ひと・市民

災害時にも自立できるエコな住まい~近江八幡市・鈴木有さんの家の生活用水循環システム~

柴 早苗・高橋朝子(Webあまみず編集部)

写真1 鈴木有さんは、伝統的な家づくりを現代に適応させてご自宅を改造・増築された。ボタン一つで快適に便利に暮らせる現代ではあるが、自然素材をふんだんに使い自然に寄り添う住まいは、心豊かな暮らしの場だとおっしゃった。

写真1 鈴木有さんは、伝統的な家づくりを現代に適応させてご自宅を改造・増築された。ボタン一つで快適に便利に暮らせる現代ではあるが、自然素材をふんだんに使い自然に寄り添う住まいは、心豊かな暮らしの場だとおっしゃった。

新幹線の米原から京都方面に行く琵琶湖線に乗り換えると、電車の中は夏休み中の学生や通勤客で結構混んでいました。車窓から緑の田んぼが琵琶湖までずっと広がって見えて、コンクリートに覆われた東京都とは違うところに来たなぁと実感。近江八幡の次の篠原という駅で降り、歩くこと数分。事前に鈴木有(たもつ)さんから送っていただいていた資料の写真で見た家が見えてきました。

取材を思い立ったのは、今年度、当会で雨水の水質調査と会員の雨水利用の実態調査をして、鈴木さんの実践を知ったからでした。18年間雨水を飲用他家のあらゆる用水に使っていると知り、驚きました。

鈴木さんは、木質構造学、地域防災学、耐震工学を研究され、金沢工業大学名誉教授及び秋田県立大学名誉教授でいらっしゃいますが、「木の住まい考房」を主宰し、伝統木造建築の工法を現在の技術と融合した災害に強い家づくりにも携わっておられます(写真1)。

お話は、現在の住まいの近くで生まれ育った鈴木さんの子ども時代から始まりました。

終戦直後小学校低学年時代の生活の記憶がこの家を造る原点です

写真2 「生水(しょうず)の郷」と呼ばれる高島市新旭町針江地区の家々には、昔から水路に接して「かばた(川端)」という水場があり、用水を段階的に使う炊事の場になっている。(鈴木有さん提供)

写真2 「生水(しょうず)の郷」と呼ばれる高島市新旭町針江地区の家々には、昔から水路に接して「かばた(川端)」という水場があり、用水を段階的に使う炊事の場になっている。(鈴木有さん提供)

飲み水には、井戸やきれいな小川(用水路)がある地域は自然の水をそのまま使いましたが、ないところでは用水をときには雨水をろ過して飲んでいました。当時のわが家には、川の水をろ過する円柱形でコンクリート製の装置があって、中には砂と炭を互層にしてぎっちり詰めてあり、それを通した水を飲んでいました。

水を使うにしても優先度があり、水路から家の洗い場に引き込まれるきれいな用水を、まずは飲用に、次に茶碗・箸や鍋・釜を洗う、さらに野菜を洗い、最後は鯉を飼うところに流して残り滓などを食べてもらい、水路に還すようになっていました。「美しくいただいた水を美しくしてから返す」ルールがきちんとありました。今でも琵琶湖の西側、高島市の針江では、「生水(しょうず)の郷」として「かばた」でそのような水の使い方をしています(写真2参照)。

便所は、小便用と大便用で便槽を分けて設けていました。小便槽のものは汲み出してそのまま肥料として使い、大便槽のものは畑近くの肥溜めに持って行って発酵させ、大事な肥料としていました。

薪は燃料として貴重なものでしたので、夏季の風呂用には、「日向水」といって、日当たりのよい場所に大きなタライを置いて水を張り、太陽の熱で温めて行水することが、好天時は通例でした。

家の大改造をするきっかけになったのが20年前の阪神・淡路大震災でした

大震災発生の翌日には現地に入って、建物倒壊など被害状況をつぶさに見てきましたが、淡路島の断層近くで激震地になった北淡町の富島では、伝統的構法による木造住宅が少なからず耐え抜いていました。専門である最先端の耐震構造の考え方を根本から考え直しました。

また住民は、水道、下水道、電気、ガスなどのライフラインが寸断され、長期に不便を強いられましたが、最も困ったのが生活用水でした。私の子ども時代のように、身近に井戸や川の水などが使える環境であれば、どんなに助かったでしょう。以前から研究者の立場として、墨田区の路地尊や天水尊など雨水利用の取り組みにも注目していました。

こうして鈴木さんは、①伝統構法による耐震性能の高い家、②水やエネルギーのライフラインが自立できる家、③自然素材を活かして呼吸する家、④地球環境への負荷をできるだけ減らす建て方の家というの4つのテーマで自宅を大改造することを決意され、想いの込められた家が1997年に完成したのでした。

生活用水循環システム(図1)

数々の見どころがある鈴木さんの家ですが、雨水活用を中心に案内していただきました。

図1 鈴木家の生活用水循環システム(鈴木有さん提供)

屋根に設置した太陽熱温水器や太陽光発電のモジュールから支障のある物質が溶出することも想定して、その屋根を除き、3面の屋根から集水しています。

写真3 屋内駐車場の下にはコンクリート製16トンの雨水タンクがある。脇には雨水浄化装置と手押しポンプが設置してある。左側の写真は沈でん槽として使われている200ℓのタンク

写真3 屋内駐車場の下にはコンクリート製16トンの雨水タンクがある。脇には雨水浄化装置と手押しポンプが設置してある。左側の写真は沈でん槽として使われている200ℓのタンク

樋を介して集めた雨水は各々の屋根ごとに、サランネットのフィルタを通って初期雨水除去装置(仕組みは㈱トーテツホームページ「ぶんりゅうⅠ型」参照)付き200ℓのタンク(3槽あり・写真3)に導かれます。このタンクでさらに小さなゴミを沈でんさせます。タンクでオーバーフローした各々の雨水が、車庫下の鉄筋コンクリート製16㎥の貯水槽に入ります。そこからポンプで汲み上げられた後、車庫内にある浄化装置(写真3)を通して、台所、洗面所、洗たく場、浴室に給水されます。太陽熱温水器(240ℓ)にも行き、60℃に調温して各所に給湯しています。

雨水浄化装置は、ポリプロピレン製カートリッジ式50μmと5μmの2段階のフィルタと活性炭を通して塩素処理をしています。現在ですと、細菌も取り除くことができる0.1μm中空糸膜が販売されており、もっと簡易な処理ができるかもしれません。

きめ細かな運用方法と手間を惜しまないメンテナンス

通常は自動で稼働していますが、停電時や災害時を想定して手動の開閉用バルブと手押しポンプも隣に備えてあります。「いざという時には、車庫の手押しポンプで雨水を汲み出せば、ご近所の人たち一千人が3日間は生き延びられるでしょう」と鈴木さん。路地尊のポリシーがここにもあると思いました。

メンテナンスは、年に1回地下貯水槽の大清掃、雨水浄化装置のフィルタを定期的に交換、月に1、2回はネットフィルタの清掃と200ℓタンクの泥抜きを行います。「手間を惜しまないメンテナンスも、自然と向き合う豊かな暮らし方の一つ」とおっしゃいます。

生活用水循環システムの実際

写真4 台所、浴室、洗面、洗たく機の各所に雨水の蛇口がある。台所には水道も引いてある。

写真4 台所、浴室、洗面、洗たく機の各所に雨水の蛇口がある。台所には水道も引いてある。

浴槽は無垢の木(槇)製ですが、湯垢が付かずヌメリもできにくく、温かいうちに風呂水を抜くだけで手間いらず。洗濯物に色が着くこともなく、なんら不満を持ったことはないそうです。台所には汚れた野菜などを下洗いする雨水だけの蛇口も設けられています。なお、個人住宅の自家浄化なので、何が起こるかわからないと考え、台所と洗面所には直接水道水も供給し、飲用として常用できるよう二重配管になっています(写真4) 。今は飲用と炊事用のみ水道水を使っているとのこと。18年前の竣工以降、水道水の補水はしても水道料はずっと基本料金のまま推移しているそうです。

排泄、洗たく、炊事、洗面、入浴などに使った後の排水は、屋外車庫の下にある合併処理浄化槽(10人槽)に導かれます。処理水(中水)は、そのままトイレの流し水と散水に利用しており、ほとんど色も臭いもありませんでした。冬場は多少とも色が付くこともあるし、抗生物質を飲んだ時には影響が出るとのことですが、「バクテリア君が嫌がるものは流さない」と、ペットと同居しているような気持ちになられているそうです。また、庭木等への散水もその中水を使い、大地に還元しています。

奥深いエコロジーな家

写真5 トイレの洗浄水は合併処理浄化槽の処理水を再利用。 写真6 電気が止まっても屋根にある太陽光発電と温水器による給湯は心配ない。 写真7 生垣を高くして夏場のグリーンカーテン、防火帯としても機能する。冬は日差しが入るように枝を剪定する。 写真8 家具は天井までの隙間を埋めるようにすると倒れない。扉も二重のストッパーで止める。 写真9 障子を下げるとやさしい光が室内に入ってくる。 写真10 居間にある薪ストーブは冬の暖房と調理に利用。扉付きの左部分に薪を入れ、右部分はオーブン、上には薬缶や鍋を置く。暖気をファンで二階に送り、家中が温かくなる。

鈴木さんの家は、屋敷林を連想する緑濃く背の高い生垣、ソーラーパネル(5.2kW) がずらりと敷き詰めてある屋根、焼き杉の壁に琵琶湖産の葭簀が掛かる窓など、和風建築の肌合いが心地よい家です。居間の椅子席と隣接する畳座の部屋からは、目線に応じて障子を下げると、日差しを遮る木々の緑が眺められ、やさしい光が入ってきました。室内は柔らかな色合いの漆喰壁、無垢の分厚い杉材の床、調理ができる薪ストーブなど、エコロジカルな生活空間が広がっていました。また、障子のデザインや防災面でも随所にこだわりがあり、日々の暮らしの豊かさに只々感嘆するばかりでした。氷水で淹れていただいた天竜奥山産のお茶がまろやかでおいしく、涼しさを誘う近江老舗のお菓子も最高で、満足感いっぱいの取材になりました。

鈴木さんには、私たちの要望に合わせてタイトな時間の中、雨水活用を中心にテーマを絞って丁寧に説明してくださり、あらためて感謝申し上げます。

 

 

 

 

 

参考文献
  • 「雨も嬉し、晴も好し―伝統の智恵に学ぶわが家の生活用水循環の仕組みと災害への備え―」鈴木有・鈴木ゆみ、財団法人日本建築防災協会『建築防災』、2002.2
  • 「エコロジー住宅で地震に備える―伝統民家を創る智慧と技に学んで―(その1)ライフラインの自立」鈴木有、財団法人日本建築総合試験所『GBRC』第121号、2005.7
  • 「生活環境主義で行こう! 琵琶湖に恋した知事」嘉田由紀子語り・古谷桂信構成、岩波ジュニア新書(160頁~165頁)、2008.5

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