2015.11.04
水環境シンポジウム「雨水活用技術規準の策定と雨水法制定」報告
山田 岳(ただすのもり環境学習研究所代表・日本建築学会会員・雨水市民の会会員)
第39回水環境シンポジウム「雨水活用技術規準の策定と雨水法制定」(一般社団法人日本建築学会環境工学委員会企画刊行運営委員会雨水活用建築技術企画刊行小委員会・水環境運営委員会雨水活用推進小委員会主催)が、9月27日、港区の建築会館で開かれました。
雨水活用とは、蓄雨とは
今回のシンポジウムは建築学会の「雨水活用技術規準(以下、技術規準)」の策定にあたり、幅広く意見交換を行うことを目的としています。これまでの「雨水利用」に代わり、「雨水活用」という言葉が使われ、「蓄雨」いう耳慣れない言葉も登場しました。
太陽光発電のバッテリー(蓄電池)の「蓄」と同じ意味で、「蓄雨」は造語されましたが、この蓄雨は防災蓄雨(大規模災害対応)、治水蓄雨(集中豪雨対応)、環境蓄雨(蒸発散・地下浸透)、利水蓄雨(従来の雨水利用)の4つで構成され、防災蓄雨と治水蓄雨を必須としています。雨水がこれらに使われることが「雨水活用」です(雨水利用の概念が広がったとも言えます)。
技術規準では気候変動による集中豪雨に対応するため(内水氾濫を緩和するため)、住宅敷地の単位面積あたり100㎜蓄雨することを規準としています(個別の住宅では対応できない場合には地域や流域で対応することも考えています)。
時代の要請をうけた雨水活用技術(案)
シンポジウム第一部は雨水活用技術規準(案)の説明でした。
神谷博さん(雨水活用建築技術規準刊行小委員会主査)から「策定の経過と趣旨」の説明がありました。生物多様性基本法(2008年)、国土強靭化基本法(2013年)、水循環基本法(2014年)の成立を受けて、国土形成計画も改定(2015年)され、自然が有する多様な機能(生物の生息場所の提供・良好な景観形成・気温上昇の抑制等)を活用するグリーンインフラストラクチャー*1が盛り込まれました。水循環基本法と同時に雨水の利用の推進に関する法律も成立し、今年3月にはその基本方針も出されています。今回の雨水活用技術規準の策定は、こうした時代の流れを加速するものです。
笠井利浩さん(福井工業大学)からは、
「防災蓄雨量=家族一人あたり50リットル/日×人数×3日間」
「必須蓄雨高(㎜)=必須蓄雨量(リットル)÷建設敷地面積(㎡)」
など、具体的な計算方法の紹介と、東京、新潟、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、那覇の1日当たりの降雨量と発生日数の関係(1日100㎜を超える日数は全体の2%以下)から「東京の場合、日降水量100㎜に対応すれば、時間雨量100㎜にも対応できる」と、100㎜蓄雨の根拠が示されました。
小川幸正さん(株式会社大林組)からは、具体的な蓄雨の算定方法についての解説の後、計算結果から、緑地比率85%の公園では蓄雨高80.3㎜、浸透のある戸建て住宅では45.8㎜と、地下浸透の治水蓄雨高が大きいことが改めて示されました。
屋井裕幸さん(公益社団法人雨水貯留浸透技術協会)からは、雨水活用の評価は、雨水収支、低炭素、コスト、感性、要素技術の5項目で行われ、このうち感性評価は、実際に住む人のモチベーションを高めるために感性にどのように働きかけているかを評価するものだと、紹介がありました。また、既存の施設を今回の規準で算定すると、どのくらいの蓄雨高(単位面積当たりの貯水高さ)になるか、計算結果の紹介もあり、都内T邸(雨水をトイレの流し水に使っている)の蓄雨高は52㎜でした。これが100㎜になれば、あと48㎜は治水に使えることになるわけです。
国土交通省と東京都都市整備局も参加
第2部のパネルディスカッションに先立って、国土交通省から「雨水法の制定について」話題提供。またコーディネーターの村川三郎さん(広島大学名誉教授)からは話し合いのイントロになるプレゼンテーション(気候変動問題により水循環をめぐる問題が厳しくなっている)がありました。会場からも、東京都都市整備局のパンフレット「貴重な水資源の有効利用のお願い」についての紹介(大規模建築物・開発では雨水利用や地下浸透などの導入をお願いしている)が都の職員からありました。
具体的な課題についてパネルディスカッション
パネルディスカッションは、休憩時間に会場から出された質問をもとに行われました。
「法律との整合性はどうなるか。政策投資銀行のグリーンビルディングとの関係は?」に対して、神谷さんは「横浜市立小学校(複数)で放射能汚染について調査した結果からも、国の基準に初期雨水カットを標準化するなどの改正が必要」「これからCASBEE*2とのすりあわせを行うが、その先にはグリーンビルディング認証*3もあるだろう」と、答えました。
当日の資料として大規模災害に備えての雨水利用と超節水型トイレとの関係についての研究論文を提供していただいた山海敏弘さん(国立研究開発法人建築研究所)からも、会場から「すでにタンクに貯水されていると豪雨に対応できないのではないか」「防災蓄雨の一人1日50リットルの根拠は何か」「バルブメーカーは『雨水は水質が不安定だから、雨水用のバルブはつくれない』と言っているが、どうするのか」などの質問が出されました。
これに対して、屋井さんから「100㎜蓄雨高にしたのは、治水蓄雨のための空きスペースを貯留槽につくるため」、笠井さんから「東京都の家庭での水道使用量のデータからトイレを基本に、生活用水として使う余裕を持たせるために50リットルにした」、屋井さんから「初期雨水をカットすれば雨水の清浄度は高い。近頃問題になっている亜硝酸塩の数値も低い」と、回答がありました。
山海さんからは「バルブメーカーも『ニーズが増えれば雨水用をつくる』と、言っているので、がんばってほしい」と、エールも贈られました。
*1 グリーンインフラストラクチャー:緑地や湿地(自然のものを含む)をインフラとして整備したもの。緑をネットワーク化することで生態系の保護策、地球温暖化への適応策として期待されている。
*2 CASBEE:建築物の環境性能を、省エネルギー、環境負荷の少ない資材・機材の使用、室内の快適性、景観など、複数の観点から評価し、格付けするシステム。
*3 グリーンビルディング認証:環境・社会に配慮した不動産を増やすために日本政策投資銀行が創設した認証制度。環境性能、防災、コミュニティへの配慮などから評価を行っている。
やまだ・がく 京都大学大学院で、環境防災水利として墨田区の雨水利用の経緯と「路地尊」について研究。修士(地球環境学)。『雨水活用建築ガイドライン』(日本建築学会)、『活かして究める 雨の建築道』(技報堂出版)、現在は雨水活用建築規準刊行小委員会委員として『雨水活用建築技術規準』(日本建築学会)の策定に関わる。雨水のほか、買い物からごみ問題・温暖化問題・途上国の問題を考えるセミナーやワークショップなどを行っている。