学術

日本建築学会 水環境シンポジウム「雨水活用からはじめる水循環系の再生」に参加して

高橋朝子(Webあまみず編集委員)

2014年3月1日(土)建築会館ホールで、一般社団法人日本建築学会環境工学委員会水環境運営委員会雨水活用技術規準策定小委員会が主催して、「雨水活用からはじめる水循環系の再生-雨水活用技術規準の策定に向けて-」をテーマにシンポジウムが開催されました。建築学会では、これまで「雨水活用建築ガイドライン」(日本建築学会環境基準AIJES-W0002-2011)の策定をしています。局地的豪雨や巨大台風などによる災害の増加が懸念されている現在、河川や下水道だけの豪雨対策ではなく、個々の建築や暮らし方、環境教育など多方面からの取り組みが必要です。今回は、今後の見通しや技術的課題を整理するために開かれました。

当シンポジウム資料集より

当シンポジウム資料集より

まず、NPO法人日本水フォーラム事務局長の竹村公太郎氏が「水循環の再生と水循環基本法」と題して、基調講演をされました。地球的にみると現在は水危機の時代です。氷河の後退、永久凍土の溶出、平均気温の上昇による生態系の変化、砂漠化の進行、大規模な環境破壊など、急速な環境の変化が起きています。一方で、日本は世界の比較からすると水に恵まれた国と思われるかもしれませんが、バーチャルウオーターの輸入を加えると、水自給率は6割にしかすぎません。世界中で水の汚染や涸渇が懸念される中で水による紛争が頻発しており、日本に多大な影響を及ぼす恐れもあります。日本の水供給にも変化が起きています。ダム開発などにより右肩上がりの水需要を支えてきた水道事業に、危機的状況が見え始めています。左図は横浜市の人口と上水道給水収益の推移ですが、人口が増加しているのにもかかわらずと水道料は減少しています。水道料金は基本料金と従量料金で維持費を賄っていますが、最近、水を多く使用する企業、病院、大学などがこぞって地下水をくみ上げ、水道料金は基本料金しか支払わないという傾向が原因です。これまでは、川や湖沼の水の利用には法的規制がありましたが、自由に利用してよかった地下水にも規制の対象としていかなければなりません。今国会で成立するであろう「水循環基本法」は、その考え方を示すものとなります。水に関わる縦割りの法律をつなげる役割も果たすでしょうが、実現化するためには企業やNPOや学会が問題提起や活動をして連携していかなければなりません。竹村氏が紹介された4次元水循環マネジメントは地下水の見える化を実現し、地下水を含めた水全体の利用計画を策定するためのツールとして興味深いものでした。

次に活動報告として、公益社団法人雨水貯留浸透技術協会の屋井裕幸氏が「雨水活用技術規準策定に向けて」として、技術規準の策定方針を紹介されました。雨の水循環系健全化の役割を果たすものとして、建物だけでなくその敷地を含めた雨水活用施設の技術的レベルを示し、数値基準を設けるものとするそうです。

さらに特別公演には、韓国釜山国立大学のHyun-Suk Shin教授が「韓国におけるGI(Green  Infrastructure)とLID(Low Impact Development)」を講演されました。GIとは、土地利用計画において自然のプロセスを十分に生かす手法であり、例えば洪水防止には、ダムや堤防などの建設に代え、大雨の際の水をスポンジのように吸収する効果を発揮する湿地を活用するなどの方法です。LIDとは、従来雨水を下水道に捨て去っていた方法を、敷地内の雨水を活用したり浸透したりして雨水管理する方法です。釜山では、この手法を導入して「エコデルタシティ計画」を5年かけて実現する予定です。

幅広いジャンルから雨水活用による水循環系の再生について語られた。

幅広いジャンルから雨水活用による水循環系の再生について語られた。

水循環再生のためには水源林や農地の保全、雨水流出抑制、湧水保全、地下水涵養など広範な取り組みが必要であり、行政の部署も地域でも実践も多岐にわたっています。今回のシンポジウムでは、5人のパネリストが話題提供して、雨水活用技術規準を策定するアイデアを考えました。

●「雨水活用による教育」笠井利浩(福井工業大学工学部経営情報学科准教授」

●「雨水活用とランドスケープデザイン」福岡孝則(神戸大学大学院工学研究科建築学専攻特命教授)

●「雨水活用と国際交流」金賢兒(千代田化工建設株式会社)

●「雨水活用と水質」大西和也(株式会社タニタハウジングウェア)

●「『雨の家』で暮らす」早坂悦子(有限会社ロリーポップ)

 

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