨水活用装置の環境負荷削減効果,日本雨水資源化システム学会誌,Vol.18,No.1,pp.27-33,2012 より

図6 雨水活用による環境負荷削減量マップ
笠井利浩:地域特性からみた一戸建て住宅における雨水活用装置の環境負荷削減効果,日本雨水資源化システム学会誌,Vol.18,No.1,pp.27-33,2012 より

感を覚えたため、この町に住む知り合いに大野市の水道の様子を尋ねてみました。すると、町の人たちの多くが井戸水を利用して水道水があまり使われず、単価が大変高くなっているために、このような結果になったことが分かりました。つまり、年間降水量で雨水活用装置の効果を議論するのではなく、降水パターン等の各地域によってことなる条件を反映させた評価を行う必要があるということです。このような事から私は、Web上で様々な条件を設定してシミュレーションできるWebアプリケーションの開発にも取り組んでいます。このソフトは、Web上でインターネット環境がある場所ならどこからでも、雨水活用装置による効果をシミュレーションできるAkaNaviというソフトで、設置場所(市区町村)、雨水タンク容量、雨水の用途などの条件を入れることで様々な面から評価が行えます。

■実際に計算してみよう

次に、簡単な雨水活用装置モデルを使って、墨田区で雨水活用を行った場合のシミュレーションを行ってみましょう。雨水タンクには中古のタンク(250ℓ)を利用し、自家製で10m2の屋根から集めた雨を散水に利用する装置を作成したとします。年間

表4 雨水活用装置設置時のCO2排出量 この例は、オークション等で250Lの中古タンクを購入し、DIYで簡易な雨水活用装置を設置したものとして計算した

表4 雨水活用装置設置時のCO2排出量
この例は、オークション等で250Lの中古タンクを購入し、DIYで簡易な雨水活用装置を設置したものとして計算した

の雨水活用量は6.6㎥で、水道水代替率は37%(3.9m3)となります。水道水造水時の環境負荷量は、東京都水道局のデータから算出した値(186円/m3)に3EIDの原単位をかけることで、1m3当たりのCO2排出量が求められます(253g/m3)。一方、雨水タンクを設置した際に発生するCO2排出量も3EIDから算出すると13,040gとなり(表4)、設置時のCO2排出量を雨水活用でキャンセルするためには、雨水を52m3利用しなければならないことが分かります。従って、環境負荷の面から考えた償却期間は、年間雨水使用量が6.6m3なので52m3/6.6m3=7.8年となります。

この様な評価をお金の面から行ってみると、年間の上下水道料金節約分は1,562円/m3となり、このモデルの場合での設置費用(7,000円)は7,000円/1,562円=4.5年で元が取れることになります。これまでにLCAの計算していて感じることは、設置時の負荷(お金と環境負荷)については、環境負荷面よりもお金で償却する方が比較的簡単にできるということです。前述の雨水タンクは、中古品を使っているので製造時のCO2排出量を計上していませんが、新品の場合にはもっと長い年数がかかることになります。

 

*3EID:「Embodied Energy and Emission Intensity Data for Japan Using Input-Output Tables」の頭文字をとった略語。エネルギー(Energy),環境(Environment),経済(Economy)の3Eの問題を解くための指標の一つ。物の値段から、それを作るときに出した二酸化炭素の量を求めることができる。独立行政法人国立環境研究所・地球環境研究センターで公開している。(例:造水費用×水道水の原単位=水道水造水時のCO2排出量)

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大学時代には資源工学を学び、環境分析や汚水処理技術に関する研究を行ってきた。現在は、ライフサイクルアセスメント(LCA)を軸として雨水活用やライフサイクル思考に基づく新しい環境教育に関する研究を行っている。日本LCA学会、日本雨水資源化システム学会、日本建築学会等の学会に所属し、雨水市民の会の会員でもある。“あまみず”58号(2012年4月発行)に「福島原発事故による雨水タンクの放射能汚染調査」を執筆。

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